暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

¥1400「パークホテル」 西成安宿探訪 20日目

西成ホテル探訪・二十日目

ひと月ぶりの更新になります。
サボってしまって、スミマセンでした。じつを言いますと、いろいろと事情が変わってしまった、いわんや激変したこともありました。ご容赦ください。
その辺の事情については別掲します。

nishinari-lives.com

 

 

今日は日曜日。
初の明るい時間帯にホテル探し。
西成のホテルを巡っていると「コレは、アンパイだなぁ」という物件もある。¥1000付近の価格帯を狙うルールに準じていると、アンパイよりは危険水域に近づく訳ですが。

見た目まっとうなビジホ

あいりん地区の二大公園の一角、「四角公園」に面した
「パークホテル」

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室外機が全室に取り付けられているのがお解りでしょう。エアコン標準。
その辺のオフィス街にあっても遜色ない外観。HPもあるので、大変敷居が低い。ホテルがホテルであることの、なんでも無いようなことが幸せだったと思える宿だろう。二度とは戻れない夜。

www.park-hotel.biz

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「リラクゼーション」って書かれると、若干フーゾク感が漂いますが。実際、僕のまだ西成にこなれていない風体を見て、

「初めてですか?」

って、受付の方に言われることも多いので、よりフーゾク臭が高まる。今日も言われたし。
一泊のみなので、カギは要らないことを告げると、

「ただ、盗難があってもコチラは一切責任取れないですよ」

と念を押される。
西成安宿の慣例に従って、靴を脱いで入館していたら、通りがかりの宿泊客に「土足でええんやで」と教えてもらえた。ありがとうです!

そして、アメニティをくれた

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タオル・歯ブラシ&歯磨き粉・髭剃り
「夜景の見える展望大浴場」
を打ち出している関係上、タオルもくれているのか。ただ、タオルの質としては「匁=もんめ」が160にも満たないであろうペラッペラさ。お年賀タオル的。
匁で測るタオルのクオリティは、ストッキングにおけるデニールと近い。厚けりゃイイわけではない。薄いモノには使用用途や使い勝手次第の利点もあるでしょう。 


受付の30代後半くらいの男性は、

「なんか分かんないことあったら、なんでも聞いてくださいね!」

と、大変親切な方であった。

調光できる天井照明

現状は施錠されているとのことで、一旦カギを借りてエレベーターで7階で。
エレベが2基あるのも、ストレスを軽減してくれる仕様。ベータのカゴの中で先輩たちと一緒になっても話しかけれないしな、愚図だから。

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部屋はスタンダードな三畳一間。
シーツは大変清潔で髪の毛一本ない。ゴミ箱にしっかり袋はあるし、暖房の効きも好調。そして、照明がシーリングライト調光リモコンがあるのが画期的!アイリスオーヤマ
やっぱり、天井から紐が伸びている昭和感が切なくなるんです。

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ただ、近くで見るとフード内に虫の屍がいっぱい。
他の箇所が清潔度満点なだけに、ちょっとしたキズである。贅沢な要望です。

ここまでやっているのに、意外にもというかテレビはブラウン管。見ないから問題ないです!

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消えていくパスワード

カギを返しに受付に戻る際に、Wi-Fiパスワードを尋ねると

「何階でしたっけ?7階ね。あのね、エレベーターの横に貼ってありますよ」

とのこと。確認すると、

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読めんな。

6と8と3と9の区別が付かない。4回くらい入れ直して無事繋げられました。

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トイレにあったコレ。
なんでしょう?少し怖かったです。

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「夜景の見える展望大浴場」入れず

部屋に戻って、しばらくして昼寝をかましてしまう。
清潔なシーツも手伝ってか、4時間ばかし落ちてしまう。
結果、大浴場の時間から漏れました。残念。
以下、夜中の大浴場近辺の画像です。

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1階のロビーには、テーブルやソファ、マッサージチェアが置かれてラグジュアリーですね。シャンデリアも!

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花粉症の味方

僕は花粉症。今年はかなり飛散が華々しい気がします。
西成安宿にはティッシュが常備されていないので、テメエで持ち込む必要があるのですが、「パークホテル」の洗面場のペーパータオルが備え付け!
かなり組成が粗いので、鼻肌が負けそうになりますが、ありがたかった。

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パークサイドは夢の中

公園が見える窓っていいですよね。
無邪気に遊ぶわらべたちの声。それを見守る人妻たちの語らう姿。さらに、近隣の窓から人妻を見守るオッサンの影。いいですよね。

しかし、「パークホテル」から見える四角公園からは、オッサンたちの語らう姿しか見えませんでした。

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パークホテル

Google マップ

宿代:¥1400

三畳/コンセント5口/トイレ共同/布団(シーツ綺麗目)/鍵(保証金1000円)/内鍵/喫煙/灰皿/館内土足/一泊OK/ハンガー/ハンガーポール/フック/テレビ(ブラウン管!)/カーテン/個別空調(効き良し)/ゴミ箱(袋つき)/窓/スリッパ/シーリングライト(調光リモコン)/エレベーター/自販機/大浴場(体験出来ず)/冷蔵庫/アメニティ(タオル・歯磨き・髭剃り)/門限0時/洗面場にペーパータオル/ロビー/マッサージチェア/公衆電話/Wi-Fi(良好)

 

清潔度 ★★★★

フロント★★★★

サービス★★★

価格  ★★

総合  ★★★★

 

食費

なし


西成に落とした金額

計:1400円 

「ゴミ出し(住居からの)」 西成の仕事内容解説

西成仕事解説

ゴミ出し(住居あるいは廃屋から)

①主のいない住居があります

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②トラックがやってきます

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③家屋から家財道具をトラックの荷台にブン投げていきます。

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ユンボがやってきます。

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⑤ショベル部で、ゴミどもを圧縮していきます。

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⑥荷台が満杯になったら、トラックはゴミの奴らを捨てに行きます。

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⑦ ③から⑥の工程が繰り返されます。

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⑧住居をカラにして、掃除をしたら終了です。

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以上、が「ゴミ出し(住居からの)」です。

 

 

100均セリアのキッズブロック。
老眼が進んでいるので、組み立ては辛かったです。

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ブロックを使って、まったく意味のないモノを作ろう!
と、小一時間取り組んだのですが、無駄にシンメトリーにしたくなったり、この世にすでに存在する「なにか」みたいに、どうしてもなってしまいます。

中原浩大のレゴ作品は偉大ですね。

なにも作りたくない。
という意識を持続させながら、手を動かし続けたら、なにものでもないなにか、が出来上がるのかも知れません。そんな境地にたどり着きたい。

僕の作った「なにか」は平凡でした。

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西成で働く。2日目~②ただただ無知な私

西成労働日記・二日目②

前回からのつづきです。

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 装備を怠る愚か者

感じたのは「皮手袋」の素晴らしさ

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大モノのタンスやテーブル、ベッド、造り付けの家具などはそのまま階段下まで運搬できない。2階でバールなど、バールのようなもので粉砕して小分けされた形で木片などを運ぶ。その際、木粉やささくれができるし、鏡やガラスなどもブチ壊して運ぶ。

 そんな時、皮手袋は心置きなく、鋭利なガラスの尖端部などを気にすることなく触れる。おそらく、前回使っていたゴム手袋だとすぐに破れていたに違いない。
装備品の大切さ。『ドラクエ』あたりでもっと学んでおくべきだった。「かっこよさ」や「みりょく」が減じても、「しゅび力」や「耐性」のつく装備を身に付けておきたいものである。できれば「すばやさ」も上げたい。

棟梁が帰ってくるまでの間に、
3階のベッドと30インチ相当のブラウン管テレビ。
2階の大型3ドア冷蔵庫、小型2ドア冷蔵庫。
を、下まで運ばねばならない。

野口さんがベッドを解体している間に、ブラウン管テレビをなんとか独りで運ぶ。ほとんど階段を滑らせたが、階段自体を崩壊させてしまっては、足場が無くなる。頃合いで運ぶ。意味なくブラウン管を、バールのようなもので叩き割った。ジャパンバッシングのとき、アメリカの労働者が日本製テレビを壊していたときのように。
ブルース・スプリングスティーンの『Born in the U.S.A.』を口ずさんだよ。

野口さんはかなりマイペースにベッド解体中なので、必然、僕が3階と1階をゴミをかかえて往復する。「すばやさ」がかなり衰えてきた。愚鈍誕生。

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冷蔵庫はバラすのこと

2階に鎮座していた3ドア冷蔵庫がどうしても、階段まで出せない。

「どうやって入れたんや、コレ」野口さんも不思議モード。

冷蔵庫の全長が高すぎて、鴨居にどうしても引っかかる。鴨居をぶち壊せればいいのだが、家屋の破壊はNGである。

ということで冷蔵庫の方を破壊。バール大活躍。プラスチックの部位を取り外しなんとか階段の踊り場までは移動させたが、これをどうやって下まで降ろすの?

「やー、怖い。怖いです。潰される気がします!」思わず懇願。

当然のように、階段下に配置されたので、必死に3ドア冷蔵庫の全荷重を全身で受け止める。受け止められない、って。
正直、上にいる野口さんはなす術なし。ここは僕のチカラが試されている!片仮名でチカラと書きたい。西成チカラ試し。

少しずつ、少しずつ、階段を滑らせる。
ただ、時間がかかるほどに3ドア冷蔵庫を支える体力が削られていく。
じょじょに、じょじょに、ご安全に。
なんとか、壁や階段を壊すことなく階段下まで3ドア冷蔵庫を降ろしたときには、クソ汗だくであった。

「もう、今日仕事終わっていいんじゃないスカ?」と言ったら、野口さんはただ微笑んでいた。

 

その後も、両手で家財一般をかかえて、ひたすら階段を行ったり来たり。時には、野口さんと協力しながら大モノも。
ふと、野口さんが、

「コミュニケーション取れる人で良かったわ。話が通じん人も多いから」

と言って笑った。

昼飯はカチカチ

まだ、棟梁は一回目のゴミ捨てから戻ってこない。

「いま、何時かね?」

「11時45分です」

「昼にしよ」

フレキシブルな現場判断で昼にIN。

一応、朝もらって、リュックに縦入れした弁当を広げてみる。冷え冷えである。
数時間前は、あんなに暖かかったのに。
「ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで」

でもキレイな顔はしてる。胃に放り込めば一緒。あったかいお茶を自販機で買い、廃屋にもどり寒風吹きすさぶなかで食事。
カチカチ白米。ソースコロッケ。コロッケの下敷きのソース焼きそば。ウインナーのかけら。餃子。卵焼き。きゅうりの漬物。
バランス悪そうだなぁ。でも、胃に放り込む。お茶で流し込む。

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午前中の作業で、左足のふくらはぎが痙攣している。
そして左足太ももの前面も痙攣し、小刻みに筋肉が波打っている。
しっかり食って、休めないと。午後の作業での身体がもたない。

 

買い出しに行っていた野口さんが戻ってきて、少し話す。

「冬場で待機所もないと外仕事はキツいですね」

「まあ、そやね」

「夏のクソ暑いときと、どっちがキツいですか?」

「冬の方がエラいんちゃうかな」

野口さんは基本スポーツ新聞の競馬欄に目を落としたまま答えてくれた。

暮らしの名残

この住居の住人は亡くなったのだろうか。
まるで、夜逃げでもしたかのように、食器や毛布、ティッシュや歯ブラシなどがそのまま残されている。それら細々したモノすべてを空にしていく。

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「コレやっていると。お宝とか見つけられるんじゃないですか?」

「どうやろ。さっき、棟梁が100円拾っとったけどな」

僕も、じつは1円玉を2枚拾った。ボーナス発生。

 

棟梁が空にしたトラックで戻ってきてからもゴミ出しは続く。
永遠に思える時間も、延々に流れる工程も、終わりが見えてきた。3階、2階と空になった空間を野口さんがホウキで掃除していく。
僕は、ひたすら階段の上下を繰り返す。
左足の2ヵ所の痙攣はまったく収まらない。気にすることなく「ハァ、ハァ」と肩で息をする。

「なんや、根性ないなぁ。若いのに(笑)」

棟梁に笑われてしまった、確かに、この現場では一番の若手。体力が無さすぎる。すみません。コレを毎日なんて、気が遠くなる。
5時までかからずに終わる!終える!
そう確認しあった僕と野口さんはペースを上げて作業した。

と、棟梁が

「3階のベランダのブロックと物干し台。残っとるな。アレやったら、大ハンマーで割って運べ!」

んー。アレも運ぶんかい!
ずっと、外気にさらされて土や水分をたっぷり含んだ海綿体状のブロックは重たかった。これだけで20往復。

そして、残ったのは、物干し台。コレが激重!なので、ハンマーで叩き割って分割する必要がある。

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僕はハンマーを持ち上げ、振り上げ、降り下ろし、なんとか物干し台を壊そうとする。
が、上手くいかない。疲れる。もうイヤ。

すると、棟梁がベランダにやってきて、

「違わい。下からや」

と言い、ダウンスイング。ゴルフクラブを振るように大ハンマーを動かす。
と簡単に台座は割れた。
たしかに、ヘッドが重たいハンマーを振りかぶる必要はない。重みを活かして、そのままの力を移動させ、対象物に充てればよいのだ。
道具の使い方を勉強できた。
なんてバカなのか、私は…。

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映画少林寺三十六房だったか、少林寺系の映画で観たことがある。

ハンマーのような武器を、まさしく僕のように肩より高くかかげて闘おうとする練習生に向けて、師範が「お前は武器の使い方を知らんな」とののしり、重たいヘッド部分を身体に近づけ、持ち手の柄の部分を器用にあやつって、敵を倒していたシーン。

映画を観てても、一向に知恵を授かっていない。愚かだ。自分の無力さにあきれるばかりである。

 

16時前、終了。

「キツそうやったな」

「はい。疲れ果てました」

「今日は、ラクな方やで。もっと厳しい現場ばっかりや」

棟梁に言われてしまう。ホントにこんなこと毎日やっている西成の人たちは超人なのか。恐ろしい。情けない。

ジャストのビール

前回の現場とは違って、今回は一旦西成に戻らないと、お金はもらえないらしい。

駅まで、朝来た道を戻る。朝方閉まっていた商店群は活気づいていた。
と、野口さんが「ちょっと」と脇道へ。

酒の自販機で、アサヒ・スーパードライ ロング缶を270円で購入。

「いま、飲むんですか?」

「いや、電車の中でな」

自販機で買わない方が、安く買えるのではないか?と思ったが、口にはしなかった。
野口さんは持参のトートバッグの奥にビールを押しこんだ。

電車を乗り換えながら、西成へ。

「座れた―!」

仕事を終えた野口さんは楽しそうだ。
そして、ゴソゴソと先ほど買ったスーパードライを取り出し、タブを開け、飲みだした。

「ここで飲むんですね!」

「そう、このタイミングや」

やがて、西成至近の駅に着く直前、野口さんのスーパードライは空になった。

「タイミング、バッチリですね!」

「そやな」

車窓から見える空は、まだかろうじて明るい。

「明るいうちに帰れましたね」

「そうやな。なんとかな」

と野口さんは笑った。笑顔はステキだが、歯がほとんどなかった。
歯がないからステキなのかも知れない。だけど、僕は歯を大事にしようと思った。

今日のお給金は?

朝、待機していた事務所にもどる。

三々五々、それぞれの仕事を終えた人々が集まっている。

書類書きは野口さんがやってくれるというので、ご厚意に甘えることにする。

「すみません。今日は、ありがとうございました」

野口さんは、帰りの電車で一瞬見せた快活さを再び押し殺し、軽く手を振ってくれた。

 

いつもながら、やること・やる場所・報酬、一切知らずに働いて今日得たお金は…、

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11000円。

もう、この金額が適正な額なのかどうか?の判断が麻痺している。
左足のダメージ、流れ出た汗、止まらない鼻水、上がらない両手、痛む腹筋。

これが、西成労働二日目の記録です。

 

日付:2021/1/9(土)
場所:大阪市近郊
現場:廃屋清掃
内容:ゴミ出し・掃除・解体
時間:7:15~8:30~16:00~16:55
待遇:昼飯アリ
給与:¥11000

西成で働く。2日目~①偶然が仕事を呼び込む

西成労働日記・二日目①

2021年1月9日、土曜日。

前日は、「宿 末盛」に宿泊し、ヌクヌクと眠り、翌日(つまり今日)の西成労働を祈念していたのだが、まさかのというか確信犯的に三度寝をかまし、時刻は7時近くになって宿を出奔。
「もう、今日は働けないなぁ」と薄ら笑いで、地下鉄の駅に向かう。

しかし、せっかくだからと踵を返し、通常ならば日雇い「現金」仕事の手配師の人々がいる方向へ足を向けた。
気分はすっかり休日モードで、「喫茶店でモーニング」「どろぼう市見学」を念頭に歩き出したら、車のそばに立っていた男性に声をかけられた。

「現金行かんか?現金あるよ」

こんな時間で、仕事あんのか!ただ反射的に、

「行きます。お願いします」
と答えている自分が居て、我ながら我が耳を疑ったのだった。我が発声を、と言うべきか。

前日の様子はコチラ

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覚悟せずに始まる一日

前回、西成で日雇い仕事を探していたときには、「早朝5時でも遅いくらい」と聞いたのに、7時を回っても現金仕事はあった。

すぐに、車に乗り込むよううながされ助手席に滑り込む。

「手帳持っとる?」

「手帳ってなんですか?持ってないです」

「持ってないならいいの。むしろ、持っとったら面倒や」

「そうですか」

「持っとったら、むしろコッチから『ごめんなさい!』な感じなんや。持ってなくいいよー」

終始笑顔でテンションの高い男性は、車を走らせる。
おそらくは、雇用および健康関連の保険の「手帳」の所持を確認したのだろう。それらは、雇う側からすれば「面倒」なのだろう。

「その服は汚れてもいいんやね?靴は?」

「安全靴です。ただ、ゴム手袋しかないんですけど、大丈夫ですか?」

「なら、皮手袋あげるわ。ヘルメットも無いなら、貸すわ」

じつは、履いていた靴も安全靴ではない。なんとかなるだろう。

「こんな時間から、仕事あるんですね」

「ちょっと、今日人手が足りんでね。助かったわ」

喜ぶべき偶然か、悲しむべき必然か。とにかく、今日も西成で働くのだ。

 

やがて、事務所のようなところに着き、手配師の男性から車のトランクに入っていた新品の皮手袋を渡される。新品だ!得した!と喜んでいる間もなく事務所の中へ。

「ひとり!連れてきたでー!」

連れてこられたでー。

 

簡単にペラ一の書類を書かされている途中に、手配師の方が僕の靴を触った。

「これ、安全靴?」

「ああ、大丈夫です!先っぽには鉄板入ってますから!」

まったく、安全靴ではない。この大嘘が大怪我につながることもあるのかも知れない。次回は絶対に履いてきます!
この次回がないかも知れない。取り返しのつかないことになる場合もあるのだろう。
今、振り返って思うのだった。

「それじゃ、飯もらって!これ、ヘルメットな」

メットを受け取り、事務所内にある食堂スペースで、弁当を詰めてもらった。
食事付きだ!得した!と喜んでいる間もなく、待合いスペースに連れて行かれる。
これは、朝食扱いなのか?昼飯としてもらったのか?今、食うべきなのか?と、悩みながら待つ。惣菜は冷えているが、白米は温かい。今、食う時間あるのかな?

事務所内には、呼び出しを待っている他の方が数人。誰も弁当を食っていないので、食べる勇気が出ない。やっぱり、野菜が不足するなぁ、と弁当に入っているラインナップを眺めていると名前を呼ばれた。慌てて、弁当をリュックに詰め込む。縦に入れた。大丈夫だろうか。汁もんはなかったから大丈夫だろう、多分。

「それじゃ、この人と一緒に行って!」

事務所に着いてから、わずかに20分ほど。
待ち時間がやたら長いのもツラいが、こうサクサク進むと不安も増す。またも、働く場所も、内容も、給料額もわかっていない。こんなスピード感と情報不足で挑む仕事ってあります?

パートナーと電車で移動する

「よろしくお願いします」

先輩の男性は60代後半か、厚手のパーカーに、ディッキーズのキャップ、細身のジーンズ。靴は泥と土で汚れている。膨らんだトートバッグに装備が詰まっているのだろう。
東映ピラニア軍団の、野口貴史に似ている。結局、最後まで名前がわからなかったので、以降野口さんとします。

正直、名乗ったり、挨拶を交わすことは必要ない。むしろ、邪魔。
誰もがその日会って、数時間後には、ただ別れて行くのだ。

 

「ほなら、電車で行くわな」

「場所どこですか?」

「〇〇の方やね。乗り換えて行くわ。絶対8時に間に合わんけどな(笑)」

「間に合わんでも大丈夫なんですか?」

「知らん。この時間に出たら、そうなるわな(笑)」

駅では、野口さんが2枚切符を買い、領収書を発行し袋にしまい、コチラに1枚切符を渡してくれる。
野口さんは無駄に歩かない。ホームの端で電車を待つ。

「人手が足りない日だったんですか?」

「わからん。俺は6時から待っとったんやけど、全然呼ばれんから。寝とったわ」

「土曜でも仕事はあるもんですか?」

「まあ、今日はあった。ということやな」

「日曜はないですか?」

「日曜は仕事せんやろ。普通」

 

野口さんは言葉少なであった。
席が空いているのに、座らず乗降口のそばに立ち、車窓を眺めている目は澄んでいた。
野口さんは、ちゃんと僕が付いてきているかどうか、時折確認しながら一度乗り換えをし、40分ほどかけて〇〇駅に着く。

「一回、若い子やったけど。現場に着く前にどっか行ってもうてな。もう、知らんって。勝手に消えたんやわ」

「働く前にイヤになったんでしょうね」

「知らんけど、迷惑な話や」

僕も、逃げ出したかったんだけど、本当はね。
もしかしたら、野口さんは逃げ出さぬように、会話で先手を打っていたのかも知れない。

現場近くの駅に着くと、野口さんは駅のトイレに寄り、改札を出るとコンビニで、コーヒーと菓子パン、スポーツ新聞を買った。

「今日の仕事、何するんですか?」

「まあ、ゴミ出しちゃうか?」

「ゴミ出し」か。なんのゴミなのかは、まだわからない。

古い家屋の、現場に着く

人気の少ない、商店街を抜けて行く。

「寒いなぁ。西成よりだいぶ寒いわ」

野口さんは、歩きタバコで鼻水をすする。ケータイを持っていないようで、しかも地図を一度も見ずに、時折、商店街の脇道を確認しながら進んでいく。
「この人、現場の場所、わかってんのかなぁ」と不安になった頃、

「ああ、あれやな。まだ、来てないわ」

取り壊しの途中のような、壁をブルーシートで覆われた古い家屋。今日の現場はここだ。
1階部はキレイに片付けられており、もぬけの殻。むき出しの畳。畳の日焼け跡を見るに、家財道具はすでに運び出されたあとのようだ。
野口さんは、ズンズンと土足で上がっていき、スポーツ新聞を広げだす。

「待ち、ですか?」

「んん、まだ来てないから」

「これを壊すんですか?」

「いや、片付けやろ。多分、2階はまだやろうから」

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すっかり落ち着いた野口さんを残して、狭い木製の階段を登ると、2階部にはまだタンスや机、台所の食器棚にもそのまま生活の跡が残っている。
3階もある。
3階は寝室になっていたようで、ベッドとテレビ、タンス。ベッドは介護ベッドのようで、マットレスに猫のもののような毛が大量に付いている。タンスの引き出しにも、物が詰まっている。ベランダが二面あり、物置や洗濯置場になっていたようだ。
これを全部片付けるのか!大量!大漁!!

「3階もありますね。凄い量ですよ」

「そうなん?まあ、やるしかないわな」

 

やがて、一台のトラックがやって来た。
70代くらいの作業着姿の棟梁が車から降りてくる、

「なんや、遅かったな。人おらんかったんか?」

「そうみたいです。僕は、7時ごろ拾われたんで」

「そうか、じゃコレ書いて!」

野口さんと僕は、棟梁が渡してきた書類にサインし、仕事開始!
時刻は、9時近かった。

「今日で全部ゴミ出さなアカンからな。頼むで。まず、タンスとか机とか木のヤツ全部降ろして」


玄関の引き戸を外し、準備万端。
物で溢れた2階から開始である。

「俺は、ユンボとってくるから。どんどん下に下ろしてやー」

狭い階段に苦労しまくる

古い家屋のため、階段の幅は100cmほどしかない。
その幅ギリギリを攻めながら、タンスや椅子を下ろしていく。

階段で大物を下ろすときには、下になる方が危険だ。上に居る持ち手が手を離せば、下手に居る人間はタンスの急降下で潰されてしまう。

もちろん、野口さんが上
僕は下

どうやら、家財道具以下、家内は全て片付けねばならないが、家屋自体は壊してはならないらしく、家が壊れること前提でタンスや食器を放り投げるわけにはいかない。慎重に運び出す必要があるのだ。

階段を滑らすように大きなタンスを1階に運ぶ。階段の下側を担当する僕は、胸や顔でタンスが滑り落ちるのを抑えつつ、力を加減しながら下におろす。
怖いわー。疲れるわー。

トラックの荷台にタンスや机を載せると、棟梁がユンボを操作して、潰して嵩を減らしていく。こうしてトラックの荷台を家財道具でパンパンにするまで運び続ける。
ホコリが凄く、マスクをしていたいけれど、呼吸が苦しくなり、結局塵も埃も吸い続けながらの作業。

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大物が終わったら、タンスの引き出しや椅子、神棚など木製のものをどんどんトラックに投げ入れる。
当然、2階と3階から、1階そしてトラックの間をひたすら往復することになる。

野口さんは、バールで中途半端な大きさの家具を破壊する役割を担ったので、必然、僕が何度もその往復を繰り返すことになる。
すっかり、汗だく。

「おお、汗かいとんかい(笑)こない寒いのに」棟梁に笑われる。

そう、もう汗だくだく。
膝も笑ってきた。笑われて、笑って、感情大爆発である。

 

いつの間にか、10時半を回っていたようだ。棟梁に冷たい缶コーヒーを奢ってもらい、休憩。

「〇〇ちゃん!今日は、息子がよう働いてくれてラクやな(笑)」野口さんに棟梁が話しかけている。

「いくつや?」

「46です」

「息子とは言えんか。その年でドカタも辛いなぁ(笑)」

まったくもって、ツラいです。肩で息をしながら缶コーヒーをすする。
棟梁も、野口さんも涼しい顔をしている。
この現場で汗だくなのは、僕だけ。バカみたいだ。汗で濡れた服が寒風にさらされて冷えてくる。なんとか、日なたを探して座り込む。しかし、1月の寒空には変わりない。
休憩する場所もない現場。冬の現場は、ただただ寒い。

 

「それじゃ、一回荷物捨ててくるから。戻ってくる前に、冷蔵庫とか電気関係全部下ろしといて」
棟梁はトラックで去って行った。

そうだ!冷蔵庫とか、どうすんだ!
あの3ドア冷蔵庫。タンスより数倍むずかしそう。

休憩後の「冷蔵庫とのバトル」は、次回に持ち越します。
もう、しんどいです。

 

¥1400「宿 末盛」 西成安宿探訪 19日目

西成ホテル探訪・十九日目

もう、もう寒空の下むやみやたらに、歩き回りたくはない。

ということで、事前に楽天トラベルで予約。

「宿 末盛」

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じつは、この安宿は以前一度訪ねてみたのだが、飛び込みではダメ、ネットから予約してくれと言われた。ので、実施。

以前、楽天トラベルから予約した「ビジネスホテル 加賀」と同じく、銭湯入浴無料券が付いてくる。

nishinari-lives.com

銭湯の番台とホテルの受付を同時にこなす訳にはいかないので、当然宿の方はガラ空きになる。こんな貼り紙。徒歩15秒。従う。

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銭湯の番台でチェックインする

「末盛湯」

なんとなくモリエールと語感が似ている。だから、どうだと言わないで欲しい。

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男湯から入って宿泊の旨を告げる。
番台には、70代くらい眼鏡をずり下げてスマホをいじっているオヤジさん。

「はいはい」と、ビニールケースに入った書類を取り出し、

「それじゃ、コレ。部屋は313ね。くっつけてる銭湯券、ピリッとはがして持ってきたらお湯入れます」

ピリッと、の言い方がこなれている。
奥の女湯の方から、奥さんらしきお母さんも声をかけてくれる。

「朝もね、6時半からやってるから、朝入ってもいいのよ。好きな方でね」

優しい。そして、カギの保証金説明をオヤジさんが。

「宿代は1400円。カギの保証金が1000円で、2400円ね」

ここで、最近覚えたテクニックを披露することとする。

「明日、朝5時頃出ちゃうので、カギ返せないですね」

こういう交渉をして、吉と出れば、ならカギは部屋に置いといてー
凶と出れば、ならお前はカギ無しだよ!盗難の恐怖に震えて眠ればいいさー
となる。

今回は前者。

オヤジさんは、ちょっと不服そうだったが、お母さんが奥から助け舟を出してくれて、
「それなら、部屋の机の上に置いておいて!どうせ、10時には掃除に入るからね」と。
どうも、どうも。銭湯に行くのに、施錠しないのは少し不安なので、ありがたい。
しかも、

「そんな朝早いなら、今日ゆっくりお風呂入んないとね」

と言い添えてくれた。再び、優しい。

「それじゃ、後からお風呂貰います!」

と告げて、15秒先の宿に戻った。

監視の目の無い宿

受付に人が居ないとなると、ほっとかれてる感が無くはないが、気が楽でもある。このスタイルで宿経営が維持できているということは、さしたる問題もないのだろう。

シャッターが降り、無人の「フロント」の他に1階には、自販機とコインランドリー。

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建物自体は5階建て。最上階には、小さなベランダ状のスペースがあった。整然として薄暗く、古い団地のような雰囲気。トイレの大は和式だが、清潔さは保たれている。小便器の朝顔の下に新聞紙が敷かれているのは、掃除の簡略化のためだろうか。
各階に電子レンジもあった。

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このエレベーターが、不安を覚えるほどゆっくり動き、扉が開くと「ンビーッ」とけたたましい音をたてる。下痢気味のベーターであった。

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あのご夫婦2人で、宿も銭湯も、となるとかなり大変そうだ。もしかしたら、部屋の掃除が行き届いていないかも…と、気になったが最後、駆け足で今日の寝ぐら「313」へ。

清潔で快適

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んなこと、まったく杞憂であった。すみませんでした。

キレイな布団、底冷え対策のマットレス。まだ、新しい畳。すでに電源の入っている冷蔵庫。背の高いクローゼット。申し分なく効く暖房。しっかり拭かれたちゃぶ台。

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そして、なによりポイントが高かったのは、このゴミ箱にかけられたレジ袋。

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西成安宿には、1000円以上ならば、たいていゴミ箱はある。
しかし、何故かゴミ袋がかけられていない。生のままひとしきりかじったリンゴとか、どうやったって最後まで甘い液を吸いきれないパピコとか捨てる気にならない。

不思議だ。ゴミ箱とゴミ袋がニコイチだという意識があるからだろう。
ちなみに、もちろんリンゴもパピコも、まだ西成安宿で食べたことはない。

その点「宿 末盛」は、ゴミ袋がかけられているので、安心してゴミを捨てられる。すばらしい点だ。そして、当然ながらその袋はスーパー玉出のレジ袋であった。ふさわしい点だ。

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室内の液晶テレビは良好に点くが、イヤホンがデフォルトでぶっさしてある。まあ、ほとんどのテレビ番組は、字幕以下画面の情報量が厚いので、無音でも充分である。

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今日は、どうやら金曜ロードショー『パラサイト/半地下の家族』が放送されるようだ。たまには、テレビサイズでコマーシャルの入る映画を観るのもいい。その前に風呂っす。

 

ひとつ気になったのは、部屋の外側上部に取り付けられた、パトランプ
一体、いつ点灯するんだろうか。この小さなランプが赤く点灯するような事態って、なんだろう。

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ひとりきりの大浴場

15秒で戻って「末盛湯」へ。ピリッとはがした入浴券を持って。番台には、先ほど話したオヤジさん。もう、お母さんはいないようだ。

僕の先にはご老人2人だけ。女湯からも声も、音もしない。やがて貸し切り状態になってジェット風呂を満喫。そう言えば、関西の銭湯には銭湯画、壁画がない気がする。東京の銭湯には富士山が定番だけど。

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しこたまあったまって、着替える。

「今日は、空いてますね!」と番台のオヤジさんに話しかけてみる。

「そうね」

「いつも、こんなもんですか?混むのはもっと早い時間です?」

「どうやろ。こんなもんかもねぇ」

「宿もお風呂もだいぶ長くやられてるんですか?」

「銭湯の方が長いよ。宿はそんなに」

いまいち盛り上がらない。コミュニケーションとカンバセーションを盛んにしていきたいのに!そこで、話題転換。

「ここは、壁の風景画とかないんですね。あれは東京だけですか?」

「どうやろ。確かに、大阪ではあんまり見ないね。あれを描く人も減ってるんちゃいますか」

「そうでしょうねぇ」

「一回描いたら、終わりじゃないから。描き直ししていかなならんでしょ。だから、大変やわね」

残念ながら、僕の貧弱な会話術では、ここまでが限界であった。
アイスを買って、無人の脱衣場を眺めながら食う。

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「ありがとうございました」

「はい、よろしくー」

明日は「西成で働く」セカンドチャレンジに挑みたい。早めに床につこう。

部屋に戻るともう21時を回ってしまっていた。『パラサイト/半地下の家族』は、サイレント
でも充分楽しめた。劇場公開時に、3度観たからだが。
この映画のソン・ガンホは、自分にこびりついたニオイ。半端に貧しく、子悪党である己の発するニオイに起因して凶行に及んだのだったな。明日1日働いたら、また僕も誇らしくかぐわしい労働者の香りをまとうだろう。
リスペーークト。もう、寝よう。

 

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宿 末盛

Google マップ

宿代:¥1400

三畳/コンセント3口/トイレ共同/布団(マットレス)/鍵(保証金1000円)/内鍵/喫煙/灰皿/小机/一泊OK/ハンガー/フック/電子レンジ共同/テレビ(地上波のみ・強制イヤホン)/カーテン/個別空調/ゴミ箱(袋つき)/窓/コインランドリー(1階)/銭湯無料券(6:30-23:30)/エレベーター/自販機/クローゼット/冷蔵庫/棚

 

清潔度 ★★★★

フロント★★

サービス★★

価格  ★★

総合  ★★★

 

食費

ハッシュドポテト 100円

ファミチキ  180円

森永・バニラモナカジャンボ  140円

チェリオライフガードプロスタッフ  30円


西成に落とした金額

計:1850円

 

<追記>

翌朝は、「西成で働く」ために4時には起きるつもりだった。

実際、起きた。
そして、二度寝した。
あろうことか、三度寝までして起きたのは7時。

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昨日、番台にいたオヤジさんはこの時間からコインランドリーの掃除をされていた。

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こんな時間では日雇いの「現金」仕事はもう無いだろう。
「仕方ないなぁ」思わず口角を上げているであろう自分に気付く。

あいりん地区内の喫茶店でモーニングでもかまそう。
その前に、「どろぼう市」でも冷やかしてみるか?と、歩を進めたら…、

「現金行かんか?」

と声をかけられた。
信じられない。信じたくない。
けれど、スカウトされた以上、行くしかない

一応、予定通りだけど、想像もしなかった形で
「西成で働く・2日目」がスタートした。

ボロボロになった西成労働の模様は、次回につづく。

¥1400「ホテル アイワ」 西成安宿探訪 18日目

西成ホテル探訪・十八日目

寒い。寒い寒い。
今夜の大阪地方は、氷点下になるようだ。「氷点」といえば、凍ってしまう温度な訳なので、凍ってしまうほど寒いわけなので、寒いに違いないわけなので、寒さのあまり無駄な同語反復を繰り返してしまうほどのあり様。

ちなみに日本テレビの長寿大喜利番組「笑点」は、当時ベストセラーだった三浦綾子の小説のパロディとして名付けられたらしい。氷点下は極寒のイメージ。笑点下、もまた極寒のイメージがする。寒さは人を切ない気持ちにさせる。

 

今夜も一軒目の宿には断られてしまった。
「ホテル太子」は満室。

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玄関先には、正月の名残り。
「大阪簡易宿泊所生活衛生同業組合」とある。
「ホテル」や「旅館」ではなく、「簡易宿泊所」という扱いなのだな。
「ホテル 太子」こと「簡易宿泊所 太子」には、また来ます!さようなら。

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あいりん地区のメインストリートにもどり、いかにもまっとうな、スタンダード感のある安宿の門を叩く。

「ホテル アイワ」

一般的な3500円くらい取りそうな外観、雰囲気。しかし、看板には1400円と。
コチラもまた、泊まってみたくなるドヤである。思い出せないが、なんかのパロディである。

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受付にはうら若き女性が!

入って左手にある受付には、黒のスーツにまっさらな開襟白シャツ、使い捨てではないグレーのマスクを装着した見たところ20代後半の女性が!

このパターンは珍しい。
受付にいるのはたいてい、安宿経営ウン十年という香りがする方ばかり。

「今夜一泊できますか?」

「はい。大丈夫ですが…」

なにやら、眉をしかめて言い出しにくそうに話しかけてくる。

「このあたりで宿泊されたことありますか?」

ここは、大嘘をこきたい!

「いえ、ないです」

わりとナチュラルな演技ができた自信があります。

 

「そうですか。このあたりのホテルって、安いは安いんですけど、三畳しかなくて、冷蔵庫も無くて、お部屋にはシャワーもトイレも付いてないんですけど。大丈夫ですか?」

ありがとう!知ってます!知ってて訪ねています!
でも、ここはもう一回大嘘こきます。

「ええ!そうなんですか!だから、安いのかー」

「だから」のあたりで声を裏返してみたことでかえって、しらじらしい芝居になってしまいました。スタニスラフスキーシステムからやり直す必要がある。

 

「大丈夫です!」

「わかりました。すぐにお部屋ご用意しますね」

たいがいの安宿の受付スペースといえば、今は少なくなったタバコ屋の店先みたいな生活感が滲んでいるものだが、うら若き女性の座るその場所はSOHOみたいなオフィス感が漂っている。

 

「1400円です。それと、これもちょっと変わっていると思うんですが、カギをお貸しする際にデポジットで1000円お預かりしているんですね。よろしいですか?」

ありがとう!知ってます!ちょっと変わってるのに慣れました!
ただ、翌朝の受付業務が7時半からとのことで、一度自宅のマンションに戻る時間を考えるとギリギリなので、辞退。
今日はカギ無しで。

「少し早く出てしまうので、カギ無しでいいです。大丈夫ですかね」

「そうですね。ちゃんと内側からはカギかかりますから。ただ、こういう場所ですから貴重品などお気を付けくださいね」

「こういう場所」で働いているあなたに乾杯したいよ。ありがとう。

その後、シャワー(個室でカギが掛けられる。24時間使用可能)、風呂(22時まで)の説明を受け、領収書にWi-Fiパスワードが記載されていることも聞く。ちなみに、Wi-Fiの効きは大変良かった。

 

「それから、全室喫煙になってまして、申し訳ないです」

ありがとう!知ってます!僕もダメな喫煙者なんです!

 

「なにか分からないことがありましたら、私は10時半までコチラにおりますので、何でもおっしゃってください!」

ありがとう!お互い頑張ろう。会社から「こういう場所」のフロントを任されたとしても。

ドヤの面影は小ギレイに

1階の奥には炊事場があり、その手前に大浴場、シャワールーム、自販機などが並んでいる。

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部屋に向かう前に、5階までエレベーターであがり階段を下りる。
小ギレイにリノベーションされてはいるが、部屋の並びは他の西成安宿と同じ。1400円で共用スペースにも清潔さを感じられるなら、高くはないだろう。

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エレベーターの内部は、大阪ストラットであった。
確かにこの宿なら、観光客もそんなに抵抗ないのではないか。

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部屋は通常のドヤ感

さて、2階に戻って今日の寝ぐら「225」へ。

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デデーン!
どんなに器を小ギレイに整えても、中身は西成安宿そのものである。あなたは、私の青春そのもの。
ただ、壁にヤニ汚れはないし、布団カバーが地中海を思わせるクラインブルー。
そして、受付のお嬢さんの言うとおりシンプル極まりない。シンプルイズベストだ!と快哉を叫びたくはならないが。

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この感じでも、西成ドヤ初心者の方であれば一気に気持ちがドヨーンと落ちてしまうのではないか、と思う。それゆえ、受付の女性はあんなに懇切丁寧に説明してくれたんだろう。

シンプルさが極まっていたのは、コンセントの数にも及んでいて、まさかの一口。
使用するためには、テレビのコードを抜くしかない。これはもう抜くしかないね。延長コード必須です。

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畳も布団、カバーも小ギレイなのだが、布団のペラペラ具合がすごい。薄焼きせんべい。これは、暖房前提の仕様なのだろう。空調はキッチリ効いた。

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そして、かつてないほど隣人の声や、テレビの音が聞こえる。
じつは、この西成安宿探訪を始める前は、タコ部屋での隣の物音が気になるだろう、と予測していたのだが、実際はそうでもない。21時を過ぎると静まり返る宿がほとんどだし、うすーくイビキが聞こえることがあるくらいだった。

ただ、「ホテル アイワ」の壁はそうとうペラい。
隣のオッサンの「うーん」みたいな吐息まで丸聞こえだった。イヤホンして寝りゃいいけど。『壁のなかに誰かがいる』雰囲気は十分に味わえます。

そして、窓をキッチリ閉めても、すき間風がけっこう吹いた。誕生日ケーキなみに、吹きつけられた。暖房と相殺して、わずかに暖気が勝っていたが、薄焼きせんべい布団では心もとなかった。

ドアスコープもあった。
共同住宅という感じ。

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各階の、トイレや洗面も小ギレイ。
いつも、地下鉄の駅構内にある公衆便所で用を足してから、西成安宿に向かうのが僕のルーティンなのだが、ここは公衆便所以上。思いっきり放尿しましょう。

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酔っぱらって、道端で寝たら凍死する

学生時代、東京池袋周辺の公衆トイレを巡回清掃するバイトをやっていたことがある。

ちょうどその頃に、『モンティ・パイソン』を観ていたら、結婚の承諾をもらいに彼女の父親に挨拶に行く、というスケッチがあって、そのコントの肝は彼氏役のマイケル・ペイリンの職業が「トイレ掃除」だというものだった。「職業に貴賎なし」とか意識の高いことは当時思わず、「そりゃ、トイレ掃除じゃ結婚できないわな」と感慨深くなってしまい、ちょっとモンティ・パイソンが嫌いになった。

僕は経験しなかったが、同僚のオヤジさんはトイレ巡回の途中、寒い冬の朝、公衆トイレの個室で凍死してしまっているホームレスを発見したそうだ。
死体はとてつもなく重たかったと聞いた。

ホームレスの人たちにとっては、冬は受難の季節だろう。もしかすると、西成安宿もこの季節は満室率が高いのかも知れない。

なので、絶対に酔っぱらって道端に寝たりしたらダメだ。
それは、ここ西成でも同じ。
気をつけて欲しい。
と、夜メシを買いに外に出て、こんな光景を見て思ったのだ。

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死なないでね。

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ホテル アイワ

Google マップ

宿代:¥1400

三畳/コンセント1口/トイレ共同/シャワー共同(施錠・24H)/布団(せんべい)/鍵(保証金1000円)/内鍵/喫煙/灰皿/お盆/一泊OK/門限無し/ハンガー/フック/電気ポット共同/電子レンジ共同/テレビ(地上波のみ)/カーテン/個別空調/ゴミ箱/窓/コインランドリー/風呂(22時まで)/Wi-Fi/エレベーター/コロナ対策/自販機/カベ薄め/受付(22時半まで)/こういう場所に若き女性スタッフ

 

清潔度 ★★★★

フロント★★★★

サービス★★

価格  ★★

総合  ★★★

 

食費

ヤマザキ・大きなオムそば 138円
チェリオライフガードプロスタッフ 30円
バナナカステラ 106円


西成に落とした金額

計:1674円