暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

西成で暮らす。81日目 「母とスパイ」

2021年5月23日。

昨晩のうちにバスタブに湯を溜め、備え付けのボディソープをぶっかけ、汚れた衣類を素足で踏みつけて撹拌蹂躙しながら洗う。こういったストンピング攻撃による洗濯方法は、かつてはポピュラーであったはず。
ただ、大胆に衣類を痛めてしまっている罪悪感がある。
実際、普段からツーポーズしか着替えを持ち歩いていないため、下着のウエストゴムやTシャツの首のダルダル化速度が光速である。

浴室内の換気を最大化してみているが、なかなか乾きそうにない。
頑張れ!換気システム。

 

朝食バイキング会場に向かい、普段一切摂取しないビタミンなにがしの類を努めて摂取。
先週の木曜金曜と頭が痛く寝込んでいた際には、ブログのコメントで、おもひでさんやcatCさんに労いと心配のメッセージをいただく。
今や、お二人は僕のお母さんである。
僕は母のことは、「母ちゃん」と呼称しているので、それにならえば、お二人は僕の母ちゃんである。ありがとうございます。

ただ、そう言い切ってしまうと実母に対して僅かながら気が引けるので、実母は倍付けで計算させてもらい、僕には4人母ちゃんがいる!いる!と言い切らせていただきたい。
優しい母ちゃんは何人いても心強いので、もっとたくさん居てもいい。
目指せ『11人いる!』©︎萩尾望都

朝食ビュッフェ会場は、日曜の朝らしくビジネスや観光で利用しているらしき人々でいっぱいだった。隣のテーブルからは「朝食もついて、2500円しないとか、このホテル凄いね!」と話すドレスアップしたマダムの声が聞こえる。
漫画喫茶なら、ソフトクリームが食べ放題なんですよ!と底辺トークをしたくなったが、マダムの目には虫けらの羽ばたきにしか映じないと思うので、自粛。

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存分に弁当を配り続ける

朝8時からウーバーイーツを稼働。

午後帯に2時間近く配達依頼が滞る空白の時間があったが、概ね順調に仕事をこなす

日曜日のオフィス街に人はまばらで、そのせいか狭い道路を嘘みたいなスピードでカッ飛ばす車輌がいる。
15時あたりに、四辻を通り過ぎる際に、左から猛スピードで突っ込んでくる乗用車と衝突しそうになり、向こうは左にハンドルを切り、こちらは右に車体を倒し、間一髪事故を免れる。

運転席から、勢いこんでドライバーが降り、こちらに向かって「危ないやないか!ボケ!」と怒声をあげてやってくる。その背後では、助手席の女が「やったれ!やったれ!」と言わんばかりのイキった瞳で見つめている。態度で煽りまくっている。
既視感があったが、多分煽り運転カップルの形相とやり口である。

僕はといえば、ヘタレもヘタレここに極まれりで、衝突事故という一大事に至らなかった安堵感で小刻みに足が震えていた。それでも、声はなんとか振り絞り、「そっちがスピード出し過ぎでしょ?」と返答。
「なんやと、コラ!」と畳み掛けてくるドライバーの男と背後でやっさもっさする女。

間一髪の直後には、一触即発。

すると、突然現れた白髪の老紳士が、
「私、見とったけど、アンタ。ここの制限速度なんぼや。あんな運転してる方が間違っとるな」
と割って入ってくる。
舞い降りたヒーローの登場によって、一触即発は一気に凪いだ。

不満気に拳を引っ込めた男は車に戻り、煽りまくり女は鉾を収めたようだ。
ブロブロロローと不快な発車音を残して去っていった。

「すみません。声かけてもらって助かりました」

そう、老紳士に頭を下げると

「ああいうアホがおるんよ。私このあたりを毎週散歩しとるけどね、こんな狭い道で飛ばして。いっそ私みたいな爺さん轢いて、殺して、捕まりゃいいんやけどな」

と高らかに笑った。

「私、あんたのそのウーバー?もよく使うんよ。お休みにご苦労さんやな。頑張りや!」

日曜昼下がりの人気のないオフィス街で、杖をつきながらかくしゃくたる歩みで去っていく老紳士の背中に長い間頭を下げて見送る46歳ウーバーイーツ配達員であった。

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『スパイ大全』の教え

幼い頃、漫画雑誌の付録に『スパイ大全』という小冊子が付いていて、ジェームス・ボンドゴルゴ13か、その秘伝テクニックが満載であった。

その技のひとつに

「車のマフラーに、ジャガイモを詰めて、爆発させる」

というヤツがあり、その技をずっと記憶していながらも、実行する機会のなかった僕は、大学生の頃、毎朝断機運転を長時間かます、うるさい大型バイクに対して「ジャガイモ作戦」を実行せんと、その間際まで及びながら、
「もしかしたら、本当に爆死させてしまうのではないか?」
と及び腰になり、作戦遂行を諦めた。

スパイとしては失格。
もし、今日の諍いで、男性ドライバーに殴られ、煽り女に歓喜の舞いでも見せつけられた際には、改めて念願の「ジャガイモ作戦」を敢行すべく準備に入ったに相違ないが、冷静な老紳士の仲介によって、悪質ドライバーカップルの爆死は避けられたのである。バクシーシ。
ただ、いつでも僕には「ジャガイモ作戦」を発動する準備がある。
スパイは、永遠の憧れだからである。

新人さんの多いレストラン

今日は、8時〜20時稼働で、¥19,246也。

ピックアップ先のレストランでは、今春から働き始めたばかりと思しき新人店員さんの姿も多く、不慣れながらも初々しい声出しや笑顔に癒された。

その不慣れさで料理受け取りに時間がかかり、イラつくこともあるけれど、接客業に何度もチャレンジして、笑顔がひきつり顔面の筋肉が強ばり、言葉を発すると緊張で吃りまくった自分にとっては仰ぎ見るようなみなさん。

経験を積んで大きくなってください。
経験を積んでは崩し、いまだに何者でもないオッサンは、そう思う。

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栄養にならないような、母ちゃんに怒られそうな食事を買い求め、ホテルに戻り、痙攣する太ももを感じながら眠った。

 

使った金額

ソース焼きそばパン二個入り:108円
とろ〜りチーズのハンバーグパン:106円
手巻きおにぎり・紅シャケ:108円
手巻きおにぎり・海老マヨネーズ:108円
かっぱえびせん・うま塩だれ:106円
亀田・堅ぶつ:279円
ソフトクリーム・北海道らいでんメロン:275円
フローズンヨーグルト・パイナップル:161円
ドデカミンラムネ:130円
サントリー伊右衛門特茶:394円
ミルクティー:96円
ほうじ茶:117円
アセロラ&カムカム:100円
レジ袋:5円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:800円(二個分)

 

所持金

3,070円

西成で暮らす。80日目 「週末を無駄にしない」

2021年5月22日。

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だそうである。

もう週末のウーバーイーツ稼働だけが頼みの綱。
早朝の仕事探しすら億劫になっている。
せめて、土日くらいは働かなければ食い上げ。食い逃げ。

MBA」ってなんでしょう?
メンタル+ビックリするほど+アゲアゲ、でしょうか?でしょうね。

 

早めに「パークイン」を引き上げる。
このところ、掃除のお姐さんに新人さんが入っているようで、お初にお目にかかる方とご挨拶。
階下に降りると、いつものお姐さんがおり、

「チェックアウト?よく眠れました?」

といつもの笑顔で話しかけてくれる。

「はい。寝れました。お世話になりました」

「また、来てね。暑くなってきたから身体気をつけてね!」

労いの言葉で送り出してもらったが、全然働いてません。
成功するために、週末は。今週末くらいは無駄にしない。
ありがとうございました。

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夏日

大阪にも夏が近付いている。
今日も、30℃近くまで気温が上がるようだ。

午前中から配達依頼は順調に入ってくる。
新料金体系になってから、一件あたりの配達単価は下がったが、バカみたいなロングドロップ案件を蹴ることができるので、配達への納得感はある。
相変わらず、淀川を越える配達は全て拒否。
これだけでも、大きくストレスは無くなる。
僕のような選り好みをしている配達員が増えているとすれば、梅田や難波から淀川を越えていくような注文は、配達員のマッチングが容易に決まらず、配達に時間がかかるようになったのかも知れない。
その分、ギャラ上げてくれれば配達しますよ、ウーバー運営さん!

 

加えて、ピックアップの際に厄介な条件のあるレストランからの配達依頼も概ね拒否。
「バッグ持ってくんな」
「バッグ持ってこい」
「この入り口から入れ」
「自転車を路駐すんな」
「着いたら電話しろ」
「商品によっては15分待ってろ」
「店に入ったら、店内のお客様に笑顔で挨拶しろ」
「ビルの2番入口から入って、右前方のエスカレーターを使い、4階でいったん降りて、後方の階段を使い、8階の店舗まで来たら店舗右側の通路から裏手に回って、厨房へ大きな声で到着を伝えたら、すぐに店の外に出て大人しく待ってろ」云々。
そんなに条件つけてくんなら、フードデリバリーの扱い辞めちゃえよ。
失礼、失言でした。
要注意レストランは最初から行きません。

雨降る

天気予報は豪快に外れ、15時あたりには雲が空を覆い、その後2時間ほど濡れながら自転車を漕ぐ。

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雨の中、数件の配達を選り好みしまくってこなし、ジェケットのフードを脱ぐと視線の先の空に薄く虹がかかっていた。

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天王寺区のこのあたりは自社仏閣が軒を連ねている。

振り返るとお寺の今日のお言葉。

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「いいじゃないか」
よりも、もう「ええじゃないか」で蜂起してレイブに参加したい気分であった。

誰かが喜んでくれるから働く、という基本理念を持ち続けるのは難しい。
いつだって、テメエを第一に置いてしまう。

夕方には、大川沿いのビルの間から暮れていく空が美しく、しばし眺める。

雨を降らせたあとに虹をかけてみたり、暑い日差しを浴びせ汗をかかせたあとに、そんな1日を帳消しにするような夕焼けを魅せたり、世界は帳尻をあわせるのが得意だ。

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高級ホテルにin

今週も、「ホテルリブマックス 淀屋橋」に投宿。
この立地からのスタートならば、明日日曜のウーバー稼働も配達依頼が順調に入るだろう。
二泊で¥4,750とな。
贅沢、贅沢。贅を凝らした沢山の機能。一般的には、至ってノーマルなビジホ。

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先週もそうであったが、なんとなくテレビを点けてしまう。

結局、室内におけるテレビ画面の占有面積の大きさが、試聴の有無につながるのだろうか。西成安宿の14インチで見ようとは一切思わないもの。

そんなでテレビを点ける。
と、大相撲ハイライトをやっていた。
何枚写真を撮っても、遠藤関と目が合わなかった。
あらゆる人からハブられているのかも知れない。

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今日のあがりは、9時〜22時で、¥12,683也。

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ユニットバスで用を足そうとしたら、床に一本毛髪が落ちていた。
これは、清掃の不徹底を非難するものではない。
完全無菌完璧クリーンな世界などこの世にないからだ。
むしろ、僕は安心した。
人の手が入り、徹底した清掃が行われるなかでのわずかな綻びも許容できないような態度こそ改められるべきだ。
むしろ、僕はほっとしたのだ。

ラーメン二郎」の器に大将の指が入っていて、
「ちょっと!指!」
と客が指摘したら、
「俺は大丈夫だ!」
と、大将が応えた話が好きだ。
西成に行ってから、もっと好きになった。



 

使った金額

宿泊代:4750円(二泊分)
コーン入りクリーミーコロッケパン:120円
パリッとジューシーなホットドッグ:171円
MILKカスタードのちぎりパン:151円
なんこつ入りつくね棒:173円
なめらかシュー:107円
ボロニアクロワッサン:117円
関西風牛肉入りコロッケ:161円
森永・大粒ラムネ:106円
明治・チューインガムつぶつぶフルーツ:138円
ヤマザキ・黄色ピコラ瀬戸内レモン:96円
烏龍茶:106円
バナナオーレ:96円
100%パインジュース:127円
りんご&カルピス:80円
レジ袋:5円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:400円

 

所持金

5,963円

西成で暮らす。79日目 「杉作ミーツたけしに感動する」

2021年5月21日。

ほとんど床に付していた。
旅先で病に襲われることの心細さたるや筆舌に尽くし難い訳であるが、いま僕は西成で暮らすという死出の旅の真っ最中であり、生き方の転換に挑まんとする人生の分岐点を旅している。つまり、大変に不安なのである。

昨日から続く、頭痛や手足の痺れは、その勢いを保ち続け、どんよりと曇った外に出向くこともままならず。

当初は、本日で「パークイン」を出る予定であったが、一泊延泊を受け入れてもらい、ずっと横になっていた。

茜さす部屋の壁。
何も考えたくない時ほど、何かを考えてしまう。
その思考をより具体にすればするほど、さっぱりパッとしない明日しか思い浮かばない。

偶には怖がらず明日を迎えてみたいのに

作詞・作曲:椎名林檎
『茜さす 帰路照らされど…』

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Jの語り

「J」といえば、誰だろうか。

千原ジュニアか、ジェームズ・イハか。
僕にとっては、杉作J太郎。その人である。

 

夜になって、いくらか体調がましになったので、タバコを買いに外に出て、radikoのタイムフリー機能で聴き逃していた『杉作J太郎のファニーナイト』を聴取。

5/20の放送では、杉作さんが、『笑っていいとも』の前番組にあたる『笑ってる場合ですよ!』に、友人とコンビを組みコントでオーディションを通過、生放送に出演したエピソードを話されていた。

書かれた物としては読んだことのある逸話であったが、杉作節で聞くのは初。
まったくの素人であった杉作と相方のいた部屋に、タバコを吸いに突然現れ、出ていく際にビートたけし
「がんばれよ」
と声をかけた話。

その後の生放送での展開、後年杉作さんがたけしさんとテレビで共演した際の出来事も含めて、大変に感動。

乙女パスタに感動。
ブサメンたけしに感動。

同番組で自分のメールが読まれた回以来、その部分を録音し、何度も聞き返す。

 

仮に杉作J太郎が、著名にならず世に出なければ、ビートたけしが素人にかけた言葉など埋もれたままのはずである。
「一回性のビートたけし
を見たことが僕にもある。

あれは、『キッズ・リターン』の初公開時であるから、1996年。
東京に住んでいた友人の家に世話になりながら、僕は大学の夏休みの2ヶ月を花の都で過ごしていた。

ちょうど、新宿で友人とともに『キッズ・リターン』を鑑賞し、その強がりの美学に痺れ、翌日に「たけし巡礼」を決め込み、足立区から浅草、四谷などビートたけしゆかりの地を探索しようとしていた時だった。

「この辺の球場で早朝野球とかしてるはず」
神宮外苑を彷徨い、
「まあ、そりゃやってねーか」
と、かつてたけし氏が住んでいた四谷に向かおうとしていた折、青山通りの地下にある喫茶店からユニフォーム姿のビートたけしが姿を表したのである。

キャップを斜めに被ったビートたけしは、周囲を見渡し誰かの到着を待っている風であった。
通りに目をやりながら立っているその人を見ながら、
「本当にいるんだなぁ。野球やってるんだなぁ。カッコいいなぁ。顔面麻痺もカッコいいなぁ」
と固まってしまっていた。

隣の友人は、「オイ!たけしじゃねーか!サインもらってこいよ」と、急かしたが、僕にはそんな大それたことを申し出る勇気などなく、ただただ憧れの存在が目の前に居る現実に呆けていた。

時間にして数分であったと思うが、やがてたけし氏は待ち合わせていた人物を見つけ「遅いよ、バカやろう」と笑顔を見せながら地下への階段を降りていった。
その時、たけし氏はバカっ面の大学生約2名に気が付き、軽く会釈をしてくれた。
あの、たけしと目が会い、しかも挨拶したぞ、たけしが!

その記憶だけで、50年はメシたらふく食べられる。
と、当時は思った。今も鮮明な記憶である。
時は流れ、メシはたらふく食ってないけれど、大切な思い出である。

驕らない奢り

「いい人たけし」
みたいな逸話は、それこそ山ほど語られているが、もっともポピュラーな、後輩芸人が食事先で会計をしようとしたら、
「もう、お代はいただいております。たけしさんから」
という奴。

後輩への愛情や芸界でのしきたりが滲み、たけし氏自身の「自分はたまたま売れた人間であり、その裏には死屍累々の芸人がいる」という想いの直接的な表明、同時に「もし、俺が売れなくなったら、アンちゃんの番組で使ってね!」というけして驕らない奢り方の逃げ口上までを包摂した鉄板のお話。

一方、僕はといえば、この「お代はいただいております」をこれまで一度も遂行したことがないし、遂行する器でもないし、遂行する財力もないし、遂行するべき仲間もいないし、これからも一度も遂行しない、できないような気がする。
ああ、だらしのないことよ。

 

Jとたけし、という自分にとって大好きな人同士の邂逅に触れて幸せな1日であった。

それが、ただ、寝ていただけの今日の出来事である。

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使った金額

宿泊代:1300円
コインランドリー(洗濯):200円
ハッシュドポテト:80円
ミミガー:240円
サンガリア・まろやかバナナ&ミルク:90円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:800円(二個分)

 

所持金

12,867円

¥1250「ホテル 太子」西成安宿探訪

西成ホテル探訪

 

あいりん地区には安宿が点在しているが、太子交差点を渡った先のエリアには安宿が固まったゾーンがある。

その一角に軒を構えるのが、
ホテル 太子

「太子」の読みは「たいし」。明太子のほうではなく、聖徳のほうで。

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1250円と変に刻んでくる価格設定。

受付には親父さんがおり、宿泊したい旨を伝えると、

「エアコンないけどいいの?」

と、逆サイドに推してくる接客。
この時は、3月上旬であったので、まだ寒い折。

帳場の奥からは、女将さんも現れ、

「観光?ここで大丈夫?」

と、更にリバースキャンペーンを重ねて来られる。

「いえ、西成で働くので」

と答えると、

「へー!頑張ってね!」

と、励ましてくれる。

ちょっと無愛想な親父さんと、明るい笑顔の女将さんのコンビネーションが効いている。

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エレベーターはなく、保証金の1000円と引き換えに鍵をもらい、下駄箱に部屋別に指定されたスリッパで中へ、階段を登る。

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館内は清潔さが保たれている、昼間だからか、明るいし。
しかし、夜は少しの音を立てるのも憚られる空間に変わったのだが。
3泊したが他の客とは全くすれ違わなかった。

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おそらくこの部屋がたまたまそうであった、というだけだと思うが、窓際の柱が気になる。
何だか、渋谷クラブクアトロの、ステージへの視界を遮る悪しき柱を思い出したが、柱の向こうでパンクバンドが演奏しているわけでもないので、全くOKである。

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柱を邪魔っけによけながら、窓を開け放っても見えるのは隣の安宿の様子だけだから、全くOK。

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テレビにコンセント、ハンガーという最低限が三畳一間にパッケージ。

小机が存在するのがヒットポイントだが、残念ながらWi-Fiの影も形もないので、パソコン作業には使えない。

でも、飯の時便利よね。
想像以上に、万年床の上に弁当を拡げて食事するのは敗北感が強いものだ。

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部屋全体及びシーツにも清潔感アリ。十分、熟睡体制。
西成安宿特有のヤニだらけの壁もない、何となくモデルルーム感があった。
あくまで、西成安宿のいい方のモデルケースだが。

入り口の扉のガラスには目隠しが施されている。
前言撤回、こんなモデルルームはない。

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しかし、この目隠しは最低限のプライバシー保護の観点から重要なブツ。
たとえそれが、二種類のガムテープによって装着されているとしてもだ。

 

各階のトイレは和式。トイレの前には調理スペース。
贈呈品の大きな姿見も。

鍋釜の類いや洗剤、スポンジもあり生活感が漂っている。

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廊下には掃除道具。
踊り場には、西成生活の心を満たすコミック群。
蒼天航路』『ああ播磨灘』『鬼平犯科帳

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この日眠る前に、布団カバーを確認したら「桂由美」ブランドであった。
新婚初夜気分を高めてくれる。新婚初夜だったとしたら。

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カチッ、カチっと段階的に照度をコントロールしていくタイプの照明。

この全消の一歩手前の橙色の灯りを我が実家では「夕焼け」と呼んでいました。

「もう、消すよー」

「いや、夕焼けにしといてー」

といった会話を母としていたものだ。
なんか、泣けてきた。何丁目かの夕日だかなんかのイメージ。

「ホテル 太子」全体が昭和感に包まれている。

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この日、夜になって宿に戻ると部屋に、追い毛布と電気あんかが置かれていた。

ぶっきらぼうだが優しい宿のご夫婦である。

「暖かかったです。ありがとうございました!」

と翌朝、伝えたら

「ああ、うん」

と、あくまで親父さんはマイナスプロモーション上等であった。

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最終日に時間ギリギリまで部屋でグズグズしていたら、いきなり扉が開け放たれ、女将さんが登場。

「あらー、まだいたのね。ごめんごめん。いいよ、まだまだ居てね!」

と、一陣の風の如く去っていった。
相手はマスターキー持ってるからな。裸じゃなくって良かったス。

とっつきにくいけれど、ご夫婦の人柄が反映された質素だけど満足できる宿でありました。

 

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ホテル 太子

Google マップ

宿代:¥1250

三畳/コンセント2口/トイレ共同/布団/鍵(保証金1000円)/内鍵/喫煙/灰皿/小机/収納ボックス/一泊OK/ハンガー/フック/ガスコンロ共同/液晶テレビ/窓/漫画多数/ご夫婦の優しさ

 

清潔度 ★★★

フロント★★★★

サービス★★

価格  ★★★

総合  ★★★

 

 

西成で暮らす。78日目 「壁に浮かんで消えていく」

2021年5月20日。

絆創膏、冷湿布、目薬、ワセリン、頭痛薬、マスク

以上が、常に持ち歩いている体及び身体のケアのための品々。
どれも西成暮らしをしてから存分に活躍してくれている。
ただ、頭痛薬だけはこれまで使う機会がなかった。

今日、初使用!
持ってきてて良かったー!

 

早朝3時に起きたのだが、全身が指先まで痺れており、頭がとてつもなく痛い。
定期的にズキンズキンと側頭部を打ちつけられたような衝撃が走る。
小用を足そうと便器に向かうが、尿意があるのに出てこない。

確実になんかの病です。病んでいます。
歯磨きの途中で吐き気がしたので、倒れるように部屋に戻り万年床に伏せる。

そして、持参の頭痛薬を服用。
眠気はないが、ただ身体を横たえる。
やがて眠った。

 

昼過ぎに、目を覚ますと降り続いていた雨が瞬間止み、壁に陽が注いでいた。

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壁に一筋赤いラインが描かれている。

幻視か。狂ったか。
よくよく原因を探ると、隣のビルの赤い壁を反射しているようだ。

昔、楳図かずおが自身の代名詞である赤白ボーダーの壁面をもつ自宅を建設したことが近所迷惑だと話題にのぼったことがあった。
確か、ワイドショーで取材を受けた近隣住民が、
「見てください!あの家の壁の赤色が反射して、私の家がこんなになるんですよ!」
と自分の家の中を写させ憤慨していた。

 

「パーク イン」のヤニで濁った壁面に現れた一筋の赤いラインは、なんだか厳かで、30分眺めていても飽きなかった。千住明の絵画よりも、横尾忠則の描く滝よりも、安藤忠雄の光の十字架よりも美しく、見飽きなかった。

やがて、また空はかき曇り、赤いラインは消えた。
また雨が降り出した。

もう、夜が近づいているが、この文章を打つだけでひどく疲れた。
もう一錠頭痛薬を飲み、眠ることにする。

一歩も宿から出なかった。
一歩も宿から出られなかった。

よくわからんが、頼りない身体だな。
明日、目覚めて、また赤いラインに会えたらいい。
眠る。

 

 

楳図かずおの「まことちゃんハウス」の現在を取材した記事があった。

bunshun.jp

 

もう、ホントに寝ます。

 

使った金額

なし

 

所持金

15,577円

¥1300「ビジネスホテル スバル」西成安宿探訪

西成ホテル探訪

西成のあびこ筋沿いには多くの安宿が林立している。

定期的に、一泊¥390という破格のセールを打ち出す「ホテル サンプラザ」もこの通りにある。

ビジネスホテル スバル」は、その向かい側、JR新今宮駅から徒歩3分。
仮に労働で疲弊し、這いつくばって向かっても、スープの冷めない間には到着する距離感。

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日曜は受付業務はお休みだが、平日は朝8時から開いているので、彷徨える西成人にとってはありがたい宿。
ちなみに、祝日は受け付けてくれる。

看板にある1300円の部屋と、1400円の違いは「冷蔵庫の有無」

 

受付には午前中には女性が、午後からは男性(おっちゃんorあんちゃん)が在室している。
「土足厳禁」「鍵の保証金1000円」という西成安宿スタンダードなスタイル。
入り口には常に「消毒済」と書かれた(あくまで書かれた)スリッパが並べられているので、安心して、素足を突っ込み、下足を小脇に入館しよう。

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三畳一間ではあるが、板間とカラーボックスの棚が置かれたスペースを除いての三畳なのでお得感がある。

それは、板間とカラーボックスが置かれたスペース分のお得感である。

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布団はおおむね清潔で、躊躇なく潜り込んで良い。
躊躇なんかしては眠れない。躊躇なく潜り込まねばならない。

壁面にはエアコン(よく効く)と天井のシーリングライトのスイッチ。
部屋によっては、枕元の低い位置に壁面スイッチがあり、横になったまま照明のオン/オフが可能。バリアフリーユニバーサルデザインの西成安宿的反映。

エアコンのリモコンは、最小限の仕様で最大効率をもたらすビス打ちスタイル。

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各階には、コイン式の洗濯機と乾燥機。
ガス玉を使うタイプのコンロは取り外され、偶数階に電気コンロがある。

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一度、ここで洗濯をして完了時間を忘れて寝てしまい、2時間ほど放置してから取りに行ったら、蓋が開けられており

「さっさと持ってけ!」

というメモが置かれていたことがある。

誰が悪いのか。圧倒的に僕なので、宿にも宿泊客にも問題はゼロ。

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トイレは小便器×2、大は洋式&和式で構成。
このホテルは男性客のみ利用可。

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9階建てのビルだが、一般客はたいてい5階より低層に泊まっているので、長期滞在者が上層階に住んでいるんだと思う。

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屋上もあり、洗濯干し場と洗濯機もあった。
ちょっと一見には使いにくい雰囲気。

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1階には、自販機と電子レンジ、保温ポットが設置。

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ポットの水は使用者がその都度補充していく形なのだが、予備水には炭が入れられていて、気が利いている。

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f:id:stolenthesun:20210521190616j:plain一瞬、「亀飼ってんのか?」と思ったが、間違いなく炭である。
活性炭パワー。
カエルでもない。と思う。

 

風呂場は夕方からしか使えないが、シャワー室は早朝から使用可。

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風呂は湯が循環していないので、ぬるたい感じがするが、一度に3人くらいは入れる大きさ。

誰かがお湯を使うと、隣のシャワーの水温と水の勢いが低下するという上限固定システムなので気を付けたい。

シャワー室の隣には、リラクシングルームみたいなスペースがあり、灰皿とコンセント。
「部屋に居りゃいいのに、何のためかいな?」
と思っていたのだが、シャワーの空くのを待ったりするのだと、実際待ってみて気付かされた。

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その時には、いつまでたっても30分待っても先客がシャワー室から出てこなくてイラついたのだが、薄い壁の向こうから漏れてくる音に耳を澄ますと、明らかに洗濯しているようだった。
お湯を使って洗えるし、鍵もかかるので、いいのかも。
風呂場での洗濯は禁止されているし。
工夫して生きていく。

 

「ビジネスホテル スバル」の最大の欠点は、

エレベーターの遅さ

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目的階を押してから、タバコ一本吸えるんじゃないか!レベルで太極拳ムーブ。

楽に自販機で飲み物を熟考できるくらいの時空は超えるので、2回に1回は階段で移動している。

しかし、どうやら2021年5月末には、エレベーター工事が入り、高速化が図られるようです。
太ももに優しいね。

 

Wi-Fiも常に安定しているし、雨の日には傘の露取りマシンが置かれるし、洗濯の室内干しに有効な壁面フックも充実。

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ちなみに、鍵は退室日の前日夜8時までに返却しないと部屋まで取り立てに来ます。

全体評価としては非常に優れた宿。
受付のおっちゃんとお母さんの人柄も優しいので、オススメ。

もうお一方の若手のあんちゃんの人柄に触れていないのは、けして「優しくない」という含意ではない。優しさの捉え方は、極めて恣意的なもの。ちょっとぶっきらぼうに見えるあんちゃんも、きっと夜中にずぶ濡れで震えている捨て猫を見捨てられなくて、自宅に連れ帰り、連れ帰り続け、家が猫屋敷化しているくらい優しいはずだ。

いずれにしても、ホテル関係者の人当たりは、その宿の印象に直結するので、とくに長期滞在が見込まれる西成安宿においては重要なポイント。

その点、「ビジネスホテル スバル」は、おっちゃんとお母さんの人柄も優しいので、オススメ。

もうお一方の若手のあんちゃんの……(以下、果てしなくループ)。

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ビジネスホテル スバル

Google マップ

宿代:¥1300

三畳/コンセント2口/トイレ共同/布団/鍵(保証金1000円)/内鍵/喫煙/灰皿/お盆/棚/エアコン/シーリングライト/収納ボックス/一泊OK/ハンガー/フック/電子レンジ共同/保温ポット共同/Wi-Fi/電気コンロ共同/液晶テレビ/カーテン/個別空調/ゴミ箱/窓/コインランドリー(洗濯+乾燥)/大浴場/シャワー室/エレベーター/自販機/消毒スリッパ

 

清潔度 ★★★

フロント★★★

サービス★★

価格  ★★★

総合  ★★★★