西成ホテル探訪・初日
帰社して家と反対方向へ行く
19時近くまで仕事してしまう。こんなことではダメだ。もっと不真面目にやらないと。
会社では、誕生日を祝ってもらいケーキを食べた。エクレアを食べました。エクレアをケーキの範疇に入れるのが正しいのかどうか?迷いながら食べました。
46歳を迎えたけれど、特に誰からもお祝いメール、SNSなどは来ない。SNSはやっていないから、しょうがない。
正確に言うとお祝いメールは頂戴しました。カード会社とANAメールマガジン、ケンタッキーフライドチキン、日産メールマガジンから祝ってもらった。日産のメルマガなんて取ってたのか。登録解除しておこう。
会社から西成に出向くのは、結構手間。
大阪メトロ堺筋線の北浜駅まで10分ばかし歩く。目指すは動物園前駅。
もう明日のことを考えてしまうのだけど、出社する時間帯はきっとラッシュなんだろうなぁ。なんで、せっかく会社の近所にマンションがあるのに、西成から通わなければならないのか?
通勤ラッシュとか経験したことなかったのに。
地下鉄出口9番から出て、高架をくぐるともうそこはあいりん地区。今日からの僕の寝ぐらです。
難航する宿探し
確か、500円の宿があったはず。かすかな記憶をもとに歩き回る。どこだったかな?
あいりん地区はかなり狭い範囲なので、通りを一本ずつ潰していく。
あった!そうだ「旅館かなめ」だ。
まだ、20時前だが、すでにオヤジさんが看板を片付けようとしている。でも、間に合った!
「今日、一泊お願いします!」
「一泊は、受け付けてない」
「そうなんですか…。何泊から行けますか?」
「まあ、とにかく今日は終わりだから」
「8時で受け付け終いです?」
「そう」
まだ、19時50分だけど。
くわえ煙草のオヤジさんは、めんどくさそうに看板をしまっている。
なってない!客対応なってないよ。これが西成か、西成マナーなのか。敗北。また来よう。
歩きながら張り紙や看板を眺めると、確かに20時で受け付け終了という宿が多い。西成の夜は早い。働いている人たちは、現場に朝早く出かけるのだろうから、宿もそれに準じた時間帯で営業しているということ、なのでしょう。
ということは、西成の朝も早い。夜も朝も早い。
ヤバい、今日の寝ぐらを確保しなければならない。
もう、天満のマンションに帰るわけにはいかない。帰ってもいいけど。
続けて、「ホテル ニューかめや」に向かう。一泊850円。しかし、またしても、西成時間の壁、オヤジさんがシャッターを下ろそうとしている。
「あの、今日一泊お願いしたいんですけど」
「ああ、一泊はね。やってないのよ」
「そうなんですね。どこもそうですか?」
「んん、正直ねウチみたいに安くやってる所は、一泊では元が取れないのよ。掃除したりするとね」
「なるほど…」
「2000円あたりのホテルなら、一泊から泊まれると思いますよ。探してみてください」
なってる!いい接客だ。ありがとうございました。勉強になります!
救世主なかよし
もう、どこでもいい。泊まらせてくれさえすれば。
向かいにある「ホテル なかよし」是非とも泊めて欲しい。
「今日、一泊なんですけどイケますか?」
「いいですよぉ」
イケた!ありがたい。最悪、天満の快適なマンションに帰らなければならない羽目になる所だった。帰ってもいいけど。
表の看板には「1200円」「1400円」と2パターンの金額表示があった。
「1200円と1400円の部屋って、どう違うんですか?」
「まぁ、そんなに。でも1200円しか空いてないね」
いいだろう。リーズナブル。充分。
「二階と一階どっちがいいですか?」
「二階で」
「カギいります?」
?、いるだろう鍵は。
「カギ無いパターンもあるんですか?」
「まぁ、貴重品は持って出れば、問題ないけどね、カギ無くても」
??、いらないものなのか鍵は。
「いや、欲しいですカギ!」
「その場合は、1000円預けてもらわなきゃいけないんですけど、いい?」
新鮮だ!鍵の担保が要るのか。
「わかりました。お願いします!」
「明日の朝、9時までに出てください。1000円は、その時お返ししますから」
「わかりました。門限とかありますか?」
「もうすぐ、シャッター降ろしちゃうから。夜出る時は、横の小さいドアから出てください」
「この辺、銭湯とかあります?」
さっき、宿を探している時に見た銭湯は閉まっていた。他にもあるのかどうか。
「ああ、風呂はまだ入れますよ。9時までね」
ありがてぇ。ちゃんと、タオル持ってきたし。
「206」に入る
土足厳禁!と書かれた張り紙を見ながら、スリッパに履き替える。下足を入れる棚などない。持って上がるのか。
二階への階段を上がると、狭い間隔で扉が並んでいる。「206」46歳になって初めての寝ぐらはここ。
扉を開けて中に入ると、すえたような匂いがする。
でも、意外といいじゃない。三畳。冷蔵庫あり。テレビあり。小机あり。灰皿あり。
ヒモを引っ張るタイプの電球を点ける。すでに布団は敷かれている。いいじゃない。問題ないよ。
さっそく、風呂に向かう。ドアに鍵をかけて。
すでに、先客がひとりいるようだ。脱衣場のロッカーも鍵はかからない。1段目は空いているが、2段目、3段目のロッカーは常客が使っているようだ。歯ブラシや洗面用具、スポーツ新聞などが入っていた。
恰幅の良い男性が身体を洗っている。「こんばんは」と声をかけたが、返事は無い。そりゃそうだ、銭湯で挨拶なんてしない。普段は僕も。多分緊張しているんだろう。
大浴場とは言えないが、5,6人は入れる浴槽に、並んで3人が使える洗い場がある。湯船のお湯はぬるめ。シャワーの勢いは合格。先客の男性は、カミソリで頭を剃っていた。
バグがいる、たくさんいる
風呂から戻って、煙草に火を付ける。そして、ようやく気付いた。
畳に転がる黒い点。
虫じゃねーか!いたる所に虫の死骸が転がっている。部屋の隅には蜘蛛の巣が張っている。髪の毛もやたら落ちている。2軒目に訪ねた「ホテル ニューかめや」のオヤジさんの言葉がよみがえる。
「掃除したら元が取れないのよ」
掃除してない!ここ掃除もしてない!元、取ってる!
こんなに虫の死骸があるということは、生きている虫もきっと…
いた!そりゃいるよね。イヤだ!寝られない。
シーツの上はまだ、イケる!そう思って、よくよく見ると、毛があるなぁ。割とある。
もう何も見たくない。見たくないです。
そうやって、目を泳がせていると、視界の端にうごめいている虫が目に入ってくる。軽い地獄を感じる。
じつは、事前情報として「南京虫」というヤツが安宿にはあらわれる、ことは知っていた。けど、こんなにいるのかよ!そして、怖いから画像検索とかしてなかったのに、普通にいるのかよ。
ついでに、バグインフォも検索してみたら、
「冬でもおとろえない」「繁殖力がすごく、毎日産卵する」
などといった情報を仕入れてしまった。軽い地獄だ、重めの。
外出、できない
もう、この部屋にはいたくない。なるべく、外にいよう。
受付時に聞かされた通り、閉められたシャッターの隣の小さいドアを開けて外に出よう…、なのに、よくあるタイプの、ドアノブに付いた一文字の突起を90度回転させて開閉させる鍵が開かない。回転させようにも、数ヵ所で引っ掛かりがあって、開かない。数分ガチャガチャといじくり回してようやく外に出られた。
ただ、持って出た「206」の鍵で外から施錠することはできない。
コレ、中から鍵閉められたら、戻れないじゃないか!
あんな地獄なんて戻らなければ、いいじゃないか!そうも思う。
しかし、あくまで泊まってみることが本ブログの目的である。天満の快適なマンションに戻るわけにはいかない。
もうフロントは閉められている。
そして、鍵代として1000円預けてしまっている。絶望。
コレでは、長い時間外にいる訳にはいかない。目の前の自動販売機でペットボトルを2本買ってすぐ戻る。
食欲はゼロです。この部屋で、虫に囲まれながら、モノを食う気がしない。
長い夜
そして、11/26午前6時。僕は今このブログを書いています。部屋にはコンセントがひとつしかないので、テレビのプラグを外して、パソコンの電源をつないでいます。延長ケーブルも必要だなぁ。勉強になるなぁ。
身体のアチコチがかゆい。もしかしたら、気のせいかも知れないが、刺されている感じが確かにある。気のせいだったらいいのに。
一応、純白だったシーツが時間とともに、赤い血痕の数を増やしている。多分、南京虫をはじめとした個性豊かな虫たちが布団とシーツの間にいて、僕を刺して血を吸い、そして絶命していっているんだろう。バグたちに罪はない。
扉の向こうでは、人々が動き出している。
やはり西成の朝は早い。
という訳です。
西成安宿探訪、初日にして、寝られない。寝られる気がしない。重めの軽い地獄。今日は、徹夜します。それか、上手くやれたらですけど、グリーンベレーの訓練みたいに座ったまま寝てみます。
ホテル なかよし
宿代:1200円(デポジット1000円)
三畳/テレビ有(地デジのみ)/コンセント2口/空調作動せず/エレベーター有/トイレ共同/ガスコンロ共同/共同浴場有/万年床/部屋鍵オプション/喫煙/ゴミ箱有/灰皿有/一泊OK/ロッカー有/夜間外出(行けるなら)/冷蔵庫有/作業机有/21時消灯/翌8時フロントOPEN/Wi-Fi無/バグ有(大量)
清潔度 ★
フロント★★★
サービス★★
価格 ★★★
総合 ★★
食費
チェリオ・ミックスフルーツオレ 100円
チェリオ・麦茶 100円
西成に落とした金額
計:1400円