西成ホテル探訪・六日目
新今宮駅から通りを渡って、右手にローソンがある通りは要塞のような西成警察署、三角公園へとつらなる、あいりん地区のメインストリートと言っていいでしょう。通りの街路樹もすっかり黄色に染まり、道の上に枯れ葉を降らしている。
今日の安宿は、そのメインストリートの角っちょに軒を構える
「ホテル マルモト」
いつも通り8時前に滑り込みます。
ビルビルしい面構えに、「高速無線LAN完備」の文字。これはホテル!世に言うホテルです。フロントにはコロナ対策のビニールシートが用意され、フロントと呼ぶことになんの違和感もない場所にいるオヤジさんに声をかける。
「今日、一泊お願いします!」
「はい。空いてますよ」
「いくらの部屋、空いてますか?」
「いま、1200円、1500円、1700もありますね。1700だとかなり広いですけど」
「1200円でお願いします!」
「タバコ吸われますか?」
「吸います!」
喫煙者はどうか聞くということは、禁煙ルームがあるということ!はじめて聞かれた。ヤニ臭い黄色い壁がデフォルトだったのに!
名前を聞かれ、カギを渡される。
「カギは保証金1000円いただきます。明日、カギと引き換えにお返ししますので」
「わかりました。フロント、何時から空いてますか?」
「一応、7時からですが、6時半には誰かいますから、声かけてください」
それよりなにより、画像の手がデブってんなぁ。あちこち太ってんですが。西成に来だしてから、結果的に食事制限しているので、痩せたいところです。中島らもは、刑務所ダイエットという本を書いていましたが、僕は西成ダイエット。
エントランスは、ホテルというよりも介護施設とかのそれに近い。すぐ正面に下足箱があるからかな。
「靴は心配だったら、持ってあがって。一応、下駄箱もありますけど」
「心配・・、なのでしょうか?」
「大丈夫だと思いますよぉ」
大丈夫だと、僕も思います!西成の治安うんぬんは、よく悪い方に喧伝されていますが、宿に泊まって他の住人や客からイヤな思いをしたことないです。部屋とか虫からは攻撃されましたけど。
オヤジさんがお風呂の位置や、24時間使えるポット、チェックアウトは9時まで、表はシャッターを閉めるので、隣の扉から出入りすること。その扉も0~4時までは施錠されると聞かされる。門限あり。
「それから、テレビを見るときは必ずイヤホンしてください。電話は9時以降はロビーでお願いしますね」
「ロビーは24時間使えるんですか?」
「OKですよ。ただ、私らはいなくなっちゃうんでトラブルがあっても対応できないですけど」
「トラブル・・、あるのでしょうか?」
「ないと思いますよぉ」
大事なことを聞き忘れていた!
「Wi-Fiって、1200円の部屋でも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。ああ、パスワードね」
と言って「今月のパスワード」と書かれた短冊をくれる。セキュリティ上そのパスワードの文字列は書かないが、完全に競馬バカがつけたとしか思えないものだった。多分、月が替わっても登場する名馬の名前が変わるだけだと思うので、「ホテル マルモト」Wi-Fiパスワードチェック大会とかを開催してもいいと思う。いつか開催します!
エレベーターは1200円ゾーンには停まらない
さて、三階までベータ―を使って上がろうとしたら、扉にこんな張り紙が。
おそらくは上階に行くに従って、宿泊料金が上がっていく、バカと煙は高い所に行くシステムを採用しているのだろう。一瞬、階段が見つからなかったが、バンバン風呂に行くオッチャンたちが開閉する扉がそれだった。
この21時前の時間帯。西成の宿泊客は、消灯に向けて就寝準備をしている。眠りにつく前の活発タイムと言っていいいだろう。なので、階段とつながるドアの開け閉めには気をつけましょう!
布団は清潔!に見えたが、、、
三階まで上がる階段も、きっと日雇い仕事を終えてからヨッコラセするのは、しんどいに違いない。
トイレと洗面場+ガス台のいつもの西成仕様。このあと、ガス台で焼きそばを焼いている人を見かけた。隣では歯磨きしてる人がいたけど。オリバーソースVSガードハローの構図は奇妙であった。
1200円ゾーンはかなり埋まっているようで、各部屋の前に内履きが見える。
正直、宿に備え付けのスリッパに抵抗がある。クソ潔癖が抜けきらない僕なので、これからはマイサンダルを持参する方がいいかも知れない。荷物が増えるなぁ。
「301」にイン!三畳+板間タイプ。
冷蔵庫や扇風機が備え付けられている。布団は薄いせんべいの下にパッドが敷かれており、厚み=フカフ感を補強してくれている。
なにより、新しいのはタンスがあるこいと!かなり収納できる。住む、暮らすということを考えれば大きなオプション。タンスには鏡も貼られている。身だしなむこともできる。
しかし、西成暮らしには、鏡もタンスもいらないような気がする。ソリッドに暮らしていかねばならない。まだ、宿巡りをしている段階の僕が言うのはおこがましいけど。
そして、絶対イヤホンが義務つけられているテレビ。やたら多いフック。窓を開けると即隣のビル。
テレビには最初っからイヤホンが刺さっていて、万が一の騒音事故を未然に防いでくれている。ちょっと、使いたくない感じの衛生具合だけど。
確かに廊下にいても、各部屋から音は漏れ聞こえてこない、おとといの「ホテル 新光」にあった下宿屋のような軽いガヤガヤ感はない。
シーツも清潔だし、いい感じ!
と思ってよくよく見ると、血痕・毛・ホコリ・・・あるなぁ。気になるなぁ。
よくよく見たりするからいけない。半分目をつぶって過ごせばいい。ジョン・レノンはメガネをかけたロックスターだったが、
「目が悪いのはいいことだ。見たくないものを見なくても済む」
と言ったらしい。僕もそれにならおう。おおむねOK。ほぼ清潔だ!
僕だって、こんな小姑のお掃除チェックみたいなことやりたくない!なにより、値段が値段なわけだから。毛はフーフーして、そっとメガネを外すのだ。
ちなみにWi-Fiはビックリするほどサクサクであった。
動画でも問題なかったです。ご参考まで。
『カイジ』が適材適所すぎないか
22時までなので、風呂に急ぐ。廊下に出たら、階段の場所がまた分からなくなった。たまたま、すれ違ったオッチャンは、
「あれ、階段どこでしたっけ?」
「そこ、そこよ!その扉。エレベーター使われへんからな!俺らは」
と豪快に笑った。「ホントすね~」と笑い返した。カッコいい人だった。
風呂にはボディソープもシャンプーもあって、広く快適だった。
三階に戻る途中に、本や新聞がある休憩ゾーンみたいな一室があり、入る。
書籍のラインナップを見ると『カイジ』シリーズが!
『賭博黙示録カイジ』『賭博堕天録カイジ』
『破戒録』もあるか。西成の宿で読むのはシチュエーションがドンピシャ過ぎて、泣いてしまいそうな気がする。やめておく。
『ヤクザという生き方』も同じ理由で、やめておくことにする。
風呂から上がって少し外に出る。夜風は、涼しいをとうに通り越して震える具合。
人出も少ない。
「行き止まり」
と通りの入り口に書かれた道を進んでいくと、全然行き止まりではなかった。行き止まりを目指して歩いていたのにな。
ホテル マルモト
宿代:¥1200
三畳/テレビ/コンセント3口/空調故障/トイレ共同/風呂共同(22時まで)/ボディソープ有/シャンプー有/コロナ対策/布団/鍵有(保証金制度)/喫煙(禁煙選べる)/ゴミ箱/灰皿/冷蔵庫/扇風機/カーテン/一泊OK/夜間外出可/Wi-Fi(サクサク)/バグ(微妙)/タンス/ハンガー/お盆/小机/下足棚/フック多め/イヤホン/電気スイッチ/自販機有(酒類・ジュース)/翌朝9時まで/エレベーター/ガス台共同/雑誌・漫画・新聞/電子レンジ共同/電気ポット共同/談話室/公衆電話/門限有(0時)
清潔度 ★★
フロント★★★
サービス★★★★
価格 ★★
総合 ★★
食費
ビッグスパイシーチキン 212円
ハッシュドポテト 108円
マイルドカフェオーレ 126円
レジ袋 3円
明治・ココア 78円
エルビー・香りごごち緑茶 106円
西成に落とした金額
計:1833円