西成ホテル探訪・七日目
ずいぶんと間隔が空いてしまいました。
サボってしまった。土日は、神戸に出かけて焚火などして。月曜日は夜半まで昼の仕事にかかずらっていた。なんだ、充実した日々じゃねーか!と邪推されたあなた。その充実を感じられないから、こんなことしているんです。わかってください。
というわけで、七泊目。
もう、大阪も寒い。クソ寒いと言っても差し支えない。20時ギリギリになってきたので、焦りながらあいりん地区に向かいます。
「これじゃあ、今日も安宿泊まれないよぉ」
とひとりごちながら、少し自分の口角が上がっている気もしましたが、そんなことない。
交渉開始。
「ホテル大阪」
もう看板が引っ込められてる。でも、受付に人影はあるので、突撃。
「今日は、もういっぱいですか?」
「いや、大丈夫ですよ。空いてるのは、1800円の部屋ですね」
1800円。十分に、十二分に「安宿」の範疇だと思う。ただ、高い。西成基準から言えば、お高い。看板に掲げられた最安価格は、1200円だ。
「1200円の部屋はもう無いですか?」
「それは埋まってますね」
「わかりました。また、来ます!」
僕と同年代くらいだろうか50歳そこそこに見えるホテル大阪の方は、軽く微笑んで目礼してくれた。
今のところ、天満橋というオフィス街から通っているので、作業着にドカジャンみたいな西成エキスパートスタイルのいでたちではない。彼に僕はどんな風に見えてただろうか。やはり、外から来て、「チョー安いホテル」を冷やかしに来ている道楽者と見えていただろうか。
交渉第二弾。
「グリーンピース」
表に宿泊料金表示はないが、館内のガラスには「¥1200」と掲示されている。
「こんばんは」
「お帰り~」
「今日、一泊お願いします!」
「…、一泊は受けてない。一週間単位から」
「あ、でもココに1200円と」
「それは、一泊あたり。一泊はダメ」
会話文に入ってからの二行目。「ただいま~」に対する返答としか思えない文言にお気付きだろうか?瞬間、西成の一員になれたような錯覚を覚えました。ふ・く・ざ・つ。
探訪二軒目の旅館スタイル
さまよったよねー。いくつもホテルはあるが、やはり1500円を超えてくると「俺には泊まれない!」といった自己ルールが発動してしまう。安宿ってなんだろう。
さまよった挙句、1400円掲示の宿発見!
ジャパニーズスタイルホテルはこの探訪、二軒目になる。
「旅館 赤坂」
突撃。マスク姿の50代くらいの女性が出迎えてくれる。
「今日、空いてますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「あ、あ、お願いします!1400で空いてます?」
「ありますよ」
いいでしょう。いいよね、俺。今夜の安宿、確定。
名字だけを聞かれて、部屋番号が記された紙を渡される。ポイントカードみたいだ。ポイント制を導入している宿なのか?30ポイント貯まったら、一泊無料!みたいなことが!と、よく見たらカレンダーだった。
「なんかこれ、ポイントカードみたいですね!」
「あー、違います」
思ったことを即、口に出すのが良くない場合は多い。
「やっぱり、今はインバウンドがいないから大変ですか?」
「あー、そんなこともないです」
「だいぶ人が減ったとか?」
「あー、そうでもないです」
かなり、仏頂面トークに聞こえると思うが、女将さんはけして感じの悪い人ではなかった。ただ、少し目が死んでいる気もする。きっと、僕のせいだろう。
カギが要るならば預かり金として500円もらうが、明日早い時間には受付に人がいないので、カギ無しで良いか?と聞かれ、問題なくうなずく。カギなんていらない。
風呂の場所と利用できる時間、最低限の説明を受けてエレベーターに乗り606まで案内される。
空調が効く!結果あんまり効かなかったけど!
「ここですね」
デーン!と開けられた扉の先に拡がる、いつもの西成安宿三畳部屋。もう。驚きも落胆もない。僕の感情を強いて言うなら、フラット。ごくごくフラット。
女将さんに「お世話になります!」と頭を下げると、先方もエレベーターの待ち時間の間ずっと頭を下げてくれていた。単純に、僕の顔を見たくなかっただけかもしれない。
三畳間ではあるが、少しイレギュラーな形に畳が分割されており、三方の壁にピッタシ付ける形で布団が敷かれている。畳も、布団もおおむね清潔。虫の気配はない。
いたずらに布団の下の畳の状態を見たくなって、めくってみた。
結論から言うと、めくらなければ良かった。毛だらけで汚かった。
結論を言うと、後悔した。
しかし、お前はほかの宿でそんな卑劣なチェックしたか?してないだろう?布団の下は、もう触れない。めくらない絶対!
テレビ台がわりのカラーボックスに謎のプラスチッキーなブツが入っていたのでとりだしたら、台所で使う水切り棚だった。でも、コレ机になりますね!実際この上にノートパソコン置いて作業したよ。タイピングするたびに揺れてイライラしたよ。
壁掛け電話も!思わず受話器を取ったら、呼び出しが始まったので慌てて切る。すみません。
そして、もっとも特筆すべきはエアーコンディショナーが作動すること。テレビの脇にリモコンはあったが、どうせお飾りに違いないとタカをくくっていたのだが、電子音鳴る!ピッっていうてる!エアコンの緑ランプ点いてる!
これまでの西成の宿で空調設備が生きている部屋はなかった。これは大変なことである。今日は、ダウンジャケットをプラスして持ってきたが、不要かも知れない。
ただこれも結果論だが、温度設定31℃でガンガンに温めても、結局翌朝までたいして部屋の温度は上がらなかった。三畳間なのに?どこかから暖気が抜けてしまうのだろうか。しかし、ほのかにあたたかかった。何事も腹八分目が良いと聞くよ。
そして結果論で語るヤツは卑怯者だよ。
廊下に出るとトイレと洗面がある。それなりに清潔だ。他の階にも行ってみたが、ほぼ同じ作り。
なぜコレが映し出された?
小用を足し、一服してWi-Fiにつなぐ。そう、ここも無線LAN地帯。軽快に動く。「センサク」認定。
普段はテレビまったく見ない君のわたし。西成に来ると一応電波チェックはしたいもの。ベタついたリモコンの電源ボタンを押す。
???。!!!。
なぜ、流れた!なぜ、机の上でしている!
しかも、結構なボリュームでアンアン言っていたので、慌ててチャンネルを変える。ビックリした。どうやら、「旅館 赤坂」はBSも見られるようだ。アレはCSでは…。CSだろ…。
さっきのアンアン言ってたのは、きっとCSのアダルトチャンネルを受信していたのだと思うのだが。
どこー?見つからない。
結果20分以上格闘したが、二度とああいった好ましくない映像は見られなかった。残念だ。途端にリモコンのベタつきが気になったので、トイレに手を洗いに行った。
女性専用がある!
カギのかからない部屋にパソコンを置いて、風呂に向かう。湯舟を使える時間は8時半で終了だが、9時半からはシャワーのみ使えるそうだ。
そして、女性利用時間帯、ならびに女性専用シャワールームの記載があることにお気付きだろうか?
これまで、西成の安宿でベッドメークやお掃除の方、受付のご主人を除いて女性の宿泊客に会ったことはない。ただ、館内の注意書きが多言語表示されているのを見ると、きっと海外からの旅行客を多く受け入れていたようだ。バックパッカーのなかにはきっと女性もいただろう。はじめて染色体XXの、かすかな面影を感じたのだった。
ちなみに風呂は、なぜか浴槽にもガンガンに湯が沸き出ておりシャワーだけでなく湯も浴びれた。誰とも一緒になることはなかった。
外からスイッチ
不思議だったのは、部屋の照明スイッチがドアの横、外にあったこと。
なんだか、ご主人様がタコ部屋に奴隷を住まわせ、就寝時間を管理する様を想像して怖かった。
「旅館 赤坂」の客室は6階までだが、エレベーターには「R」表示が、一応行ってみると、倉庫っぽくなっていたので、少し怖かった。
はじめての安宿での食事
10時過ぎに外出。9時でシャッターは閉められるが、通用口から24時間出入り可能。門限無し。
おなじみ「スーパー玉出」で128円(外税)で「スクランブルエッグ」というお惣菜を買う。宿に戻り、玄関先のレンジであたためる、が、何分起動させても、ちっともスクランブルエッグがスクランブル状態になってくれない。優しいあたたかさ。
エアコンの効き具合といい、「旅館 赤坂」は、ほんのりとしたあたたかさに包まれたお宿。
スクランブルエッグには徹頭徹尾ギッシリ卵が詰めこまれていた。
はじめて西成の安宿で、食事をした。何も食べる気が起きない状態が続いていたが、ようやくこの環境に慣れてきた。絶対に、布団をめくった時の映像は思い出さないようにした。思い出したけど、完食した。卵を食べました。
玄関先のレンジとポットの隣には、クリスマスの飾り付けがあった。
優しい朝
「優しい雨」というお笑いコンビがいたなぁ。どんな単語にも「優しい」とくっ付けると、おだやかな気分になれる。朝方までたいして室内の温度は上がらなかった。
「優しい風」
「優しい朝」に「優しい地下鉄」で「優しい昼の仕事」に行ってきます。
旅館 赤坂
宿代:¥1400
三畳/テレビ(AVが映るかも)/コンセント4口/エアコン(優しい風)/トイレ共同/風呂・シャワー共同(時間制限)/ボディソープ/シャンプー/布団(めくっちゃダメ!)/鍵有(保証金制度)/内鍵/喫煙/ゴミ箱/灰皿/カーテン/一泊OK/夜間外出可/Wi-Fi(サクサク)/ハンガー/お盆/便利テーブル(水切り棚)/フック多め/電気スイッチ(廊下)/自販機(ジュース)/翌朝10時まで/エレベーター/電子レンジ共同/電気ポット共同/公衆電話/門限無し/女性専用シャワー・トイレ/室内電話/多言語案内/クリスマス感
清潔度 ★★★
フロント★★
サービス★★★★
価格 ★★
総合 ★★★
食費
スクランブルエッグ 138円
伊藤ハム・カルパス三本入り×2 212円
レジ袋 3円
コカコーラ・爽健美茶 84円
コカコーラ・紅茶花伝 90円
サンガリア・素晴らしい麦茶 73円
西成に落とした金額
計:2000円