暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

君はワンダー。 「新今宮ワンダーランド」のPR記事について

新今宮ワンダーランド」

という大阪市が進める、ドヤ街観光化プロモーションにまつわるPR記事が“炎上”した。

しまだあやさんというライターの方のnoteの投稿。

note.com

現在は、冒頭に「追記」という形で

このエッセイは、大阪市の「新今宮エリアブランド向上事業」の取り組みの一貫としてご依頼いただいた、街のPR記事です。

との説明が加えられているが、初出時には「PR記事」であることがわかりにくく、のちになって「電通」や「大阪市」というバックにそびえる組織が浮き彫りになり、「いい話」「ほっこり」「ステキ!」という空気が一転、嫌悪感から炎上につながったようだ。

 

西成のあいりん地区周辺の安宿で暮らしてみて、この「新今宮ワンダーランド」プロジェクトが現地でどう受容されているのか。

多分、誰も気にしていないし、知らない。
街にはポスターが散見され、西成労働福祉センターにはチラシがあったように思うが、ワンダーランドに住んでいる人が、この街の「ワンダーっぷり」を改めて再認識してはいないでしょう。

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街のブランディングが、当地の人々の想いを無視して突き進むことなんて、そこかしこで起こっているだろうし、「日雇いの街」「ドヤ街」「危険な地区」というイメージを覆い隠して、プロモーションしたいという思惑は、大阪府民ならすぐに感じ取るだろう。

 

街の名前が持つイメージ、というヤツがある。

例えば、「水俣」や「Fukushima」という地名が喚起する印象は、けして前向きなものではないかも知れない。

事実、昨年「大阪都構想」の選挙の際、僕は北区の会社で働いていたが、

「西成と一緒にして欲しくない」

という声を聞いたし、大阪市在住の人でも、あいりん地区に足を踏み入れたことの無い人たちが相当数いる、というのが僕の実感だ。

「あの街はねぇ…」

という蔑みを隠さない人も多い。

西成区
という地区全体が忌避されているような印象がある。

 

今回、「新今宮ワンダーランド」という名称で、“西成”という地名を糊塗して、“新今宮”という地名を前面に押し出している背景にも、そういった匂いを感じる。

しかし、これは差別問題に関する著作を多く持つ塩見鮮一郎の受け売りだが、
蔑みや侮蔑の対象となる呼称をむしろ誇って生きていけばよい。

「生活の場が消費されていく、街の良さが消える」
と意見している人のほとんどは、西成で暮らしているわけではないだろう。
外野から無責任に茶々を入れているだけだ。

「浄化され、漂白された街に魅力なんてない」
のは確かだろうが、外野で眺めている連中が守ってくれるわけでもない。

そして、そんなにたやすく浄化も漂白もされないであろう街が、ここ西成もしくは新今宮であることは訪れてみればすぐに感じるはずだ。

 

しまだあやさんのnoteを僕はメルヘンチックに楽しく読んだ。

取材者として、こんな短期間にネタを集めて文章をまとめ上げる能力が羨ましい。

けれど、西成もしくは新今宮の魅力を「人情あふれる街」で押していくのは、どうでしょう?
シャンプーとボディソープを貸してくれる人がいる街、って魅力的なんですか。

ホームレスらしきオッチャンとのデートが出来る街、ってワンダーなのか。

いくらか、この街の「ションベン臭さ」とか「怒鳴り声」とか「タチの悪いオバチャン」みたいな要素をふりまいても良かった。
それじゃ、美しいPRにならない、ことはないと思う。

ある種の「ダークツーリズム」の範疇で、「ヤバい街」である西成もしくは新今宮を眺めるのが現状に即しているだろうし、そのなかで「でも、意外とイケてる街やん!」と感じさせて欲しかった。

僕は、この街に来て二ヶ月になるが、事実「人から嫌なこと」をされたことはない。
だけれど、それで「人情の街=西成」とは思わない。
誰もがどこか孤独で、自らの力のみで立っている人が多いと感じる。
もしかすると、大都会よりもむしろ他人に興味のない人たちの集まりのような気もする。
酒の力で騒ぐことはあっても、基本孤独。

だからこそ、予防線を張って、自分を守るために、外から来た人に丁寧に接しているのではないか、とさえ思うのだ。

 

しまださんは、こう書いている。

おじさんのことを書いてもいいかと聞いたとき、「書いて書いて! 絶対読むわ」と言ってくれた。感想を聞きながら、今度は私が一杯おごりたい。家のないお兄さんは「ええけど、どうやって読んだらええの? 俺、携帯ないで」と言っていた。このページを印刷して、カーディガンを羽織って、高架下まで届けに行きたい。

それを実践して、また新今宮に来てワンダーな体験をして欲しい。
「もう会えない」ことないです。
狭〜いエリアなんで、きっとまた会えます。
新今宮ワンダーランド」のコピーは、「来たらだいたい、なんとかなる。」
なんとかなる。

もしかしたら、しまださんがデートしたオッチャンは、随分久しぶりに女性と話したのかも知れない。きっと、しまださんは彼にワンダーをもたらした。

なんとかなって、また会えたら、「おじさんのこと書いたら炎上しちゃった!」と、話してみて欲しい。

あの街で「貸し」を作らなきゃなあ、と思う。

とも書いていることだし。
お仕事のPR記事を離れて、個人で続編を書いてくれたら、カッコいい。
きっと、ステキな記事になる。