飛田新地
に初めて足を踏み入れたのは、高校生の時だった。
今のようにネットで情報を仕入れた訳でもなかろうに、その場所が「飾り窓」や「遊郭」として機能している事はどこかで聞き知っていた。
しかし、実際に夜半過ぎに訪れてみて、驚愕した。
妖しく光る提灯に、ピンクのライトに照らされ、襦袢をはだけて座るお嬢たち、通行客に声をかけるおばちゃんのダミ声。
カルチャーショックとはありふれた表現だが、まさしくそれは高校生のおぼこい自分がそれまで触れたことのなかったカルチャーとの遭遇であった。
その後も何度か飛田新地を訪れているが、2回目の時は万券を握りしめて行ったにも関わらず、当時付き合っていた女性がいたので、そこを利用することは裏切りに思え、近隣の今は閉館した「飛田東映」で映画を観て帰った。
万券どころか、500円しか使わずに。
その後はサービスを受けたこともある。
もう大人だったし、彼女いなかったし。
誰に言い訳しているのか分からないが。
松島新地
そんな新地も当然ながら、緊急事態宣言の影響を受けている。
以下は、現在の松島新地の様子。
2週間ほど前に、九条のシネ・ヌーヴォで映画を観たついでに寄ってきた。
通常は明るいうちから、客引きは行われているのだが、その一帯はひっそりと静まりかえっていた。
九条という街は、少し西成あいりん地区あたりと似ている。
花街が隣接しており、アーケードの商店街があり、安い飲み屋が林立し、その日暮らしっぽいおっちゃんも居る。スーパー玉出もある。
新地は撮影が困難な場所であるが、誰もいない、お嬢もいない、襖の閉じられた料亭が続く。
撮り放題ではあるが、なんの情報もない。
飛田新地
当然ながら、各料亭には明かりが灯り人の影は感じるが、営業は行われていない。
物見遊山で集まる客もまったく見当たらない。
ときおり、車がゆっくり通行しているくらいだ。
コロナ禍にあって、職を失い風俗店に「堕ちる」といったネット記事をよく見かけるが、「堕ちた」場所で生きている人たちはどこに行けばよいのだろう。
あの禍々しい喧騒がなくなった花街は寒々しく、わずかな灯りだけを灯していた。
西成の日雇いを求める労働者と手配師の光景も前時代的だが、この街の客引きの様子も異様な、そして眩しい風景。
コロナの流行を機に何かが変わるのかも知れないが、ここで生きていくと覚悟を決めた人たちは次の策を講じるだろう。
時代と疫病に流されながら、新地のありようはどう変化するのだろうか。
といった結局何ひとつ語っていない書きぶりでこの稿を終えたい。
オチ無し。