西成ホテル探訪・十六日目
明けました。
12/26に、日雇い「現金」仕事を経験してから薄ーい内容のブログを引き延ばしてお茶を濁していた。昼の仕事の会社は、12/29まで作業があり、年末はまったく意味のない寝だめ。大晦日から1/3までは、雪深い実家に帰省し、毎日まったく意味のない雪かき。なぜなら、かいたそばから、ドンドコ積もりまくるから。僕のふるさとでは、久しぶりの大雪でコロナもあいまって老人はますます、引きこもり。1/4の早朝に大阪に戻り、その足で昼仕事始め。
そして、2021年1月4日。夜にも仕事始め。
西成安宿探訪、再開です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
おめでとうございます。ました。
残務というべきか初務というのかに追われて、会社を出たのは19時過ぎ。
いつもの大阪メトロ堺筋線もまだ空いています。今年もこの通路を行ったり来たりする予定。「動物園前」駅、9番出口。
前述のとおり、人並みのささやかな肉親の寄り合いを選んだために、年末年始の西成あいりん地区の様子は見ることができなかった。
例年、三角公園では「釜ヶ崎越冬闘争」という形で、炊き出しや音楽会などが催されているらしいが、もう跡形もなかった。貼り紙だけ。
「書初め大会」や「新春まち歩きツアー」とか。
参加してみたかった気もします。ただ、外から来た人間がゾロゾロとこの街場の様子を覗いて練り歩く行為とは一体なんだろう?という気もする。なにより、僕自身がこのブログでそれをやっている訳ですが。
泊まり初め
年明けの西成あいりん地区もいつもと変わらない景色。
ただ、開いている飲食店はまだ少なく、昨年お世話になった「ホテル 大阪」や「ホテル 新光」も20時前なのに受付は閉められ、住人の方だけが出入りしている様子。
あいりん地区を抜けて、太子の方に足を延ばす。看板に火が灯っていないが、ダメ元で入ってみます。最低価格が掲示されていたとおぼしき部分は消されているが、
「各室4畳以上のユッタリスペース」
というキャッチが気になります!
"ゆったりスペース"と、平+片で責めずに、"ユッタリスペース"と片+片で抜いていくのが独特です。「ホウジチャラテ」の用法。
「こんばんは。今日一泊いけますか?」
「ええですよ!」
「1500円の部屋も空いてますか?」
「大丈夫よ!お名前は?」
「竹下です」
「下の名前は?」
「ええと、キノです」
「え?どんな字?」
「ええ、カタカナです」
「うんうん。わかりました」
下の名前を聞かれたのは、ドヤ巡りで初めてだった。オヤジさんは、キノとか聞かされて、一瞬戸惑っておられたが、何かを察してくれたようだった。「ユッタリ」と同じ片仮名ですよ。
本日の寝ぐら、確保。
「ビジネスホテル ハナヤ」
ガラスの向こうで応対してくれたオヤジさんは、一人鍋をかましていたようで、〆のおじやを頬張っていた。60代後半か、末井昭をふくよかにして、肌を少しキレイにしたような面相。とても快活で歯切れよく応対してくれる。
「お風呂も入れますからね。じゃあ、207ね。今、案内しますよ」
「カギもあるんですね!明日、返せばいいですか?」
保証金などはとくに取られず、カギ付きの部屋のようだ。
「朝は9時までなんやけど、ココに返さんでいいですよ。部屋の冷蔵庫の上、置いといてください」
大変ありがたい。すばらしい!
「靴は持って上がってもらって…」
「ここの下駄箱は入れん方がいいですか?」
エレベーターに向かいながら、聞く。
「一応、持って行って!それ、エエ靴やんか!念のためね」
全然エエ靴でも、イイ靴でもないんだけど。わかりました。
ユッタリスペース!
エレベーターを待ちながら少し雑談。
「大阪の人?」
「はい」
「なら、大体わかるね。だいぶこの辺も変わったんやけど、ちょっと不用心だとアレやから。俺も、何回か靴盗まれたんよ(笑)」
「住んでる方もいるんですもんね?」
「そうやね。働いとる人も多いから」
2階で降り、部屋の扉を開けてくれる。
「下は10時でカーテン閉めるけど。出入りは自由やから。ただ、あんまり騒がしいのは、みんな大人やから分かってね?」
「はい、大丈夫す」
「暖房もガンガン使うてください。暖こうしてね!」
終始、笑顔で接してくれ気持ちの良いオヤジさんだった。
室内はたしかに「ユッタリスペース」
畳敷きは四畳に満たないが、土間やテレビと冷蔵庫の置いてある棚の部分も含めると、かなり広い。これまでの西成安宿探訪において、最広。
時計は時を刻むもの
部屋はおおむね清潔。
布団のペラペラさ、せんべい具合は致し方ない。1500円でなにを望むのか?テメエは。ちなみに、またやらなきゃいいのに万年床をはがしてチェックしてみたが、許容範囲である。
枕が大小2個あるのも、すばらしい。どうしてもヘナってくるものだから、W使いさせてくれるのはありがたい。
窓も大きめで解放感があるし、ハンガーや小机。冷蔵庫、テレビ、エアコンなど備品も勢ぞろい。
ちょっと難癖をつければ、テレビと冷蔵庫の同時使用でコンセントが埋まってしまうこと。エアコンは、立ち上がりが異常に遅かったが、ガンガンに効いた。
あと、まったくの難癖であるが、ゴミ箱のデザインがなんというかファニー。
自転車!バスケ!ロックンロール!!
そして、大きめの電波時計があった。
ホテルと時計の関係性。
「なぜ、ホテルの個室では明快な時刻表示がなされないのか、変な額装の風景画とかはあるのに、問題」
については、西成安宿探訪を始める前から疑問に思ってきた。
事実、ドヤ巡りを開始してからも、宿の館内に時計はあっても、個室内に時計があったのは初めて。極力、抑えられる備品のなかで「時計」があるのは、すばらしい!
毎朝、早朝に仕事に向かう際には、時計の存在って大切だと思います。
ちょっと豪奢なホテル=宿泊そのものがアミューズメントになるような宿
ならば、「時間を忘れて過ごしてもらいたい」という狙いで、部屋内に時計を置かないという理念は理解する。
しかし、
西成ドヤ=今日の休息と、明日の仕事をつなぐ、セーブポイント
であるから「時間」は知りたいし、「時計」は必要だと思うのだ。
限られた予算内で、泊まる人のことを真摯に考えてくれている宿だと思いました。
ボヤ騒ぎ
館内の風呂が閉まるまで時間があったので、少し外出。
おや!入館時気が付かなかったが、Wi-Fiもあんのか!
その場でつなごうとしてみたが、???。
「すみません!Wi-Fiのパスワード教えてください」
「ああ、それ!通ってないんよ(笑)貼ってるだけ!!」
まだ、ガッツリおじやを食べていたオヤジさんは満面の笑みであった。
OKです!
「ビジネスホテル ハナヤ」を出ると、なにやら騒がしい。
どうやら、近隣の宿で出火があったよう。焦げ臭い。大量の消防車。救急車。
大事には至らなかったようだが、これまで泊まった木造宿や、老朽化した宿で、寝タバコ決められたら一発で全焼だと思いますね。僕がもし毎日西成労働していたら、寝タバコする自信あります!僕もタバコやめよう、切実に。ホテル側にとっても相当なリスクだろう。
労働→酒→タバコ→労働→酒→タバコ
は魅惑的なループですが。
少し歩くと、路上に卵が投げつけられている。
散髪場所の指定、の看板。
マッサージチェアと快適な風呂と便座カバー
宿に戻って、風呂に行く。
22時まで入れるのは、すばらしい。ほかの宿はたいてい21時で閉められる。
先客がおり、僕のあとにも人が来たので風呂場内の画像は無し。
風呂場は同時に10人程度は入れる広さで、カランとシャワーを切り替えると湯の温度が150度くらい変化するので戸惑った。固形石鹸、シャンプー、リンスが備え付けで無くなったら、勝手に補充できる。
先客が左肩に刺青上等な方だったので、風呂場内では、またクソ卑屈に振る舞った。
お湯は入浴剤のほかに、なにか入れているのか少しピリピリした電気風呂のような味わいで心底、温まった。
風呂場の入り口にはマッサージチェアも!一応、使ってみたが正月休みでなまった身体は、とくに癒しを欲していなかったようで、すぐやめる。
4階建ての「ビジネスホテル ハナヤ」
最上階は長期滞在者用か。どの階もおおむね同じつくりであった。西成ドヤ特有のコイン式ガスコンロはないが、各階に電子レンジやトースターが設置されている。
酒の自販機は稼働していなかった。
雑誌はアップデートされていないようで、「秋ドラマ」を知ることしかできないようだ。
ただ、驚いたのは洋式トイレに便座カバーが付けられていたこと。ホスピタリティー!
ちょっと衛生的に不安はあるが、うれしい気遣い。トイレットペーパーがピンク色とか、あるんですか!ファンシー。
貼り紙コレクション
先に触れた
「ユッタリスペース」
表記で、うっすら感じていたのだが、貼り紙の表記も独特。
「くれいむ」
そこは平仮名かぁ。社長というのが、あのオヤジさんかな。
「協力たのむ」
アニキ感がある。
「厳守」斬首!
そして、大変達筆である。
なにより、感銘を受けたのは1階エレベーター脇に貼ってあったこのメッセージ。
「色々な事情があって、西成に途中下車したかもしれませんが、流されることなく、小さな夢に向かって、いつか花を咲かせましょう」
少し、感動してる自分が居ました。
館内をウロついていたら、オヤジさんが風呂場の掃除に向かうようで、
「もう、お風呂は終わったよ」
「大丈夫です!さっき、いただきました」
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
風呂で心から温まったので、暖房の温度を落として就寝。
ちょっと、今回は「すばらしい」と連呼し過ぎてしまったが、間違いなくこれまででベスト級な宿でありました。
おやすみなさい。
今年も、今年こそ、頑張ります。
ビジネスホテル ハナヤ
宿代:¥1500
四畳強/コンセント2口(テレビ・冷蔵庫を使用すると埋まる)/トイレ共同/風呂(~22男 ~23女)/布団(万年床)/鍵(保証金無)/内鍵/喫煙/灰皿/小机/一泊OK/夜間外出可/ハンガー/フック/棚/門限無し/自販機(酒は故障・ホテル前にジュース)/エレベーター/電子レンジ共同/ガスコンロ無/トースター共同/テレビ(地上波のみ)/イヤホン/カーテン/個別空調/ゴミ箱/窓(大きめ)/雑誌漫画/コインランドリー/マッサージチェア/コロナ対策(消毒液)/電波時計/翌朝9時まで/オヤジさんイイ人
清潔度 ★★★
フロント★★★★
サービス★★★
価格 ★★
総合 ★★★★
食費
キリン・生茶デカフェ 90円
タバコ・アメリカンスピリット 570円
西成に落とした金額
計:2160円