西成ホテル探訪・十七日目
まだ地下鉄は空いていた。
みんな、大阪の人々はおとそ気分なのだろうか。大きな組織は1/6から新年始業というところも多いのだろう。僕は、今日も今日とて西成安宿へ。
これからの宿泊候補
西成チェックインスタンダード締切り時刻、20時まで少し余裕があったので、行きたいけれど受け付けてくれるのか不明な、これからの寝ぐら候補を当たってみる。
「日乃出」
イイ感じなくたびれ感がある。
「すみません。コチラ一泊はダメですか?」
「いえ、もうやってないんです」
「決まった方だけですか?」
「ホテルはやめてるんです。ごめんなさいね」
現在は月単位の福祉アパートに変わってしまっているようだ。
往時、西成あいりん地区を支えてきた労働者たちの多くは、もう身体がいうことをきかない年齢に達しており、生活保護を受けながら、かつてのドヤが福祉アパートに変えられた物件で暮らす方々も増えていると聞く。
残念!断念!
「つかさ旅館」
商店街のわき道にあるこの宿も、いつも灯りはともっており、帳場のようなところに人の影はあるのだが、宿泊料金の掲示がない。
「すみません。。。すみません!!」
奥の方でテレビを観ているらしいおばあさんが、腰をさすりながら向かってきてくれる。すみません、すみません!
「コチラ、今日泊まれますか?」
おばあさんは、左手を大きく横に振る。
「もう、埋まっちゃったの」
「そうですか、でも一泊から宿泊は受け付けてますか?」
「うん。でも、今日はダメ」
「わかりました!また来てみます!」
すみませんでした。『ロンドンハーツ』に戻ってください!
一応、泊まれそうではある、出直そう。
西成安宿の受付時間は、かなりシビア。
数時間しかフロント業務が行われていない宿も多い。なかには、朝の数時間で受付してくれるところもあるらしいのだが、ネットで漁っても正確な情報は見つけられない。こうやって、地道につぶしていく以外ないだろう。
「ホテル 王将」
ラブホテル。
という選択肢も排除してはいけない。この探訪には、寛容さと克己心そして挑戦する気構えが大切である。ただ、ラブホに関しては料金設定が、安宿基準を超えていることがほとんど。コチラはどうだろう。
Aタイプで4000円か。無理だな。
というか、もう廃業してるな。
踊り場に便器
三軒も聞き込みをしていたら、もう20時近く。
今夜の寝ぐらを決定せねば。あいりん地区から離れてしまったので、今日も太子町付近で。
「末廣屋」
入口には「1300円」とある。安宿的に合格です。
正月のしめ飾りをくぐって受付へ。
「今日、一泊イケますか?」
「・・・んん?ああ、いいですよ」
「1300円の部屋だけですか?」
「そうです。よろしい?」
「はい、お願いします」
「そしたら、お名前は?」
「竹下です」
こたつに入っていたご主人は、60代くらい。派手な柄のセーターを着た七三分けのロマンスグレー。すぐに、カギを出してくれたので、
「カギ。保証金いりますか?」
「いや、必要ないですよ。出るときも、部屋のテレビの横に置いといてください」
ありがたい。鍵を使うためにデポジットされる保証金という人質制度がなんとなく滞在時間の気分を暗くするのだ。西成安宿探訪者は繊細である。
「お風呂はナシですね。シャワーがあるんですか?」
「そう、使わはる?100円やけど」
「なるほど。100円で何分イケるもんですか?」
「そら、何分やろ(笑)どこまで洗わはるかによるね。普通には入れますよ」
愚問だなぁ。
我ながらバカみたいであった。ここで100円払って、「末廣屋シャワーリポート」をすべきなのだが、辞退してしまった。このあたりが、僕のジャーナリズム精神のモロさ。寝る前に反省しました。
「末廣屋」は5階建てだが、エレベーターは無し。中央に階段があり、その両側に各部屋が設けられている。
驚くべきは、小用トイレがオープンな場所にあったこと!
暖簾で目隠しはされているが、かなり抵抗はある。
しかし、心配なさるな。大便器は個室内。洋式だし。
安心感を高める旧仮名遣いで、がんばりませう。
ついでに5階まで登ってみたが、4階は住人の方、5階は宿側が使うリネン室やベランダがあった。眺望に期待してはいけない。
高さ120㎝くらいの「物置」からは、誰か飛び出してきそうで怖かった。
岡村に聞け
使えないのだが、一応シャワールームの画像を、と思い1階をうろついていると、こんな貼り紙が。
実権を握る、もしくは傀儡で暗躍する「102の岡村さん」
これは、9時以降に102のドアをノックすべきだった。取材不足、不明を恥じる。
ヌクヌクだがカイカイでもある
それでは入室。
ここも外に照明スイッチか。
壁とカーテンのヤニ汚れがひどい。
きっと僕の肺もこうなっているのだろう。
しかし、ニオイがきついわけではないので許容範囲。僕の肺も匂わないことを祈るばかり。
テレビは地上波のみがしっかり写るが、操作方法がトリッキーであった。
窓のカギもトリッキーであった。
しかし、デブった手である。全然、痩せないな。
暖房はかなりしっかり効く。
宿泊料金と宿の普請ぶりからエアコンは期待していなかったのだが、嬉しい誤算。入口付近のツマミは機能していなく、リモコンでON。
布団の寒さ対策もバッチリ。
二重布団に、ヌクヌクカバーもついて1300円。
しかし、問題は毛布、アクリル地に出来た毛玉にかなり毛が!
仕方ないので、毛布ははずして、暖房を効かせながら眠ることにしよう。
結果的に風邪をひくことはなかったのだが、身体中にかゆみが!
久しぶりにバグたちにやられてしまった。
朝イチで天満のマンションに戻り、シャワーを済ませて昼の仕事に出社した。
102の岡村さんに報告したかった。
30円のライフガード
この日の食事は、西成名物激安自販機の1/8賞味期限切れジュースを2本のみ。
30円×2。
でも、痩せない。
明日への夢、以外に何も食ってないのになぁ。
末廣屋
宿代:¥1300
三畳/コンセント2口/トイレ共同(フルオープン)/シャワー共同(100円)/布団(万年床)/毛布(毛毛毛)/バグいるかも/鍵(保証金無)/内鍵/喫煙/灰皿/小机/一泊OK/門限有(22時まで)/ハンガー/フック/電気ポット共同/電子レンジ共同/テレビ(地上波のみ)/カーテン/個別空調/ゴミ箱/窓/チリトリ(ホウキ無)/炊事場無
清潔度 ★★
フロント★★
サービス★★
価格 ★★
総合 ★★
食費
西成に落とした金額
計:1360円