「昔はね、この新世界あたりに20軒以上映画館あったからね。今はもう串カツばっかりやからね。その串カツにも、もうみんな飽きてきたんちゃう(笑)」
大阪市浪速区。
パリとニューヨークを併せたような景観を持つ大阪の新名所とすべく誕生した「新世界」という繁華街には、1960年代の高度成長期、多くの映画館があり、活況を呈していたというが、現在残る映画館はわずか二館のみ。
以前訪れた「新世界国際劇場」に続き、
「新世界東映」
の支配人の方にもお話を伺うことができた。
「新世界東映」は、東映旧作をフィルム上映二本立て1400円で、毎日オールナイト上映。(コロナによる時短営業時を除く)
ピンク映画の「日劇シネマ」、ゲイポルノ映画の「日劇ローズ」を併設する。
2021/10/22からは、先ごろ急逝された千葉真一の追悼特集上映がスタート。
スクリーンに生きる役者たち
ー支配人は今おいくつですか?
「言わない(笑)
この前亡くなった千葉ちゃんより下ですわ。70代でいっぱい亡くなってるもんね。健さんも、長谷川一夫も、みんなウチでかけてる映画のスターばっかり。かけてる映画に出てる役者は、ほとんど死んでおれへん。
だからどうしても『追悼上映』が増えてしもて、次から次に亡くなってね。北島三郎も、小林旭もね」
ーえっ!その二人なくなったんですか?
「いや、亡くなってませんよ!
怒られてしまいますわ、お前待ってんのか!って(笑)
健さんの時なんか大騒ぎやったんよ。普段けえへんような放送局も来よってね」
ー普段から上映してるのに
「そうよ!」
番組編成について
「ひらめきですよ。なんも考えてへん、考えたら悩んでもうて、決められへん(笑)
色々な組み合わせをね。映画が、好きやからやっとるんですわ、好きでなかったらとっくにおれへん。ただ、ネタがだんだん無くなってきとるんでね。お客とのマッチングやから、小難しい映画やってもね、太宰治とかそんなもんやっても誰も見向きせえへん。
(客層は)やっぱり年配層でしょ、酸いも甘いも噛み分けた人たちやから、ここでかけるのは1950年代60年代の映画。
やっぱり私は人間に興味があるから、昔の役者は個性があるでしょ。高度成長で人間もダラけていって、映画もダラけてしまったんですな。
ピンクやゲイのほうは、編成してません。あれも結構大変で、もうフィルムで新作つくってないんですわ。数がないんですわ。
最近の映画は観ませんけど、『鬼滅の刃』やとかね。別に毛嫌いしてる訳やないけど、あんなん私ら5分も耐えられへん、もう帰らしてもらうわ!てなもんで」
ーもしかしたら、『鬼滅の刃』をかけたら、お客さんがいっぱい来るかも…
「絶対に来ません!
怖がってきませんわ。新世界という土地柄で」
新世界東映の歴史
「ここの支配人になってから、25年くらいかなぁ。もう支配人になった頃には、映画は斜陽でね、倒れんように食いしばってやってきましたわ。
ここは、昭和24年に芝居小屋として始まってから、映画に切り替えて、昭和27,8年に東映館になって。
さっき言ったように、この辺だけで20何軒映画館があったんです。ここは東宝、向かいが大映、洋画も入ってきて今もある「新世界国際」さんとかね。封切館もあれば、二番館三番館いわゆる名画座もあって、当時のお金で100円もせんかった70円くらいで観られたからね。給料も月10000円くらい?梅田やったら、500円。わー高いなぁ…やけど、新世界は昔から低料金ですわ」
苦肉の策のオールナイト上映で『仁義なき戦い』
ー当然、最盛期よりは客の入りは減った?
「そりゃもう雲泥ですわ。東京オリンピックくらいがピークちゃいますか。私は昔は千日前の劇場におったんですけど、『ジョーズ』とか、『エクソシスト』とか、『燃えよドラゴン』はようけ入りました。その時代(1970後半)、千日前の当時の支配人は、あかんなー客入らんなーどないしょ、ってなったら『仁義なき戦い』かけとこ言うてね。5本立てやってね、そしたら1000人くらいワーって来んのよ。
封切って、アカンかったら途中で番組差し替えるんですよ。あの頃はオールナイトやってましたからね。そうしたら、主婦連が猛反発してね。そらお母さんたちも心配やわね、夜中までロクなことせえへんから(笑)
東映がオールナイト始めたら、各社も飛び乗ってね。基本的には、9時10時に上映終わっとたんですよ。でもそれより遅やって客入るんやったら、やったらええやんけ!って」
ー新世界東映が今もオールナイトを続けているのは、理由が?
「そんなもんないですよ。ただ客入れなアカンいうだけ。ただ、オールナイトやっても、入りが良ければええけどね。人件費もかかるしね、その辺の判断は難しい」
ーここで寝たりする人も?
「そらそうですよ。外より安心やからね」
ーここ、新世界東映で大入りだった映画は?
「やっぱ『仁義』。あれが突出しとるかなぁ。
私はまだここにおらんかったけど、健さんの『日本侠客伝』とか、バカみたいに入ったらしいですわ」
ー『仁義』は今でも入るんじゃないですか?
「そうやね、若い人も来るかな。まあ『仁義』は好評ですわ。ヤクザ映画としては出涸らしみたいなもんなんやけどね。実録モノやから。でも、まあ今でも客は来る、ホントの出涸らしやね(笑)」
フィルム上映のこだわり
「まあ映画館を続けていくのなら、いずれデジタルにね。でもウチでかけるのは旧作ですから。正直、デジタル信用してないんですわ。4K8Kどないしたんや!って。
フィルムはネガがあって、ポジに焼くでしょ。業界用語で言うと『こする』何遍もかけるから傷んできよるでしょ。それを上手くやるのが映写技師の腕ですよ。ウチでやられてる方は長いですよ。今の若い世代はわからんからね、後継ぎが問題やわね」
ー支配人が上映作品を決めて、東映から借りる訳ですね?
「そう、問屋さんみたいなもんです、ウチは小売。
期限切って、終わったらお返しすると。だから、全部覚えとかんとね、フィルムの状態も分かってなならん。
ニュープリントなんかしてくれませんから、お金出したらしてくれますよ。でも、そんな金あれへんもんね」
これからの新世界東映
ーこの先どれくらい続けていく?
「さぁ、分からんなぁ。
明日、潰れるかもわからん。いやホンマ!冗談抜きで。
ピンクやゲイのほうにほとんど負けてますわ。もちろんピンクやゲイが悪いとかじゃないけど、本来ならコッチも入って欲しいんやけどね」
ー千葉真一の『直撃地獄拳 大逆転』とかは結構入るんじゃないですか?
「どうかなぁ?それより主演デビュー作の『風来坊探偵 赤い谷の惨劇 』ですわ。滅多にかかりません、貴重なね。しかも、深作欣二デビュー作でもあるからね」
数少なくなったフィルム上映館でかかる映画たちが、軒並み「追悼特集」という形であるのは、なんだか示唆的である。
それでも、すでに「斜陽」と言われた時分から25年「新世界東映」を守り続けてきた支配人の「踏ん張り」でこれからも、絶妙なプログラムを提供し続けてもらいたい!
「明日、潰れるかも知れん!」
と言うのなら今日、観に行こう!
まだきっと「タマは残っとるがよう」