暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

西成で暮らす。4日目 ①「朝食のありがたみ」

2021年3月4日。①

宿を出たのがAM4:30前。
会社員時代ならば、夜ふかしが過ぎて、そろそろ眠ろうかと言う時間。
3月に入って昼間は幾分春めいたきたとは言え、深夜早朝は一桁台前半の気温。作業着替わりのアノラックの襟元を高くして、外に。

「ビジネスホテル スバル」の面した御堂筋線には、ワゴン車と手配師の姿が見える。

仕事はある!

手配師が声をかけてくれるゾーンは大まかに、下記の地図。ショッキングピンクでショッキングに記した辺り。

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担いだバックパックにヘルメットをぶら下げているから、「仕事したいです!」アピールは出来ているはず。声を掛けられることを期待して、歩き出す。
ナンパ待ちとか、こんな心持ちなんでしょうか?ドキドキ。

すると、おじいちゃんと言っていい革ジャンの紳士がすぐに寄ってきた。

「ニイちゃん!解体で、1万で安いけどな。朝昼付いてる。どうや?」

「ハイ!大丈夫です!お願いします!」

瞬殺でナンパされました。そして、即お付き合いすることに。
「解体」かぁ?
初めてだなぁ。

「それじゃ、これでなんか飲み。頑張ってな」

と、手配師のじい様から100円玉を渡される。
こんなパターンあるのか!やったー、100円稼いだよー!

手配師のそばには、30代くらいの作業着姿の青年がおり、しきりに手配師にお礼を言い、僕には荷物を車に積むように促す。
じい様と青年のやりとりから察するに、僕に声を掛けた手配師のじい様は「カリスマ手配師」みたいなレジェンドなのかも知れない。
「レジェンド!どうしても後1人見つからないんです。どうか伝説の手腕をお貸しください!」
みたいな懇願を青年がし、じい様がそのらつ腕をふるった結果、僕が捕まったのかも。光栄。

もらった100円玉でサンガリア「まろうまカフェオレ」を買い求め、白いワゴン車に乗り込む。
車内には、先客が1人。「おはようございます」と挨拶したが、とくに返ってくる言葉はない。まだ、白みはじめる前の空のもと、先輩の顔は見えない。

でも、こういった挨拶はこれからも続けていくんだ。虚しい壁打ちになったとしても根源的な礼節は失ってはいけない。

飯場までの遠い道のり

近場ならいいけどなぁ。
そう願っていたが、ワゴン車は2回高速道路に乗り、1時間近く走った。

車上から見える道路案内標識の看板は、すでに大阪市内をまたいでいる。
郊外のロードサイドをひた走るワゴン車の車窓からは、24時間営業のフィットネスクラブやチェーン経営の飲食店がいくつも見えた。
この間に、ナンパされた喜びは消え、すっかり「解体」仕事への不安に変わっていった。

 

「それじゃ、降りて。領収書にサインしてきて」

ほとんど「山の中」と言っていいような場所。プレハブ小屋がいくつも建ち並ぶ飯場に到着。ワゴン車を降り、事務所で個人情報を記入し、「呼び出し時間・業者」が書かれた紙切れを渡される。この会社、この場所に日雇い人足が集められて、各現場に散っていくシステム。
僕のような西成で拾われた人間だけではなく、奥にあるプレハブ小屋では、何人もの労働者が生活をしているようだ。

「横の食堂で、朝飯と弁当もらってください」

事務所の隣に行くと、調理場と灰皿が載せられた長机、パイプ椅子が数脚並んだ食堂があった。
調理担当のおっちゃんが、声を掛けてくれる。

「冷蔵庫に生卵と納豆入ってるから、取ってな!」

奥にあるテレビから流れる早朝のニュースを眺めながら、作業着姿の先輩たちは黙々と食事中。やがて、次々と人が集まってくる。

小さな2ドア冷蔵庫には、パック納豆と生卵が入ったザルだけがあり、納豆そうでもない派の僕は、卵をチョイス。
学校給食で使われるようなプラスチック製の容器に炊飯器から、固めに炊かれた白米をよそい、玉ねぎや油揚げの入った味噌汁。おかずは!おかず無いのか!おかずは、漬物くらいでした。
山盛りにした米で卵かけご飯にする。「おっ!ちょっと火ィつけるわな」と調理担当のおっちゃんが温めなおしてくれた味噌汁とともに胃袋へ。卵がけご飯は、ザクっと混ぜるくらいのバランスが好きです。おかわりしたいくらいだったが、食べ過ぎて身体が動かなくなるような懸念もあったので終了。久し振りに食ったメシは控え目に言って、美味すぎた。

食堂には、製氷機もあった。持参の水筒に氷を入れ、西成水とブレンドしておく。

待って、移動

待機場所は、食堂とは別のプレハブ。
ソファとテレビ、ストーブ、タバコの自販機があった。
西成から一緒に護送されてきたおっちゃんも遅れて待機場所にやってくる。
またしても、自己紹介をしあったり、名刺交換とかはしないので、パートナーのおっちゃんの名前はわからない。

さっきもらった紙切れには、呼び出される時間は「6時20分」と書かれている。
時間はまだ5時40分。卵かけご飯美味かったな。

途中、事務所の方が猫を抱えてやってきて、「ああ、テレビ付けていいんやで。もうちょっと時間あるからな。待っとってな」と言って去っていった。
眠たそうな猫は、しばしストーブの前で体を温めてから10分後にはプレハブを出て行った。

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ちょうど、タバコが切れたので待機場所にある「タスポ不要」の自販機でKOOLを一箱買う。¥530。働くから、買っていいよね。

さらなる移動

6時半近くなったが、まだ呼び出しがない。

「もう時間過ぎましたけど、ここに居ていいんですかね」

「いいと思う。呼びに来るでしょ」

はじめて先輩と言葉を交わす。
明るい照明の下で相貌を認識した。60代までいかないだろうか。
瘦せぎすでロマンスグレー。タレた大きな目が特徴的な男前。『狩人の夜』『恐怖の岬』で知られるロバート・ミッチャムに似ている。あとで分かることだが、ミッチャムよりも笑顔はステキ。お名前は今もってわからないので、今後、彼の名はロバートとします

数分後、呼び出しがかかり迎えに来てくれた車に乗り込む。
ゴリゴリに筋肉質の60代のおっちゃんが運転席で不機嫌そうに迎えてくれる。

また、車移動。
20分ほど走って、これまた山奥のスクラップ場のような場所へ。
大きなトラックが数台、ユンボも置かれている。この会社での仕事を請け負うのだな。

「みんな来るまで、待っとって」

迎えに来てくれたおっちゃんにそう言われ、また待ち。
ただ、今度は寒空の下。
屋外のベンチに荷物を置き、灰皿を囲んで、タバコに火を点ける。KOOLは久々だ。葉っぱがスカスカだなぁ。

「バブルの頃は良かった…」

ここでロバートに話しかけてみる。

「けっこう田舎に来ましたね」

「そうね。現場がどこか、まだわからんけど」

そうか。ここからまた移動して、どこに飛ばされるのか?

 

「平日は、はじめて働くんですけど。いつも仕事はあるもんですか?」

「どうやろ?随分減ったけどね」

「4時半に行ったんですけど、時間はそんなもんでいいんですかね?」

「ああ、もっと早い方が良いかもしれんね」

何時起き!何時に寝れば良いんだろうか…。

 

「昔はもっと仕事あったですか?」

「いやー、バブルの頃は良かったよ。10時頃でも仕事あったから」

「そうなんですか!それで17時終わりで金はそのままですか?」

「そうやったね。今は、景気悪いから」

宿のことも聞いてみよう。

 

「今、転々としてるんですけど。西成のホテルはどこが良いですか?」

「安いところは、暖房がないから。2000円くらい覚悟した方がいいやろね」

「ホテル暮らしですか?」

「いや。俺は今アパート借りとる。諸経費入れて、月¥47,000」

「結局、ホテル暮らしよりは安くつくかもしれないですね。その方が」

「うん。エアコン使わない時期なら電気代は¥1,500くらい。今の時期でも¥5,000いかないから」

「でも、住んでるのはあいりん地区付近ですか?」

「そう、〇〇あるでしょ?あの近くよ」

 

バブルの時期を経験しているということは、もう西成生活が数十年を数えるのだろう。ロバートは、話しやすく優しい方であった。ただ、笑うとやはり歯が無かった。
ちょっと、一旦、歯磨いてきますね。


その後、30代くらいの現場監督と、20代の方がやってきて、僕とロバートはそれぞれの運転するトラックに分かれ、もう1人のおっちゃんがユンボを運び、現場に移動していく。

「ウチの仕事はキツいで。覚悟しときや」

僕は、20代の方のトラック助手席に乗り込む。

走ってしばらくは無言だった青年が声をかけてきた。

「おっちゃん、何歳?」

「46です」

「ずっと、こんな仕事してるん?」

「いや、最近です。それまではデスクワークで」

「いきなり体力仕事か。大丈夫なん?」

「どうでしょう。頑張ります。解体ってどんなことするんですか?」

「今日は、まず屋根の瓦?アレ外して、建物壊すとこまでやな」

「キツいんでしょうね(笑)」

「キツいと思うで。あそこの会社?あそこに住み込みの人もおって、ウチで働かせるんやけど、ウチはキツいって言っとったな」

「あの場所に住んでる人も居るんですね」

「そう。でも、なんかな毎日3000円取られるらしいから。あの、プレハブで!」

「足りなかったら、西成から呼んでくる感じですか?」

「そうみたいやね。よう知らんけど、手配師?に声かけられるん?」

「そうです。4時半に10,000円で拾われました」

「4時!バカバカしいな(笑)。どっか別の仕事した方がいいやろ、そんなん。しかも、多分ウチからは2万近く出しとるからな。あの会社が半分以上抜くんやろな」

「夏場なんかキビしそうですもんね」

「ああ。夏はぶっ倒れるよ。デカい会社なら空調服?アレ着とらんと雇わんらしいから。おっちゃんも夏までにはマトモな仕事探した方がエエわ」

 

絶望
けれど、仕事はまだ始まってもいない。

20代の青年はこのあたりが地元らしく、伝統の祭りの話などしてくれた。
ただ、その快活な若者らしい話ぶりは現場では鬼の形相に一変するわけだが。

以降、西成で暮らす4日目②に続きます。