西成労働日記・一日目④
前回からのつづきです。
「ハツリの手元」
と
「ガラ出し」
を汗だくになりながら進めているうちに、あと2時間。
タバコ吸いすぎ問題
確かに吸いすぎだ。現場の人たちは皆いちようにタバコをくゆらせる。
しかも電子派は極小。みな紙巻きを吸いまくる。ほとんどの人たちは、しっかり仕事をした、その合間に吸っているから無問題。おんなじ土工仲間であるところのTさん&Kさん。T&Kは、とくに吸いすぎだ。
かくいう僕も喫煙一派なので、喫煙自体に文句はない。しかし、ある程度仕事してから吸ってほしい、と思うの。
やっぱり、もう現代。現代においては、タバコはダメな象徴になってしまったのだな。と、T&Kを見ながら思うのだった。
そして、ひとつライフハックをお伝えしたい。
喫煙スペースとはいえ、ゆったり腰掛けられるイスなどが用意されていることは少ない、と思う。そんな時は、被っていたヘルメットを逆さにして、くぼみの部分にケツを突っ込んで座ると意外と快適。若い電気工事の人がやっていたので、真似してみたら、思いのほかしっくりきた。ぜひ、日常的にも活用したい。そして、画像が足りないので使い回したい。
もう仕事ないス。〜終業まで
身体を痛めつけながら、ここまで踏ん張ってきた「ガラ出し」も終わった。
ただ、A地点からB地点に物を移動させる、という単純作業もいつかは終わるのである。ゴミ捨て場のワイヤーケージは、コンクリのカケラと土のう袋でいっぱい。
残り1時間。
このマンション建設現場は年内の作業は今日で締め。
どうやら、現場監督は出来ることは全てやってしまいたいようだ。
Tさん、Kさん、Sさんはこれから生コンクリートが流し込まれる予定の部分に鉄筋を設置している。マンションの外周の掃除をしていた僕は、取り残された。
指示待ち人間。それはダメ!
とは巷間叫ばれていることである。しかし、次に何をすべきなのか全く想像だにできない。僕は何もできない西成初仕事人間です。
すると、
「あなた!いま空いてる?」
と監督に声をかけられる。かけられてしまう。透明な存在で居たかった。
マンションの各部屋に取り付けられたエアコンや備品の大量空きダンボールを、いま置いてある建物内部から、外の空いている部分に移動して欲しいとのこと。
再びA地点〜B地点パターン。ただ、軽い。軽いので助かりました。
それでも、時計は進まない。「ボチボチ」やっておけば良かった。先輩の言うことはしっかり実行すべきだった。
「もう、終わったー?」
と、再び現場監督に問いかけられたので、ネクストタスクに移行。
「今度は、ちょっとむずかしいだけど」
「むずかしいんですか?」
「いや、むずかしくはないか(笑)」
という感じで、壁にグルリと養生テープを貼ったり、床のハッチの外周をマスキングしたり、する大変繊細で複雑な仕事をおおせつかる。
作業自体は問題ないが、壁際にかがんだり、床にしゃがみこんだりするので、酷使した腰や、重いものを持ちすぎて、軽く震えている指先などが円滑な作業進行を妨げる。
「おーわーりー!」
Tさんの今日イチの大声が響く。16:45。キッチリ17時前の絶妙な時間をわかってらっしゃる。
気づけば、現場には僕ら西成からの土工と、数名の職人さん、現場監督を残すのみ。
「お疲れさまでした」
「おお、お疲れさん」
「また、来た時にはよろしくお願いします」
「そうやな。来年は1/6からやな」
Kさんに挨拶する。12/27に仕事終わりで1/5まで仕事がないのか。日雇いで食っていくなら、大型連休とかは敵でしかないなぁ。
17時前に終了
カバンを取りに行って戻ると、Tさんが地銀の封筒を渡してくる。
「ええー、いただいてもいいんですかー!」
とか言ってはいない。いくらもらえるのかわからずに、条件も知らされずに働いていたし、ある種いい経験として、別に金いらないな、と途中思ったりした。
しかし、確実にやられたこの身体、この疲労感。
金よこせ!という気持ちなっていた。
ホチキス留めされ、二つ折にされた紙封筒をもらう。
「お世話になりました」
「ご苦労さんやったな!」
Kさんにも別れを告げる。残っていた職人さんや監督にも挨拶し、ベトナムから来ているSさんにも声をかける。
「お疲れさまでした!ありがとう」
「ありがとうございました。車乗ってかなくてイイ?」
「大丈夫、ありがとうね。また!」
地下鉄の駅が近いことはわかっていたし、車に同乗させてもらって西成まで行くとかえって遠回りだ。
笑って手を振ると、Sさんもマスクを外して手を振り返してくれた。
なんて、爽やか。そして、あとくされゼロ。これが「現金」仕事か。
装備は必要
1日「現金」仕事をしてみてわかったこと。
・やっぱりヘルメットは偉大だ!
作業中なんども、飛び出た板、コンクリの角、運ばれているパイプなどの頭をぶつけた。ヘルメットがあるから、突っ込み気味だったとは言えるけれど。土のう袋の重さに気を取られて、前方不確認というパターンも多くあった。
もしメットを被っていなかったら、僕は死んでいただろう。
・やっぱり安全靴は偉大だ!
作業中、15時あたりからずっと左足の甲が痛い。ずっと痛い。自覚していなかったが、どこかで痛打したのだろう。鉄板がつま先に入っている靴なんて…、と思っていたが、安全靴って必要なのだ。
しかも、雨が降っていなくても、工事で使われた水でぬかるんでいる箇所も多いから、防水的な機能も必要だ。どうやら。この世には「安全長靴」という一挙両得な逸品があるらしい。リストバンドとアームカバーがいっしょになったような夢の商品。天才か。
・普段着でもイケる
結局、いくらかアウトドア寄りではあるが、作業着ではない出で立ちで1日やり過ごした。ある程度頑丈で動きやすければ、作業着マストではない。ただ、作業着を着ていないと、朝仕事をもらう時に声をかけてもらいにくい。
・身体はしんどい
とにかく、身体はしんどい。46歳で始めることじゃない。
・仕事は単純
たった1回「現金」をやっただけだが、全く資格や経験を問われることなく、仕事がもらえたし、現場で行う作業はいたってシンプル。何も考えずやれるだけに、いろんなことを考えながら仕事してしまう。それぐらい単純。
はたしていくらもらえたのか?
ご覧のように、
10000円である。
朝飯も昼飯も付かなかったし、現場までは車で行ったが、帰りは地腹で地下鉄代230円かかった。
仕事が決まったのが、5:30
仕事が始まったのが、8:00
仕事終わりが、17:00
労働時間は、休憩を抜いて7時間だとしても、全体拘束時間は12時間近くある。ということは時給に均したら…、飯代と交通費を引いて…、とか考えないでおこう。ただ、朝の無駄な待ち時間がなぁ。厳しいとこである。
あのニオイは僕のニオイだ
初めての「西成で働く」これにて一巻の終わり。
地下鉄に揺られて帰る。今日は、安宿探訪はお休み。天満のマンション帰らせてもらいます。
アノラックのジッパーを下ろして、首に巻きつけてあったタオルを取る。したたかに濡れている。季節外れの汗まみれのタオル。
すると、自分の身体からフワッと、あるニオイが立ち上がってきたような気がした。前日、泊まった「緑風荘」の部屋から匂ってきた
汗臭さとも、加齢臭とも、アンモニア臭とも違う。その全部をかきまぜて濃縮したような淀みきったヘドロチックな香り。
そのニオイが確かにしたような気がした。
前日、僕が忌み嫌っていた匂いが、僕の身体から漂っているのか!
あの部屋にいた誰かは自分だ。
懸命に働いて、疲れた身体を横たえていた誰かと、自分がつながった気がした。
日付:2020/12/27(土)
場所:大阪市内
現場:マンション建設
内容:ハツリの手元・ガラ出し・掃除・ダンボール回収・鉄パイプ運搬・養生,マスキング
時間:5:30~8:00~16:50
待遇:朝昼飯ナシ・交通費ナシ
給与:¥10000