2021年7月13日〜7月19日
すっかりロングロングスリーパーとしての役割を終えて、昼過ぎに起き出し、今日は自転車を購入しようと思う。
西成生活前に8000円だかで買った中古自転車は、前タイヤが歪み（ウーバー中の事故）、後輪泥除けが取れ（ウーバー中の事故）、ブレーキが異常に固くなり、カゴが外れかけている。ので、ネットで探した中古自転車を良心的な価格で売っていそうな自転車店へ。
店頭には目ぼしいブツがなかったので、店主に声をかけると、「倉庫に山ほど在庫があるんで希望言ってくれたら組みますよ」とのこと。
「ママチャリ」「フラットハンドル」「ライトが生きてる」「無難に走れる」と自走式二輪車に求める最低限の条件を告げると数日後には連絡してくれるらしい。
夜になって、西成界隈を歩いていたら、アパートの前でオッチャンが「ウーフ、ウーッフ
」と呻き声をあげて中腰で喘いでいる。
判断が難しいところであるが、一般的に道端で倒れていたり、路肩で焦点の定まらぬ瞳で悄然としている人物を見かけたらば、前者ならば「どうしました！」と声をかけ、後者ならば「どうしました！」と同様の声がけをするのが、人としての道を歩むニンゲンの道理。
ただ、西成ではそんな光景はごくごく日常的であり、「どうしました！」と声がけをすれば、「なんのようじゃい、ワレ！」と逆アップをかまされて終了。
ところが、今僕の眼前のオッチャンは虫の息に見える。
「どうしました、動けますか？」
「ああ、腰がね。腰が痛うてな。ありがと、ありがと」
「呼びますか？救急車とか」
「いいー、いい。いつものことやから。時間経てばなんとかなるから。ここに入りたいだけやから」
「じゃあ、そこまで行きましょう」
オッチャンに肩を貸して、買い物の手提げ袋を持って、アパートの入り口までゆっくりと移動する。オッチャンは、入り口の台に手をかけ、
「おお、おお立ったらラクなった。ありがと」
「酔っ払っとるわけではなかったんやね」
オッチャンの身体からは、加齢臭とは違う老人的な枯れた草のような香りがしたが、アルコールの匂いはなかった。肩を貸した際に回した僕の右手には腹の肋骨が当たっていた。
「もう、酒は飲めんの。飲まんのよ」
「道の真ん中は危ないから、アホみたいなチャリンコも通るし、ここならマシやね」
「ありがと。すまなんだな。ちょっと息整えたらイケるし。ありがとうな」
「ほいじゃ。おやすみなさい」
うん、うんとオッチャンは頷き、僕はその場を離れた。
エコバッグ代わりに何度も使ったと思われるクシャクシャのビニール袋には、魚肉ソーセージと豆腐が入っていた。
翌日は、名古屋の案件の企画を考え、採用もされていないのにコピーやタイトルまで用意する。パワポをこんなに力入れて作るのは、大阪の会社でもやったことない。
玉造の私書箱で荷物を受け取り、ホームセンターで数日後やってくるニュー中古自転車のためにワイヤーロックを買い、最終シーズンが配信開始されたばかりの『ユニークライフ』を一気見する。
自閉症スペクトラムを抱えた青年の成長を、その家族や友人との関わりを通じて描いた地味だけどベラボウに面白いこのドラマもこれで完結らしい。当たり前だが、ドラマはどこかを切り取り、どこかを捨象し、見せたいものや事を抽出し描かれる。ペンギン好きな主人公のことはいつまでも見ていたいけれど、彼がどうなるのか？は、視聴者の想像で補うことになる。
僕は、ドラマチックな人生を生きてみたいと思うけれど、実際には紆余曲折や艱難辛苦を選ばすに、飯食ってマスかいて寝るだけで息をして時間をやり過ごすばかり。
そうやって過ごす時間がドラマチックで納得できるものかどうか？は死ぬ間際に判断すればいいんだろう。そもそも、ドラマなんて人生に必要なものかどうかも分からない。
あっちゅう間に木曜日。
先週、惨敗に終わった名古屋のzoom会議が数時間後に迫っている。
敗戦処理登板する訳にはいかない。
なんとか、ものごっつい企画を。
そのきっかけを、と鑑み近隣の図書館を目指すが、当然のようにコロナで閉まっている。
そういえば…と財布をまさぐり、国立国際美術館の友の会会員証を見つけ、ギリギリで会員資格期限内なのを確認し、向かう。インフォメーションで聞いたら、今日の展覧会までは無料で鑑賞可能。
隣に建築中の、大阪中之島美術館も外観はほぼ完成していた。
人影もまばらな館内で、
「鷹野隆大 毎日写真1999-2021」
「Viva! Video! 久保田成子展」
を鑑賞。
写真という芸術は、
いかに美しく撮るか
といった命題をとっくに乗り越えて、
どう撮るか？誰が撮るか？どうやって見せるか？
という世界になっている。
ありのままにありのままらしく世界を写すことよりも、関係性や企みがフレームの外側に思い描けるような芸術。
ツールはカメラで、現れるのはプリントでも、吐き出すのは作家の情念と狙い。
美術館を出て、僕の企画力が即座に格段にレベルアップするわけはなく。
オンライン会議の時間が迫ってきたので、慌てて西成に戻る。
30分ほどの自転車を漕ぎながら、自分の企画がいよいよ素晴らしいんじゃないか？
と思えてくる。分かってない名古屋の連中がバカだ。
いいよ、これ天才的じゃん！
17時より3時間近く、先週と同じ6名でzoom打ち。
用例凡例を増やし、危ないけど面白いと思う天才の企画を放出。
無駄に言葉を放ち、多少は説得的に。
右下の女は聞いてるか？笑ってる。
という訳で、2本の企画が通った。
「なんかよく分からんかったんですけど、そういう熱量が大事だと思います」
という、完全に褒められていない意見が多数を占めた。
この時点で、コロナの影響を受けており、スタートが遅れることは告げられていたが、とりあえず企画としては上とクライアントに提出される。
今日見せたパワポをブラッシュアップすることになった。
ありがとう！
お前らもう仲間だよ。
お金ください！
企画の1本は相当に攻めたやつで、敷衍してあらゆる事象をネタに出来る万能選手。
仮タイトルは、「あの子シャツをインして威張るの」
通称「シャツ」
ただし、ジャッキー先生の『プロジェクトA』みたいに仮題がそのまんま本タイトルになることはない。
枠組みが決まったので、会議参加者からもどんどんネタが出される。
その時点で僕はすっかり勝利投手なので、ベンチ裏で煙草を吸っていた。
緊張で汗だくの汚い身体を、少しはマシに洗浄して、勝利の美酒ならぬ勝利のツナオニオンサラダを食べる。
やったった。
勝ちです。
すっかり、3億くらい稼いだ気分で、翌日は散髪に行き、坊主にしてもらう。
「ヘアーサロン はしもと」
基本料金が1000円なので、過度なオプション注文は難しいかと思うが一応聞いてみる。
「丸刈りで、丸刈りなんですけど、サイドの伸びが早いんで、横だけ上より短く刈り上げてもらえますか？」
「わかりましたー。じゃ、横3ミリにしようかね」
もともと、全体のフォルムも、顔面の造作も、どう転んでも最低レベルなので髪型などどうでもいい。坊主でいい。坊主がいい。
女将さんの言葉のはしばしに「野犬」とか「鯛」が付くので、ブリーダーか漁業関係者かな？と思った。
「お母さん、九州の方ですか？」
「そうなんよ。もう大阪きて50年やけど、言葉が抜けんのんよ」
「やけん」とか「たい」、そうやけんだったい。
散髪中にテレビで難波の工事現場でクレーンが倒れ、労働者が大怪我をするというニュースが流れる。
「あらー、大変や！」
「日雇いの人もお客でよく来ますか？」
「そうやねー。常連さんもおられますよ。これからもっと暑くもなるし、大変よねー」
お気楽1000円カットの料金だが、顔剃りも眉毛まで整えてくれ（多分、眉毛をいじったのは20年ぶり）、マッサージなどもしてくれる。
「ちなみにですけど、ここで店始めた頃の話とか、今度聞きにきてもいいですか？」
「いやいや、なんかテレビとかの人？話すことなんてないよぉ。ただ一生懸命働いてきただけ！お父さんに聞いてみたら？」
会計時に、親父さんにも伺ってみたが、
「いやいや、何にもないよ」
と一笑に付される。
店の外観を撮影しながら、店内のお二人と目が合って、笑顔で別れた。
このサービスで洗髪料込み、1300円也。
翌日からは、ウーバーイーツ連投。
土曜の夜に、組み上がった中古自転車を購入。
これで、もう事故んなきゃいいな。
日曜日もクソみたいな客連中に、残飯を届け続ける。繰り返し。
日曜の夜は、週末のお楽しみ「野宿」のじゅっく。
銭湯で汗を流し、深夜1時ごろにホテルに向かうと、なんだか騒がしい。
こんな夜中に重機を載せた車や作業員が南天満公園のロードサイドに集まっている。
安眠を妨げる輩たちの登場に苛立ち、仕方なくコインランドリーで洗濯をして時間を潰す。
このソファなら、安眠できそうだけど。
3時を回って、いつものベンチに戻る。
新しい野宿先も探さないといかんなぁ。
そんな希望しかない毎日だなぁ。
深夜の作業を横目で見ながら、いつの間にか寝ていた。
すみません、働いてください。さっきは文句垂れてすみませんでした。
月曜は、博多MTGの日。
2時間ほどの浅い眠りで目覚め、夏本番の日射しに辟易とする。
トランクルームで西成行きの支度を済ませ、晴天のなか砂遊びする園児を眺めながら、ふと足元をみやるとこんまい蟻たちが必死に蠢いている。
太陽光が地面の解像度を格段に上げ、これまで気にも留めていなかった蟻の動きが遠くまでハッキリと映る。
なんのために生きてんのかなぁ。
蟻じゃなくって、俺。
月末あたりに大分県に行くことに決め、そんなに上手くいかない会話を終える。
どうしても、この案件では中心の若い女性の作業量の負担が大きくなってしまうので、いくらか一助できたらいいと思う。
木曜には、あんなに天才的だったのに、すっかり無能。
調子悪くてあたりまえ ©︎近田春夫
明るい内に野菜食って、風呂入って、クーラー効かせた「パークイン」の一室で気絶。
収入
33177円
使った金額
7/13
交通費：260円
ハッシュドポテト：108円（二個分）
ヤマザキ・メロスナック：130円（二個分）
ヤマザキ・ランチパック：292円（二個分）
精肉加工品：356円
キャベツミックス：147円（二個分）
岩塚・黒豆せんべい：363円（二個分）
森永・ベジタブルおっとっと：212円（二個分）
ポッポ・えび玉：190円
一口黒棒：149円
シューアイス：124円
森永乳業・いちごチョコモナカ：95円
ロッテ・BIGカルピス：95円
赤城・チョコミント：73円
みかんバー：124円
コカコーラ・アクエリアス1日のマルチビタミン：255円（二個分）
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：400円
7/14
マクドナルド・チキンナゲット15ピース：390円
マクドナルド・トリチ：420円
ダイアル式ワイアー錠：1089円
スイートセレクト：300円
ソフトサラダ：140円
濃厚チーズ：340円（二個分）
セブンプレミアム フレンチクルーラー：118円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：400円
7/15
鷹野展Tシャツ：2800円
交通費：260円
スポーツサンダル：5984円
書籍：858円
自家製惣菜：216円
天ぷら：216円
鳥唐揚げ：95円
キャベツミックス：147円（二個分）
ベビースター：168円
パリッテ バニラ＆ショコラ：106円
赤城・ブラック：106円（二個分）
マイルドいちごオーレ：106円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：400円
7/16
散髪代：1300円
精肉加工品：107円
天ぷら・255円
キャベツミックス：147円（二個分）
コッペパン 焼きそば＆マヨネーズ：106円
お徳用いかの姿フライピリ辛：214円
ナビスコ・エアリアルしお：106円
栗山・お徳用米菓：214円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：800円（二個分）
7/17
交通費：230円
ミスタードーナツ・チョコファジシェイク：604円（二個分）
みかんバー：248円（二個分）
黒烏龍茶：108円
やかんの麦茶：130円
うめソルティ：120円
塩ライチ＆ヨーグルト：140円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：800円（二個分）
7/18
中古自転車：10800円
交通費：230円
駐輪代：150円
コインランドリー（洗濯＋乾燥）：900円
焼きたてパン：279円（三個分）
やわらかカツサンド：415円
あらびきチョリソーソーセージ：84円
オムそば飯おにぎり：88円
手巻おにぎり エビマヨ：88円
ポテロング しお味：149円（二個分）
みかんバー：124円
マンゴーバー：124円
メグミルク・フルーツ：117円
セブンプレミアム 烏龍茶：149円
烏龍茶：108円
サンガリア・まろやかフルーツ＆ミルク：160円（二個分）
ライフガード ゼリー：100円
サンガリア・まろうまミルクティー：100円
レジ袋：3円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：800円（二個分）
7/19
宿泊費：6745円（五泊分）
焼きたてパン：432円
いかゲソの天ぷら：63円
自家製惣菜：216円
天ぷら：363円
キャベツミックス：220円（三個分）
ミニスナックゴールド：106円
メロンクリームサンド：81円
チョコバニラバー：108円
ジャスミン茶：140円
メグミルク・フルーツ：106円
コカコーラ・綾鷹ほうじ茶：160円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm：400円
所持金
25,030円
