ホルモンという呼称の由来が「放るもん=大阪弁」に起因しているというのは全くの俗説に過ぎないという事を今一度確認せねばならない。それは、「ホルモンなんてお下劣なものを嬉々として食っているのは、下賎な輩である」という岩盤状の強固な差別的バイアスによるものであろう。
ちなみに、マンガ家のことを「先生」と呼んだのも、漫画というジャンルに対する世間の軽蔑への抵抗言説であったと考える。今では、そんな偏見も薄まったように思う。マンガ家ほど、「先生」と呼ばれるに相応しい労力と情熱が必要な仕事は無い。
かつて、テレビ番組で「先生!」と名指しされた山城新伍が「先生と 呼ばれるほどの 馬鹿でなし」と眉間に皺を寄せて応じ、「先に生まれただけの何が偉いの?」と喝破していたことを思い出す。先に生まれても何も成していない私のような愚物もいるよね。
ホルモンは、ギリシャ語で「刺激する・呼び覚ます」を意味する「ホルマオ」を語源とし、「身体を活性化させる」というイメージで英語の「hormone」と結びつけられた、らしい。
こっちだって通説であるが、面白くない分「放るもん」説よりは確からしく思える。
面白っぽい話は大抵ウソ。現実は、クソ面白くもない。
西成界隈にはホルモン料理の名店がそこらにあるのだろうが、大概アルコールとセットなのがイヤ。酒の肴としてではなく、ダイレクトに臓物食いたい。うどんと食ったら最高だろう。なら「きらく」だろう。そうだろう。
食材は玉出
開店時間の8時半ちょい前からスタンばってたら、8時過ぎに女将さん自転車で登場。
前カゴには、玉出のロゴマークの入ったレジ袋。地売地消。
屋号の入った暖簾が掛けられる。
さっそくに慌ただしく準備を始める女将さん。外まで勢い良く湯気が流れ出る。
店の隣、朝から缶チューハイいってるオッチャンと、
「まだまだ、一日長いなぁ」
「まだ始まったばっかですよ」
という、『キッズ・リターン』みたいな会話で様子見。
「もう。イケますか?」
「ああー、どーぞー!」
「ホルモン、うどん。ください」
ところで、大事な暖簾が軸にからまって、店名が読めない。
あえてかもな?でもな。聞いてみたらいいよな。
「暖簾は、こう(丸まりを解く手振り)せんのです?」
「あれはな、背ェが届かんの!」
じゃあやりますよ!ってんで、「きらく」を開陳。
「ありがとう!背ェが届かんからねぇ、えらいこっちゃ(笑)」
玉出の袋から取り出されるうどん玉。ネギも。
早朝からの営業には、スーパー玉出の存在は大きい。
「いつもこの時間からですか?」
「そう、8時半から。夜も8時前くらいやけど、しんどい時はもうな。閉めてまうの」
「昨日、夜通りかかったら閉まっとった」
「あら、ゴメンねぇ。通しでしとるからな。しんどい時はなぁ」
「夜は暇なんですか?」
「来ることは来るけどな、もうこんだけ稼いだからエエわ、って」
湯がかれる玉出うどん。
いかにも、夏場はしんどいの極みを迎えそうな厨房。
「これは暑い時期は大変そうですね?」
「これはもう、ねじり鉢巻!背中にタオル入れてな、頭には鉢巻してな」
「厨房写してもいいですか?」
「エエけど、鍋の中はダメやで。よく(撮影したいって)言われるんやけど汚いだけやからな。鍋の中は断ってるんよ」
「秘伝?なんかないよ(笑)」
注文して3分で着丼。
いかにも、これは美味そうでしかない。そして、見た目通りの味。文句なし!
「美味いでっす!」
「ありがとー」
ホルモン一皿を追加。
テレビからは大谷翔平のニュース。けっこうなボリューム。
それに負けないよう、一際下品に音を立てて麺を啜る俺。「美味いです!」の後、うまい二の句が継げないので、その代わり女将さんに届け!って感じで音を立てて麺を啜る。
そんな自意識に辟易してきた頃に、女将さんから天使の一声!
「これ、サービス」
なんと、完璧なホルモン三昧定食が完成です。
あざっす!
「これやっぱ、伝統の?秘伝の味付けなんですか?」
「秘伝?(笑) そんなんないよ。ホルモンに、塩と醤油、あと味の素ちょこっと振りかけるかな。でも、その日の天気?天候?によって味付け変えてるわな。みんなな「秘伝あるか?」ゆうて聞いてくるけど、秘密なんかあるかいな(笑)」
白ごはんにホルモンぶっかけるか、
うどんの残り汁に白ごはんブチ込むか、
悩みましたが、結果、うどんの器に白ごはんもホルモン一皿も全部ぶっ込んで、よくかき混ぜて、かきこんでやりました。いやー、満足。表現力は絶無だけれど、美味かったです。
この手のねこまんま的食い方だと、
古市コータローが「ペヤングのソースをかき混ぜない」と公言していて、「薄いとこと濃いとこがあるからいいんじゃない」らしく、
さまぁ〜ずの二人が、「卵かけご飯をまばらにしかかき混ぜない」ようで、「薄いとこと濃いとこがあるからいいんじゃない」らしく、
それが粋な食べ方だと思う。思うけれど、実践は出来なくって、僕は均一になるようにかき混ぜてしまう。最初の一口と最後の一口の差は、ごちそうさま!までの距離感だけ。
もう少し、年取ったら「かき混ぜ不足」で食えるようになりたいです。
続けることが秘伝です
女将さんのワンオペで通しの12時間営業。
確かにしんどそうだ。
「元はご夫婦でやっとったんですか?」
「そう」
「亡くならはったん?」
「元気なことは元気やけどな、自転車旅行で足ぃ悪うしてもうてな、今歩くんで精一杯や」
2人でやってたのを女将さんが1人で引き継いで、なんでも無さそうで秘密なんかないけど、間違いなく美味いホルモン。
夜閉まってても、ノークレーム。確実に食らうなら早朝に。
「ごちそうさま。また、次も暖簾ひっくり返すのやりますわな」
「ハハ、ありがとう。おおきに。またおいで」