暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

西成で働く。2日目~②ただただ無知な私

西成労働日記・二日目②

前回からのつづきです。

nishinari-lives.com

 装備を怠る愚か者

感じたのは「皮手袋」の素晴らしさ

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大モノのタンスやテーブル、ベッド、造り付けの家具などはそのまま階段下まで運搬できない。2階でバールなど、バールのようなもので粉砕して小分けされた形で木片などを運ぶ。その際、木粉やささくれができるし、鏡やガラスなどもブチ壊して運ぶ。

 そんな時、皮手袋は心置きなく、鋭利なガラスの尖端部などを気にすることなく触れる。おそらく、前回使っていたゴム手袋だとすぐに破れていたに違いない。
装備品の大切さ。『ドラクエ』あたりでもっと学んでおくべきだった。「かっこよさ」や「みりょく」が減じても、「しゅび力」や「耐性」のつく装備を身に付けておきたいものである。できれば「すばやさ」も上げたい。

棟梁が帰ってくるまでの間に、
3階のベッドと30インチ相当のブラウン管テレビ。
2階の大型3ドア冷蔵庫、小型2ドア冷蔵庫。
を、下まで運ばねばならない。

野口さんがベッドを解体している間に、ブラウン管テレビをなんとか独りで運ぶ。ほとんど階段を滑らせたが、階段自体を崩壊させてしまっては、足場が無くなる。頃合いで運ぶ。意味なくブラウン管を、バールのようなもので叩き割った。ジャパンバッシングのとき、アメリカの労働者が日本製テレビを壊していたときのように。
ブルース・スプリングスティーンの『Born in the U.S.A.』を口ずさんだよ。

野口さんはかなりマイペースにベッド解体中なので、必然、僕が3階と1階をゴミをかかえて往復する。「すばやさ」がかなり衰えてきた。愚鈍誕生。

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冷蔵庫はバラすのこと

2階に鎮座していた3ドア冷蔵庫がどうしても、階段まで出せない。

「どうやって入れたんや、コレ」野口さんも不思議モード。

冷蔵庫の全長が高すぎて、鴨居にどうしても引っかかる。鴨居をぶち壊せればいいのだが、家屋の破壊はNGである。

ということで冷蔵庫の方を破壊。バール大活躍。プラスチックの部位を取り外しなんとか階段の踊り場までは移動させたが、これをどうやって下まで降ろすの?

「やー、怖い。怖いです。潰される気がします!」思わず懇願。

当然のように、階段下に配置されたので、必死に3ドア冷蔵庫の全荷重を全身で受け止める。受け止められない、って。
正直、上にいる野口さんはなす術なし。ここは僕のチカラが試されている!片仮名でチカラと書きたい。西成チカラ試し。

少しずつ、少しずつ、階段を滑らせる。
ただ、時間がかかるほどに3ドア冷蔵庫を支える体力が削られていく。
じょじょに、じょじょに、ご安全に。
なんとか、壁や階段を壊すことなく階段下まで3ドア冷蔵庫を降ろしたときには、クソ汗だくであった。

「もう、今日仕事終わっていいんじゃないスカ?」と言ったら、野口さんはただ微笑んでいた。

 

その後も、両手で家財一般をかかえて、ひたすら階段を行ったり来たり。時には、野口さんと協力しながら大モノも。
ふと、野口さんが、

「コミュニケーション取れる人で良かったわ。話が通じん人も多いから」

と言って笑った。

昼飯はカチカチ

まだ、棟梁は一回目のゴミ捨てから戻ってこない。

「いま、何時かね?」

「11時45分です」

「昼にしよ」

フレキシブルな現場判断で昼にIN。

一応、朝もらって、リュックに縦入れした弁当を広げてみる。冷え冷えである。
数時間前は、あんなに暖かかったのに。
「ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで」

でもキレイな顔はしてる。胃に放り込めば一緒。あったかいお茶を自販機で買い、廃屋にもどり寒風吹きすさぶなかで食事。
カチカチ白米。ソースコロッケ。コロッケの下敷きのソース焼きそば。ウインナーのかけら。餃子。卵焼き。きゅうりの漬物。
バランス悪そうだなぁ。でも、胃に放り込む。お茶で流し込む。

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午前中の作業で、左足のふくらはぎが痙攣している。
そして左足太ももの前面も痙攣し、小刻みに筋肉が波打っている。
しっかり食って、休めないと。午後の作業での身体がもたない。

 

買い出しに行っていた野口さんが戻ってきて、少し話す。

「冬場で待機所もないと外仕事はキツいですね」

「まあ、そやね」

「夏のクソ暑いときと、どっちがキツいですか?」

「冬の方がエラいんちゃうかな」

野口さんは基本スポーツ新聞の競馬欄に目を落としたまま答えてくれた。

暮らしの名残

この住居の住人は亡くなったのだろうか。
まるで、夜逃げでもしたかのように、食器や毛布、ティッシュや歯ブラシなどがそのまま残されている。それら細々したモノすべてを空にしていく。

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「コレやっていると。お宝とか見つけられるんじゃないですか?」

「どうやろ。さっき、棟梁が100円拾っとったけどな」

僕も、じつは1円玉を2枚拾った。ボーナス発生。

 

棟梁が空にしたトラックで戻ってきてからもゴミ出しは続く。
永遠に思える時間も、延々に流れる工程も、終わりが見えてきた。3階、2階と空になった空間を野口さんがホウキで掃除していく。
僕は、ひたすら階段の上下を繰り返す。
左足の2ヵ所の痙攣はまったく収まらない。気にすることなく「ハァ、ハァ」と肩で息をする。

「なんや、根性ないなぁ。若いのに(笑)」

棟梁に笑われてしまった、確かに、この現場では一番の若手。体力が無さすぎる。すみません。コレを毎日なんて、気が遠くなる。
5時までかからずに終わる!終える!
そう確認しあった僕と野口さんはペースを上げて作業した。

と、棟梁が

「3階のベランダのブロックと物干し台。残っとるな。アレやったら、大ハンマーで割って運べ!」

んー。アレも運ぶんかい!
ずっと、外気にさらされて土や水分をたっぷり含んだ海綿体状のブロックは重たかった。これだけで20往復。

そして、残ったのは、物干し台。コレが激重!なので、ハンマーで叩き割って分割する必要がある。

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僕はハンマーを持ち上げ、振り上げ、降り下ろし、なんとか物干し台を壊そうとする。
が、上手くいかない。疲れる。もうイヤ。

すると、棟梁がベランダにやってきて、

「違わい。下からや」

と言い、ダウンスイング。ゴルフクラブを振るように大ハンマーを動かす。
と簡単に台座は割れた。
たしかに、ヘッドが重たいハンマーを振りかぶる必要はない。重みを活かして、そのままの力を移動させ、対象物に充てればよいのだ。
道具の使い方を勉強できた。
なんてバカなのか、私は…。

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映画少林寺三十六房だったか、少林寺系の映画で観たことがある。

ハンマーのような武器を、まさしく僕のように肩より高くかかげて闘おうとする練習生に向けて、師範が「お前は武器の使い方を知らんな」とののしり、重たいヘッド部分を身体に近づけ、持ち手の柄の部分を器用にあやつって、敵を倒していたシーン。

映画を観てても、一向に知恵を授かっていない。愚かだ。自分の無力さにあきれるばかりである。

 

16時前、終了。

「キツそうやったな」

「はい。疲れ果てました」

「今日は、ラクな方やで。もっと厳しい現場ばっかりや」

棟梁に言われてしまう。ホントにこんなこと毎日やっている西成の人たちは超人なのか。恐ろしい。情けない。

ジャストのビール

前回の現場とは違って、今回は一旦西成に戻らないと、お金はもらえないらしい。

駅まで、朝来た道を戻る。朝方閉まっていた商店群は活気づいていた。
と、野口さんが「ちょっと」と脇道へ。

酒の自販機で、アサヒ・スーパードライ ロング缶を270円で購入。

「いま、飲むんですか?」

「いや、電車の中でな」

自販機で買わない方が、安く買えるのではないか?と思ったが、口にはしなかった。
野口さんは持参のトートバッグの奥にビールを押しこんだ。

電車を乗り換えながら、西成へ。

「座れた―!」

仕事を終えた野口さんは楽しそうだ。
そして、ゴソゴソと先ほど買ったスーパードライを取り出し、タブを開け、飲みだした。

「ここで飲むんですね!」

「そう、このタイミングや」

やがて、西成至近の駅に着く直前、野口さんのスーパードライは空になった。

「タイミング、バッチリですね!」

「そやな」

車窓から見える空は、まだかろうじて明るい。

「明るいうちに帰れましたね」

「そうやな。なんとかな」

と野口さんは笑った。笑顔はステキだが、歯がほとんどなかった。
歯がないからステキなのかも知れない。だけど、僕は歯を大事にしようと思った。

今日のお給金は?

朝、待機していた事務所にもどる。

三々五々、それぞれの仕事を終えた人々が集まっている。

書類書きは野口さんがやってくれるというので、ご厚意に甘えることにする。

「すみません。今日は、ありがとうございました」

野口さんは、帰りの電車で一瞬見せた快活さを再び押し殺し、軽く手を振ってくれた。

 

いつもながら、やること・やる場所・報酬、一切知らずに働いて今日得たお金は…、

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11000円。

もう、この金額が適正な額なのかどうか?の判断が麻痺している。
左足のダメージ、流れ出た汗、止まらない鼻水、上がらない両手、痛む腹筋。

これが、西成労働二日目の記録です。

 

日付:2021/1/9(土)
場所:大阪市近郊
現場:廃屋清掃
内容:ゴミ出し・掃除・解体
時間:7:15~8:30~16:00~16:55
待遇:昼飯アリ
給与:¥11000