2021年4月19日。
家が無く、仕事が無い人が「ネットカフェ難民」と呼ばれ漫画喫茶に長く逗留している状態であることが社会問題として表面化したのは、もう10年ではきかない以前のことだろう。
毎週のように、漫画喫茶の合成皮革の床で身体を縮こまらせて眠って、フリードリンクの半分以上は水で薄められたセイロンティーやジンジャーエールを飲んでいると、作業着姿のオッチャンや膝の出たジャージ姿の若者とすれ違う。
かく言う自分も、汗ジミの浮き出たTシャツに、数日履き続けた作業ズボン姿なので彼らと相違ない。
時間ごとに自動的に滞在料金が加算されていく簡易宿泊所としての漫画喫茶に8時間以上居座れば、2000円以上の利用料が必要だ。
西成の安宿が三畳しかない、あるいは一畳半しかない宿泊施設としては貧相な設備であるにはしても、漫画喫茶で眠ることと比較すれば、おおむねラグジュアリーである。
ラグジュアリーの使い方、違うか。
薄められた甘味飲料や膨大な漫画群、ネット環境を享受できることがメリットだとしても、宿によっては朝方にチェックインでき、宿によっては清潔なシーツで横になれ、1000円あたりの価格で身体を休めることが出来る西成のホテルは、セイフティーネットとして機能するだろう。
何をして食っていってもいい。
とにかく、生きていく理由を見つけている人は、西成で眠ることを選べば良いと思う。
「でも、西成がある」
と理解しながら日々をやり過ごすのは、最後の一線を越えない理由になる。
トレイルと遍路
全身がこわばっている感覚があり、「快活CLUB」を出た途端、横に縦に筋肉を引き伸ばしてストレッチ。
月曜の朝。街にはスーツや制服姿の血色の良い顔色をした、これから1日をスタートさせる人々の「今日から、仕事か」といった気概とは違う諦観で溢れている。
「あーあ、しんどい」
と口をつく。
トランクルームで、昨日の洗濯物を整理し、重〜いバックパックを担ぐ。おも〜い。
これが生活の荷重。
ジャン=マルク・ヴァレ監督『わたしに会うまでの1600キロ』という映画がある。
アメリカやヨーロッパには、原野や森林に設けられた自然道を歩き通す
「トレイル」
という行為が文化としてあり、数千キロに及ぶ工程を季節をまたいで踏破する。
このロングトレイルに挑む人々の動機はさまざまだろうが、リース・ウィザースプーン演ずる『わたしに会うまでの1600キロ』の主人公は、離婚や身近な人の死に触れて、自らの半生を省みようと歩き出す。
「トレイル」
の存在を知って、真っ先に想起したのは
「お遍路」
地元に住まう人達は、トレイルへの挑戦者のために道を整備し、標識を設置し、ときには食物やベッドを提供してくれる。
「お遍路」のルートにあたる四国の人々も、「お接待」という名でお遍路さんを温かく迎える。この文化の根底には、お遍路を歩き通す人は「金・体力・時間」がある人間で、同時に空海が開いた霊場を巡る旅を、自分の代わりにやってくれる人への親近感とご利益のおすそ分けを得るという意味もあるそうだ。
宗教的背景や「お遍路やると奇跡に出会える」みたいなスピり具合は知らない。
実際、僕の身内にも「歩き遍路」で八十八ケ所を巡った者がいる。
歩き切った時の、晴れやかな顔。
歩いている時の、苦しく悶える顔。
一日の終わりに眠る時の、安らかな顔。
僕は付きっきりで同行した訳ではないが、その背中に追いつくたびに見せる表情は、「浄化」とか「純化」という言葉がふさわしかった。
で、何が言いたいのかと言うと、
『わたしに会うまでの1600キロ』で、荷物を詰めたバックパックを初めて背負う時、リース・ウィザースプーンが己の力で立ち上がれない、んです。
重すぎて。
人生に必要なモノは何か?
自分が背中に背負えるモノはどの程度か?
つまり、今僕が担いでいるバックパックの重みは、まるごと僕のこれまでと、これからなのです。
そして、この重みを軽くしていくのか?さらに背負う覚悟や体力をつけるのか?
それが、これからの生き方なのです。
という話なのです。
長くなりました。
「おへんローラー©️みうらじゅん」 まわりの話はいくつかあるので、また紙幅稼ぎの折にでも。
安く散髪する
西成に戻りました。
途中、ホームセンターに寄って、昨日破損した自転車のチェーンロックを購入。
重〜いなぁ。荷物。
自転車を無料駐輪場に置き、今日は髪を切ります。
ここ20年ほど、バリカンで自宅の風呂場でテキトーにカットする、という散髪を散発的にやってきた。その発端は、「誰が俺の髪型なんか見とるねん!」とある時気が付いたから。
右左のもみあげの長さが少し狂っていても、前髪が決まっていなくても、誰も気にしません。
「髪、切った?」と言ってくれるタモさんもいませんし。
ところが、今や「自在にバリカンを振り回す風呂場」を失ったので、久々の理髪店へ。
後ろ髪がうっとおしい。
TBS『報道特集』などで知られる金平キャスターは、僕大好きなんですけど、一点だけ。
「後ろ髪、長過ぎないか?」
と、いつも思うんですよね。
切って来い。
首すじに常にマフラー巻いてるみたいで、汗もたまるし、あせもも出来そうだし。
あせももももももものうち。
新世界にある「増田理容店」
サンパツ「700円」!!
安いなぁ。
自宅の風呂場でザンバラやると、後始末とかめんどうだから。
700円くらいの労力はかかっていたように思いますから。
入店すっと、
すぐに一人の理容師の方が、「コチラへ、どぞー」と席へ案内してくれる。
店内では数人の理髪師の方が待機しており、扉が開き客が来ると瞬時に案内を開始する。
どうやって、分担を決めているのか分からないけれど、流れるようにシステム化されている。
奥の椅子に重〜いバックパックを置く。
「すごい荷物ですね。ここ、どぞー」
西成で散髪する際には、「こう言おう」とあらかじめ用意していたセリフがある。
「西成っぽい髪型でお願いします!」
ただ、ここは西成やあいりん地区というよりは、新世界に位置する。
「新世界っぽい髪型」と依頼してしまうと、ビリケンみたくされてしまう恐れがないか?ないのか。
そこで、言い回しをアレンジしてこうなった。
「今日は、どうしましょうか?」
「そうすねー。暑い季節になってきましたから。やっぱり、髪もそれに合わせて。働きやすい感じで、肉体労働しやすい感じで、お願いしていいですか?」
我ながら、まわりくどい。
こんなこと言ってくる奴、抹殺して欲しい。
「わかりましたー。横と後ろバリカンで。上と前も短くしましょうか?」
「お願いします」
数ヶ月用意してきた、「西成っぽい髪型でお願いします!」を発せずに散髪スタート!
そんなもんだよね。
まずは、バリカン、その後ハサミでチョチョチョイ。
また、バリカンですいていく。
「今、コロナなので、顔剃りはやってないんです。ごめんなさいね」
「わかりました。シャンプーはお願いします!」
安いからと言って、コチラの要望を聞いてくれないわけでは決してない。
メガネ族のパターンとして、メガネOFFだと目の前の鏡が見えなくなるので、カット確認のためにメガネONしてチェックするムダフローがあるのだが、手鏡による後ろ側の襟足チェックもちゃんとしてくれる。
散髪屋での、このセルフチェックタイムがそういえば昔から苦手だった。
無防備なツラしてる刈りっぱの自分なんか見たくもない。
ほぼ、目をつむりながら「OKです!大丈夫です!」と放り投げる。
その後、少し整えられ、即シャンプーへ。
早かった。
間違いなく10分とかかっていない。
シャンプーやハサミも加わったので、最低価格の700円ではなく、¥1000也。
ただ、早かったなぁ。
テクニックも自分の風呂場でのそれとは比べるべくもない。当たり前だが。
飯と風呂と散髪に時間かける奴ぁバカだ。
そんな気分にさせてくれる。
ビフォー
アフター
だいぶ、額が後退してきたなぁ。
シルエットで見っと、ほとんど坊主。
でも、何回も言うし、言い聞かせるけど「誰も見ていない」から。
また、始まります
安パイの「パークイン」に入る。
今回は、エアコン無しの部屋が埋まっていたので、エア有りの部屋に。
5泊で¥6500也。
おお!
ワンちゃん、また会えたね。やっと会えたね。
日差しが入っていい感じ。
荷物を降ろして、洗濯ロープを張って、延長コードを繋いで…ルーティンに取り掛かろうとしていたら、宿のオヤジさんが走ってきて、
「ごめんなさい!エアコン有りの部屋でしたね。コチラで」
と同じ階の別部屋へ。
ワンちゃん!いないじゃん!
日差しもないじゃん!
やっぱり、ワンちゃん毛布は「エアコン無し」の部屋でのオプションなのだな。
しかも、日差しって時刻が変われば、射し込んだり射し込まなかったりするよね。
地球って自転してるっていいますよね。実感ないけど。
また、西成でのロングトレイル始まります。
誰かの「お接待」に期待しながら。
使った金額
漫画喫茶宿泊代:2000円
宿泊代:6500円(五泊分)
駐輪場代:150円
散髪代:1000円
自転車鍵代:1628円
食事の脂にこの1杯。プーアル茶x烏龍茶:171円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:400円
所持金
3,634円