西成「どろぼう市」
叩き起こされた勢いで、早朝に宿を出た。
時間は7時前。「旅館 かなめ」の、シャッターちょっと腰曲げて出ていくスタイルのチェックアウトを終えて、左に進むと、すぐにホームレスの人たちを受け入れている「あいりんシェルター」が見える。やがて、取り壊しのために工事用のフェンスに囲まれた「旧あいりんセンター」が見えてくる。
そのあたりの一角にはいわゆる
「どろぼう市」
と呼ばれる、
道路にブルーシートとか段ボールを敷いて出所不明の商品を並べて売っている
ゾーンがあらわれて、自転車に乗りながら品定めをするオッチャンや、店主と話しこむ人たちで盛況だ。
弁当一山100円・DVD・工具・薬
「これ、弦ないんか?弦あったら買うけど、弦なかったら二束三文やなぁ?」
「300円でええよ」
「いや、そやかて弦がないギターはギターやなかろう?ポンコツじゃ」
自分で弦を張ってもいい気がするけど、弦にこだわりを見せたオッチャンは去っていった。
「・・・なに言うとんや!お前がポンコツじゃ!」
弦がないギターをはじめ、バラエティに富んだ品ぞろえの店主は投げ捨てるようにつぶやいていました。
「どろぼう市」は、扱われる品々が盗品であったことに由来しているとは思う。けれど、それは昔の西成であって、現代の西成どろぼう市は正規の仕入れルートが確立されている。と思うよ。きっと。
廃棄ぽい弁当が一山100円で。
近くの「スーパー玉出」も十分安いけどなぁ。コンビニ流れみたいでした。
あとは、とにかくDVDが多い。
西成にネットの波は押し寄せていない。ブツありき!
海賊版とおぼしき劇場公開作から、エロの海まで。結局、エロである。
よく理解できます。働いて食って寝る、のサイクルには当然エロがはさまれてきます。
分類する仕切りに「ロリ」とか「熟女」とか書いてある。
一般映画も、つい最近配信が開始されたようなモノもあり、品ぞろえは豊富。パッケージはなく、無印の白ディスクに焼かれたDVDが一枚単位で売られている。
薬も売られていました。と言っても、ヤバめのドラッグではなく。病院から支給されるようなパッケージのない、なにか。のお薬。
あと、らしかったのは工具を扱う店もあったこと。
「これ、もう廃盤なんよ。見つけてラッキーやわぁ」
なんて笑顔の方もいらしたので、もしかすると工具方面では掘り出し物があるのかも知れません。
西成で生きる、ということ
服や家電から、生活雑貨一般まで、戦後の闇市なんて当然経験したことはないけれど、あらゆるモノが揃うと言っても過言ではない!エロ多めだけど。
たとえば、それこそ100均とかドンキとかディスカウント系のショップとか、わざわざこのどろぼう市で買うこともない。むしろ、こっちの方が高いかも?みたいな商品もある訳で、どうしてこんな路上のマーケットが依然として存在し続けているのか?
不思議です。
アメリカ人の三割はパスポートを持っていなく、また三割は一生涯生まれた州内から出ない。という話を聞いたことがありますけど、
西成のあいりん地区のこの狭い範囲だけで、働く・買う・寝るまでのすべてをまかなっている人も多いのかも、と思ったりしました。
「アンちゃん、仕事は?」
がっついて、どろぼう市を巡っているときに。
「アンちゃん?」
と声をかけられました。
僕には、ハリウッド俳優を父にもつ朝ドラ主演女優に似ているという自覚がないので、瞬間無視したかたちになったのですが、多分日雇い仕事を斡旋してくれる手配師の人が声をかけてくれたんだと思います。実際、車のフロントガラスに、金額や仕事内容が書かれた求人票のような紙が貼ってあり、その周囲に手配師然とした人たちが、所在無げに突っ立ている場面を目にしました。
土曜の7時でこんな感じだから、きっと西成時間である極早朝ならば、このゾーンに手配師が大勢いるのかも知れません。
「どうなっても、ここでなら働くことはできそうだな」
そう思いました。
日常に戻る
とりあえず、今週は風呂を浴びる以外帰っていなかったマンションに帰ります。
土日は天満のマンションで、平日は仕事が明けたら、西成に来てホテルに泊まる生活を続けていきます。
「日常に戻る」とは、書いたけれど、何が日常なのか、よく分からなくなってきました。
それから、猫を探しています。
僕と入れ違いに、あいりん地区を飛び出していったのかなぁ。お心当たりの方は、福井さんまで連絡してください!