西成ホテル探訪・三日目
熟睡した朝
窓から淡い光が差しこんでいる。7時半に目を覚ましました。
前日「三畳窓なし」の部屋を選んでいたら、外の様子は全くわからない訳だ。100円の違い。大きい。
ここで、告白しなければならない。掛け布団も、その上の毛布も、しっかり畳まれていることにお気付きだろうか?
使わなかった。
実は、朝方、5時頃にいったん目を覚ました。寒かったから。気温はヒト桁になった今朝。想像してもらえばお分かりだと思うけど、木造で土壁のこの宿は、もろに外の気温を反映する。まあ、簡単な話、足元の毛布を身体に引っ掛ければ暖はとれる。のに、僕は両手を股ぐらに挟み込んでやり過ごした。
「毛布、汚そうだな・・・」
と思ったのだ。初日の宿と比して、圧倒的な清潔さを誇っている「旅館 かなめ」であるにも関わらず、毛布の清潔さを疑って、躊躇した。さらに告白すれば、この二日間、小用は足しにいったが、大きい方はトイレも利用していない。
クソ潔癖かよ!つくづく、甘ったるい人間だと思い知らされる。安宿の体験記を書いているくせに、いっぱしのアーバンライフを求めるクセが抜けていない。情けない話だ。意識を、態度を、変えていかねばならない。
とりあえず、熟睡はできた。最初の一歩である。
朝担当の宿の人に会う
寒くて一度起きた時には、廊下の向こうからたくさんの足音がしていた。働きに出る人たちの朝は早い。西成の朝は早い。8時近くに、出勤のため階段を降りようとしたら、若い青年、20代後半だろうか、に会った。
一昨日も昨日もそうだが、西成の宿で人とすれ違うことはほとんどなかった。
「おはようございます」
彼は、片手に丸めたシーツを持って上階へ消えていった。はじめて西成で挨拶を交わした。この青年とは、翌朝また出会うことになる。
連泊しているのだから、荷物は置いていくのが理想だけれど、なにしろ「カギのかからない」システムである。着替えも、ノートパソコンも詰め込んで、重たいリュックを担いで宿を出た。初日の「ホテル なかよし」の廊下にはコインロッカーが備えられていたし、あいりん地区には月額契約できるようなコインロッカーの店もよく見かける。
いつだって、生活の全てをかかえて生きる。所有物はコインロッカーひとつ分。それがこの街での暮らし方なのだろう。
「スーパー玉出」でメシを買う
その日の寝ぐらをその日に調達するというのが、この体験をはじめる時の目論見であったのだが、宿の料金体系によってはそれも叶わない。最低二泊からなら、という条件で「旅館 かなめ」の600円/一泊も実現した訳です。ただ、もう宿は取ってある。急いで、部屋に帰る必要もない。
いつものように「動物園前」で降り、あいりん地区近辺に三軒が集中している激安マーケット「スーパー玉出」に向かう。
定期的な「1円セール!」で知られ、お惣菜系も投げ売りみたいな値段で提供してくれる、スーパー玉出がこの地域に固まっているのは、需要と供給のバランスが成立しているということなのだろう。
スーパー玉出のお惣菜は「美味しそう」ということを過剰なまでに打ち出してこない。作った→「おし!詰めるべ!」という簡潔なシステマチックさが、美しさにまで昇華している。客が見るのは「いくらかな?」な訳なのだ。まったく大正解。異論なし!
「スパイシーチキン<梅味>」という謎のお惣菜が、500gばかり入って100円だったのでお茶とともに買いました。
そして、クソ潔癖なクソ野郎なので、宿で食べる気はしない。
少し歩き、団地に併設された遊具とともに、ベンチが置かれたスペースで「スパイシーチキン<梅味>」を食べる。見上げれば各家々に家族だんらんの灯りがともる団地のベランダを眺めながら、梅味のとり肉を食べました。から揚げにレモンを絞って、脂っこさをおさえるという先人の知恵がパッケージされた合成肉の酸味に震える。半分くらい食べて、もう限界が来たので、寄ってきたネコにおすそ分けする。ネコと梅味の相性は悪くはないみたいです。
やがて、雨がパラついてきた。
気分が落ち込むぞ!雨の日なんかは、ツラいだろうね、この生活。
でも、僕には今日獲得している寝どこがあります。戻ろう。
二泊目、開始
「旅館 かなめ」の部屋は見事に、今朝のままでした。
もう少し、一泊あたりのグレードを上げると、アーバンライフの強い味方「Wi-Fi」なんてものが飛びかっている宿もあるみたいだが、ここにはそんなものない。会社の Wi-Fiで、アマゾンプライムのドラマでもダウンロードしてくりゃ良かった!失敗だ。もう、このままじゃ速度制限がかかりそうだ。YouTubeでサマーソニックの配信など見ていたら、速度制限がかかりました。終了!
三畳一間の、遊興にほうける道具なんてなにもない空間。瞬間、「刑務所」というワードが頭をよぎる。
逆に言えば、何かに集中するには最高だろう。マルコムXが獄中で学び、イスラム教に目覚めたように、僕にもなにか起きるかも、起こせるかも知れない。考えとこう!
とりあえず、今日は眠ります。
叩き起こされる!
「竹下さん!今日までなんでね!延長しますか?」
ガバッと扉が開けられて、文字通り叩き起こされる。
メガネのない矯正視力の効いていない視界のなかには、昨日の朝会った青年がいた。
「・・・ムニャムニャ」
「え?延長しますか?」
「・、いえ。延泊しません。出ます」
「そうですか。なら、8時までには出てください」
なるほどな。受付の時、オヤジさんが「ポッチを押すな」内側からもカギをかけるな!と言った理由はコレか。チェックアウトが早朝っていうホテルもなかなか無い。新鮮だ!そして、なんか腹が立ってきた!でも、コレが西成のルール。わかりました。
向かいの部屋の宿泊客も出たらしく、青年がシーツを剥いでいる音がする。多分、シーツだけ変えて、布団はズーーッと一緒なんだろうなぁ。青年は廊下を豪快にドタドタと闊歩する。僕らは、ソロソロとなるべく音を立てぬように歩いていたけれど、彼には豪快に、のし歩く権利がある。そういうことだろう。
そして、今朝も寒かったけど、
ご覧のように、また毛布使わなかった!
すみません。クソ潔癖で。じょじょに慣れるつもりですので、よろしくお願いします。
そういえば、昨日は会社の休み時間を使って、「延長コード」を買ってきてました。
気付いたのは意外と、延長コードって重たいってこと。コードが2mを越えると、だいぶの重量です。
なので1.5mのにしておきました。
これまでの人生で、「重さ」を基準に延長コード買ったことなかった。エディオンの売り場で、右手と左手に延長コードを持って重量を比べたりしている人を見かけたら、その人は西成に泊まっています。
アウトドアの世界では、ミニマム志向なウルトラライトハイキングという考え方がありますけど、全生活をリュックに背負って生きる、ということは両肩にかかる重量との闘いであるのです。
西成安宿探訪のパートナーがひとつ増えました。
旅館 かなめ
宿代:600円(二泊から)
三畳/テレビ貸出有/コンセント2口/扇風機貸出有/井草の香り/トイレ共同/ガスコンロ共同/万年床/部屋鍵オプション/喫煙/共同ゴミ箱有/灰皿有/一泊NG/夜間外出可/21時消灯/勝手にチェックアウト/Wi-Fi無/バグ無/棚有/日本旅館/迷宮感/土壁/毛布有/オヤジさん一癖有/ 宿泊最終日は叩き起こされる
清潔度 ★★★★
フロント★
サービス★
価格 ★★★★★
総合 ★★★
食費
スパイシーチキン<梅味> 110円
サンガリア・いちご&ミルク 89円
アサヒ・食事の脂にこの1本。 78円
西成に落とした金額
計:877円