西成あいりん地区には通称
「花畑」
と呼ばれるフェンスに囲まれた緑あふれるゾーンがある。
それは、大阪メトロ堺筋線9番出口の階段を登り、右手の阪堺線高架を潜るとあらわれる三角州状の土地。
「花畑」
とは、菜園として色とりどりの植物を実らせた状態を指すが、同時にこの場所に花を植えている主が、ぬいぐるみやメッセージを書いた看板を飾って、いわゆる電波の香りも漂わせていることによる「お花畑」的な意味合いも含んだ呼称だろう。
この画像は、昨年の夏に撮影したが、カメラを構えていると突然ミニオンやドラちゃんが動き、驚かされた。
フェンスの中を覗くと、ぬいぐるみに繋いだ「てぐす」を引っ張って、ミニオンを自在に動かすこの「花畑」の主であるオッチャンと目が合い、彼は朗らかに笑っていた。
あいりん地区内にあっても、カオティックこのうえないこの「花畑」は、この地を訪れた多くの人が紹介している。
nishinari-hotel.hatenablog.com
ポン酢さんのブログ『底辺サバイバー』
には、「花畑」が住民によって守られた経緯が紹介されている。
なるほどです!
西成に通っている頃は、地下鉄を利用していたため「花畑」をチラ見しながらあいりん地区に進入していくルートをよく通っていたのだが、西成暮らしを始めるようになって、「花畑」の存在を物珍しく感じなくなっていた。
ので、確認していなかったのだが、この間よくよく眺めると、消えていた。
「花畑」
は消失していた!
かつてこの「花畑」のカオスでファンキーな光景をコントロールしていた主はどこに行ったのか?
美しく咲いていた花々の名残りみたいな朝顔の紫はかろうじて味わえるが、コロナへ立ち向かう気概あふれた手書き看板も、壁沿いに積み上げられた空き缶も、突然動き出すキャラクターぬいぐるみも、跡形もない。
ただ、夏を経て盛大に生い茂った草花を管理する人はもういないのか。
花畑の向かいにある酒類自販機の奥、チューハイの缶を補充していた方に話を聞いた。
「ここって、前までぬいぐるみとか、キレイな花とか、飾ってましたよね?」
「ああー、もう半年くらい前かなぁ。市の役人が来て全部どかしてもうたんや。そないなことせんでもエエのにな」
「そうなんですね。あのオッチャンはどうしてるんでしょうね?」
「どうなんやろな、そこまでは知らんけど。とにかく、バシャーっといっぺんに捨ててしまいよったな、役人連中が。正直ありがたかったんやけどな、この辺の奴らみんな空き缶とかポイポイ捨てよるやろ?それをみんなあのオッサンが片付けてくれるし、花もなカラフルで見栄え良かったやろ」
「まあ、厳密に言えば行政の土地だから、仕方ないんですかね」
「大目に見られてきてたんやけどな、なんや知らん急にやりよったな。それぐらい許したれ!と思うわな、ホンマ」
かくして、あいりん地区の「花畑」はすっかり消え去った。
この場所は、ある種の善意が産んだお花畑であり、善意によって守られてきた景観であったはずだ。役所もなんか他にやることあるんちゃうかなぁ、とか。
街場は、いつも流動的で、ゆっくりと変わっていくものだろうが、半年も気が付かなったのか。不明を恥じる。
おそらくは、生きがいを感じながら「花畑」を形作ってきたオッチャンが、今どうしているのかはわからない。どこかで出会えたら、話を聞いてみたいひとりである。