西成ホテル探訪・十二日目
映画館は宿がわりになり得るのか?
1895年リュミエール兄弟が『ラ・シオタ駅への列車の到着』で居合わせた人々の度肝を抜いたとき。その上映場所は、映画館と言えるのか。珍奇なものごとを魅せる、体験させる「見世物小屋」であったのかも知れない。
映画館の誕生は、1899年アメリカ・フィラデルフィアで催された博覧会での、シネオグラフ館にもとめられるとされる。
以上、Wikiからの丸々引用です。
先週の金曜日には、「新世界国際劇場」で、眠れない一夜を過ごした。
じつは、新世界にはもう一軒、毎夜オールナイト上映を繰り返す老舗映画館が存在する。それが、
「新世界東映」
女装の方々の魑魅魍魎を味わった記憶もぬぐい切れぬ、今晩。コチラを本日の寝ぐらといたします。
東映の遺産
コンビニ以外はどこも開いていない、通天閣のお膝元。深夜1時。
コチラはガッツリ開館中。
「恥かく、義理かく、人情かく」の三角マークの東映。その膨大なアーカイブのなかから、未ソフト化も含めて、二本立てで終日上映。
「恥かく〜〜」の出典は、かの夏目漱石。金を貯める金満家になるには、この三角術が必要という。金になりそうなら、思想信条無関係。ヤクザ、政治、宗教なんでもネタにし、パクリ上等、厚顔無恥でシャシンを作り続けた映画会社。
東京でも、すでに絶滅してしまった「毎日オールナイト」「邦画=東映専門館」である。
公開作品は、この時期に合わせて、
『赤穂浪士(1961)』『唄祭り かんざし纏』
朝5時終映。5時間空けてまた上映再開。これが365日。
ただ、「新世界東映」の上映作品・上映時間をネットで知るのはひと苦労。大手の映画情報サイトには記載がない。かつて、自主上映も含めて映画情報を掲載していた紙の時代の『ぴあ』が、ある時ピンク映画の情報掲載をやめた際には、情報の価値を決めるのは誰なのか?という議論が起こったと記憶する。
ネットには、何でもある。
ように見えて、じつは誰かにとって必要な情報はない。誰にとっても必要じゃないかも知れない情報を、必要だと信じさせている、ように思う。もちろん、僕のこんなブログも含めて、必要じゃない。そして、僕は僕にとって必要な出来事を、見知らぬ誰かに向かって投げかけるのだ。
なんかカッコつけました。ごめんなさい。
「新世界東映」の貴重な上映情報は、以下のTwitter、mixiで発信してくれている方がいます。
とくにmixi「MASAさんの日記」は、映画好きのみならず、おもしろいので必読です!
いますぐマイミク。いまこそマイミク。
ネットにあるじゃねーか。まあ、ね。僕も昼の仕事ではSEOとか考えて雇われコラムなんか書いているから、この情報は誰か?を想定していない。数字やデータを想定しているだけだ。と、落ち込むのです。
なんかグチってしまいました。ごめんなさい。
モギリは女装の人
券売機でチケットを買って、カウンターに行く。
おお、女装子!とくに検温はナシ。「ああ、ここも女装地帯なのかしら」と少しボーッとしていると、
「お客さんは奥ですよ!」
と促される。
この劇場には3つのスクリーンがあり、「日劇シネマ」「日劇ローズ」ではポルノ映画を上映している。いわばソコは、きっと出会いの場所。ハッテンする場所。土曜のこの時間だと最盛況だろうなぁ。
インチキはお断り!
トイレの使用も分けているのだな。3番組見たかったら、その分の料金が必要なのだ。
『唄祭り かんざし纏』の上映開始は、1:10から。
少し時間があるので、館内探索。大丈夫す!「シネマ」「ローズ」には行かないです。もう少し勇気つけてから行きます!
コインロッカーやAV販売棚があるのが特徴的。
喫煙所付近では眠っている人。先輩。僕も寝るのだ。寝に来たのだ。1400円といえば、西成安宿ではミドルクラスの料金だし。
しっかり映画を観ました
漏れてくる音を聞くに、なんか華々しいテーマ曲がかかってる。試しに、扉を開けてみるともう『唄祭り かんざし纏』が始まっていた!時間、適当なんかい!
こじんまりしたミニシアタークラスの席数。
客は10人弱。前から4列目に腰掛けると、「新世界国際劇場」に比べて、イスがフカフカ。これは寝られそう。ただ、席の前後の間隔が狭いので、足を伸ばして、背もたれに体重を浴びせたおすみたいなリラックス感は得られない。んんー、厳しいかもしれない。寝れないかもしれない。
スクリーンの上部が、はみ出しており、画面全体が収まっていないが、慣れる。
どんな環境だろうと、映画は映画。IMAXに来た訳でもなかろうに。
そして、視界の中に「なにがしかの不穏なやり取り」が飛び込んでくることもないので、映画に集中できる。客席後方でカップラーメンを食っている音と匂いがしたことくらい。
当初、結構客が席を立つので、また「人探し」かい!と早合点したのだが、単に客の平均年齢が非常に高いので、お小水に立っているだけだと思われる。
それゆえ、映画を観てしまいました!ここは映画館だから。
『唄祭り かんざし纏』は美空ひばりのおきゃんな魅力と、関取・朝潮太郎(三代目)のデクった味わいが爆発していました。もっとひばりの唄声聞きたかった。ようやく、美空ひばりの素晴らしさに気付いた46歳の冬。
そして、「格闘家が映画に出る時の扱い」が、この頃から如何ともしがたいのが解った。格闘家はリングやケージで常に最高のパフォーマンスを演じているので、映画という定められた枠に押し込めると途端に色褪せてしまうのだろうか。そう振り返れば『Dr.コトー診療所』の船木誠勝は、かなり頑張っていたのだ。ありがとう船木。
眠りの世界へ
続いて、まったく入れ替えの時間とかなく『赤穂浪士』がはじまる。
館内の先輩たちは、がっつりスクリーン凝視派と足を前の席に放り出してグッスリ熟睡派の二手に分かれている。僕も後者に加わる。
『赤穂浪士』は、重厚な語り口で魅せる忠臣蔵モノ。当時の湯屋の様子が、二階に個室があったり、湯女がいたりして興味深い。なぜなら、僕は「銭湯検定3級」を取得しているから。同じ試験会場には、山口良一もいた。同窓生。
時刻が3時近くなってきたので、いよいよ寝ることにする。
前述した通り、足を伸ばすほどのスペースがないので、身体を斜めにして寝やすいポーズを探す。もっと、痩せていればなぁ。今日も自分の肉塊を恨む。
いつの間にか、眠っていた。
途中、刃傷松の廊下、討ち入り決行直前、のシーンはチラ見できたので忠臣蔵を観た感は十分。
四十七士が橋を渡って行くラストシーンで目を覚ました。
身体が痛い。節々が痛い。
モギリの女装の方が、すっかり半分男に戻った体で、片手にゴミ袋を持って、扉を開け放ち入館。まだ、眠りこけているオッチャンたちの座席にハンマーパンチを浴びせて、叩き起こしていく。
結論として、「新世界東映」は寝れる。
映画館は宿がわりになる。
暖房も効いているし、他の客のウロウロもないし。映画がおもしろくなくて、体調がそぐえば。
おはようございます。
外に出ると、まだ5時前だった。
だいぶ巻いた。
チェックアウトの時間は、最強に早かった。
新世界東映
宿代:¥1400
フカフカやや狭め座席/前の座席までの間隔狭め/トイレ/すすり音/喫煙場所/暖房/自動販売機/映画館では寝ることもできる
清潔度 ★★★
フロント★★
サービス★★
価格 ★★
総合 ★★★
食費
コカコーラ・いろはす桃 130円
西成に落とした金額
計:1530円