二度目の、西成「どろぼう市」
「新世界東映」を出て、土日の早朝から開催されているという「どろぼう市」に向かう。
途中、車のフロントガラスに求人票のような、「土工」「10000円」などと書かれたシートをかざしたバンを数台見かける。日曜日でも日雇い仕事はあるようだ。旧あいりんセンターで野宿していたであろう方たちが、
「今日は?行くか?」
「んんー、どうしようかと思って‥」
「寒いもんなぁ」
「いや、でも行くわ!稼げる時に稼がんと!」
と話している声が聞こえた。
「アンちゃん。ミンザイか?」
いつもの道に、人だかりができており、ダンボールやブルーシートを拡げた上に、さまざまな商品が並べられたフリマ開催中。
まだ、朝5時を少し回ったくらい。
一体、何時から開かれているんだろうか。開店準備も一度覗いてみたい。
骨董市的な側面もあるのか、
「アレ、入っとる?」
「おお!コッチや!見てくらはる?」
と、上客なのだろうか。地面には並べていない急須?みたいなモノを自転車の前カゴから取り出し、見せている店主。
一見、ガラクタにしか見えなかったが、アンティークだって、目利きでなければガラクタ同然だろう。僕にはその価値はわからない。
おなじみの、ひと山100円の期限切れ弁当惣菜セットも売っていたが、上の画像のように集まった人たちが、
「もう、行かんもんね!わしは!」
「まあ、でもよう考えてみいや‥‥」
と話していて、僕が近づくと、うっとおしそうに話を中断して、軽く睨まれてしまったので、ハイハイハイって感じで後退しました。
今日は、クスリを扱っているショップが多かった。
しゃがみこんで、少し話を聞こうとしたら、ダウンジャケットにマスクをした30代くらいの男性が近づいてきて、
「アンちゃん!何欲しいん?ミンザイか?」
と尋ねてきた。
恥ずかしながら意味がわからなかった。
「ミンザイ」の意味が。
「ベトナムの民族衣装ですか?」
とボケられなかった。悔やまれる。
なので、正直に
「ミンザイって何ですか?」
と聞き返したら、こいつアホなのか!って顔で男性は去っていった。
クスリの説明が聞き取れなかった
このショップの赤い服のオッチャンが1つひとつクスリの説明をしてくれる。
「いっぱいありますね」
「そうよ。アチコチからよ」
「コレは、形でいうと痔ですか?」
「イヤ。コレは腰。腰」
「睡眠薬はあります?」
「あるある!コレなんか、おっきなトコで使っとる、ハナデヒライテニュメニュメモンよ!」
「はあ。いくらですか?」
「50円!」
「一錠?」
「50円!効くよ」
「一錠単位でいいの?」
「それりゃ、あんた!ハナデヒライテニュメニュメモンやから(笑)」
片仮名表記の部分は、なるべく忠実に再現しているのだが、よく聞き取れない。
むずかしい。パッケージを見て、自分で判断できれば良いのだろうが。
そして、自分で発話してみて気付いた。
「ミンザイ」=「睡眠薬」か!
50円なら、数錠買っても良かったが、買ったところで飲む気がしない。
他の所も見てくるわ、と言ってその場を離れる。
歩き始めたら、さっき「ミンザイか?」と話しかけてきた30代くらいの男性が、手に万札を握りしめて、通り過ぎて行った。
「シャブはあかんのやろ?」
明らかに10代と思われる少年少女も、客として「どろぼう市」にはいた。
ビールを飲みながら、赤ら顔のオッチャンが、
「シャブは要らんのやろ?シャブはあかんのやろ?」
と髪を明るい茶色に染めた白いパーカーの少女に話しかけている。
「いらん(笑)!ヤバいのんは要らんわ!」
海賊版かもね
違うショップでは、ドラマ『半沢直樹』の海賊版っぽいDVDを見かける。
とっくに放送、配信されているので、無地DVDに焼いたモノを買う人がいるのが不思議だが、店主のオッチャンは凄く推してくる。
「なんや、知らんけど有名なドラマなんやろ?ええでー」
「へー、コレいくらです?」
「一枚200やけど。五枚いっぺんに買うてくれたら700円でええよ」
「コレ、五枚で完結してるっけ?」
「知らん!中身は知らんで!」
不織布の簡便なケースに入れられた『半沢直樹』のカラーコピー丸出しの紙には「先行版」と書かれていた。
東映映画の後は、松竹を観るのもいいだろう。
地下鉄の駅まで戻っていると、もうこの時間から作業服屋さんは店を開いていた。
日曜日も西成は、働く人々の街。働く人々が消費する街。