ズボンやパンツがこんなに消耗品だと感じたことはなかった。
すべての男は消耗品である©︎村上龍
しかし、ズボンやパンツはいとも容易く破れる。
そんな生活が、西成での暮らし。
もともと、一般的な人々よりも、多めに脂肪を蓄えているので、ズボンやパンツの股ぐらが、多めに蓄えられた脂肪をまとった太ももの接近によって擦れ、ズボンやパンツの当該箇所の生地が薄くなり、破れることは経験してきた。
あと、股ぐら部の縫製の強度ね。どんなことがあっても、盛大に180度開脚を繰り返しても破れることのない生地などない。
(面倒なので、ここからは「ズボンやパンツ」という表記をやめて、「ズボン」で統一する)
西成暮らしで愛用してきたズボン。
何度か、補修を繰り返してきたが、もう限界値。
これ以上、履き続けていたら、睾丸が飛び出した状態で仕事せねばならない。
睾丸が飛び出すことを許容するくらいなら、もうズボンなんて履かなければ良いのである。
破れかけの股ぐら部を、ちまちまと直してきたし、catCさんからバイアステープという便利グッズもご教示いただいたのだが、もう無理。
なので廃棄。
これまで、ありがとう。
もう、君に僕の大切な精巣を預ける訳にはいかない。
(とくに面倒ではないが、ここからは「睾丸」「精巣」という表記をやめて、「金玉」で統一する。しかし、もう二度とそのような部位を指し示す単語は登場しない)
お直しのお店を探す
西成で土工や作業員といった仕事に従事する人々に向けた「お直し」のお店は複数存在する。
ある店舗で働く方は、元西成の日雇い労働者で、体力の衰えを感じ、縫製ミシンの技術を学び店頭に立っておられるそうだ。
技術は人を助く。GHT。
今日は以前店先まで訪れて印象深かった「坂本」さんへ。
三角公園近くの「西村衣料店」で、
定価5,300円→価格修正2,658円+税→叩き売り500円ポッキリ
という価格変動の荒波を乗り越えてきた作業ズボンを購入。
「やっと会えたね」と言いたい。
その足で、動物園前商店街の脇道を入った路地にあるお店へ。
「洗ってこい。とにかく洗って持ってこい」
という注意書きが目立つ。
サラピンの新古ズボンと同時に、もう一本レギュラーで活躍してくれているズボンの膝が破けたので、そちらも「お直し」を求めて持参。
もちろん洗濯してから持参。
引き戸を開けると、正面にカウンターが見え、右手には試着スペース。
お直しが施され、お渡しを待つ衣料が積み上げられた棚の奥には、ミシンのある作業場が見える。
ミシンの手を止めてカウンターまで来てくれた女将さんに、丈直しの旨を告げ、試着スペースで適当な長さにズボンの裾を折り曲げ、渡す。
「どっちに合わせんの(笑)」
ズボンの両裾を折り曲げてしまっていた。
なんという無知。
奥からご主人もあらわれ、笑っている。
「500円。今忙しい時期やから、来週でよろしい?」
さらに、カギ裂きの起こったズボンの補修も依頼。
「ちゃんと洗濯して来ました!」
「ありがとうー(笑)コッチは300円ですね」
作業着の「お直し」 その需要
「服持ってくるのは、やっぱり現場で働いてる人が多いですか?」
「そうね、細かい仕事がぎょうさん。作業着をやるんが多いわね。お客さんも現場に出る人が多いかな」
「忙しそうですね」
「今、季節の変わり目やからね。夏場は暇しとるんよ。今だけ」
訪れたのは10月の終わり。
そろそろ、現場作業でも一枚プラスせねば寒さに負けてしまうような陽気。
「みんな気に入った作業着があるみたいやけど、おんなじ品番はなかなか継続して売ってないから。作業着って、移り変わりが激しいんよ」
預かり証をもらい、数日後に受け取りにくることになった。
次々と来店するオッチャンたち
後日、直しの出来上がりを受け取りに行ったが、僕の前後にも来客が続き、かなりお忙しそうであった。
「おおきに!仕事頑張ってね」
丁寧な匠の仕事で、また現場で痛めつけられるスタンバイ万全のズボンたち。
丈詰をしてもらったズボンをよくよく見たら、赤タグに
FIELD MESSAGE
との印字。
どういう意味だろな。
こういうブランド名なのかな。
どっちにしろ、「働かんと食えんぞ!」というメッセージだとは思う。
どの程度、持ち堪えてくれるかはわからないけれど、まったくもって気が進まないけれど、「お直し」で生まれ変わったズボンでまたせいぜい頑張ります!