暮らす西成~大阪市西成区あいりん地区に潜伏する

住所不定無職。大阪市西成区のあいりん地区で働きながら生きていこうと思います。アンダーカバーか、ミイラ取りがミイラになるか。

西成で暮らす。20日目 「泥VSスライム」

2021年3月20日

 

この土日は連休。
祝日には、西成現金仕事は発生しない。

この連休は、大阪全域に「雨予報」。
とは言え、週末にウーバーイーツをこなさなければ収入がない。

今週いっぱいお世話になった「パークイン」は今日まで。
楽天トラベルのカレンダーを眺めると、「パークイン」は3月最終週は一気に宿泊費が高騰している。そうなれば、ここに泊まることは不可能になるだろう。

 

朝8時には宿を出る。
双肩にかかる重さを噛み締めつつ天満まで移動。
まだ雨は降り出していない。
この間に、稼ぐぞ!
修行するぞ!修行するぞ!

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9時過ぎから23時近くまでウーバーイーツを稼働。
¥14,318也。
時給にすれば¥1,000程度。
天気はなんとか持ってくれた。

淀川越え案件

「淀川」は、琵琶湖から大阪まで連なる一級河川
大阪の梅田周辺でウーバーイーツをやっていると、ときおり配達先が「淀川の先」という案件にぶち当たる。

これはツラい。
確実に4,5kmのロングトリップになるし、何より今日のような天気の悪い日など橋をわたる際に、その横風で自転車が揺さぶられる。
大阪中心部で何件も配達をこなせれば効率がいいのだが、一件でも「淀川越え案件」が巡ってくると、もう心身ともにダメージ。

今日も数件、淀川を超え往復。
途中、3回連続「淀川越え」をして、さすがにダウン。
川っぺりで横になって休憩。
曇天ではあるが、連休の初日。
多くの家族連れがピクニックを楽しんでいた。

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「泥のように」以外にどう表現するのか?

いつもの週末のように「快活CLUB」に入る。
ソフトクリームを舐め舐めしてみる。
人生も舐め舐めしてきながら過ごしてきたから、こんな現状なのだろう。
後ろ向きになってもしょうがない。

夜中までやっている銭湯に行きたかったのだが、もう動きたくない。
風呂にも入っていないおっさんが配達しています。
すみません。

すぐに、フラットシートに横になり、泥のように眠る。

 

泥のように眠る

 

という表現がクリシェであるが、おそらくこれからもこのブログ内で頻出してくるはず。
なんか、他の良い表現ないだろうか?

ここで用いられる「泥」は、砂や土が水分を蓄え、ゲル化していく。
確固として自立していた肉体や精神が、スライムやアメーバのように醜く溶け、その場に投げ出されるという感じだろう。

ならば「スライムのように眠る」でいいのかも知れない。
または、その精神性を考慮して「死んだように眠る」でもいいのかも知れない。
「眠るように死ね」たらいいですね。

おやすみなさい。

言わずと知れた時数稼ぎでした。
申し訳ありません。

 

使った金額

ファミコロ:76円
タレチキ:216円
ちくわパン:149円
じゃがいも心地・ごま油:117円
マクドナルド・ご飯フィッシュ:390円
マクドナルド・倍チーズバーガー:240円
天ぷらうどん:340円
果汁グミ・いちご:95円
果汁グミ・ぶどう:95円
クーリッシュ・ベルギーチョコレート:95円
ライフガードグミ:214円(二個分)
ヨーグルト&カルピス:80円
ココナッツミルク:110円
烏龍茶:151円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:800円(二個分)

 

所持金

12,285円

 

西成で暮らす。19日目 「システムの間隙」

2021年3月19日。

3時にスマホのアラームをセットしていたのだが、その前にM君からLINEに入電。
すでに、仕事待ちを始めているという。

慌てて、顔も洗わずに出奔。
歯は磨くべきだった。この一回が歯をボロボロにするのだ、きっと。

 

いつものゾーンで立ちんぼ&聞きこみをし、しばし待ちの姿勢でいると、手配師の方から声をかけられた。
どの人が手配師なのか、仕事探してる人なのか、判別しにくいんですよね。

「君ら2人じゃないとあかんの?」

「いえ、大丈夫です!別々でも」

「解体なんやけど、現場の経験ある?」

「彼は現場の経験あります!」

M君の方を促す。
その後の交渉で、M君は無事今日の現場を得た。

「1人しか空きないねん。悪いね」

手配師からねぎらってもらう。

 

「行ってらっしゃい!またね」

M君の後ろ姿を見送る。

 

ホッとした。
3000円しか手持ちがなく、明日の宿も決まっていないM君を路頭に迷わすわけにはいかなかった。
なんとなく責任を果たした気分。

その後、5時近くまで粘ってみたが、仕事は得られず。
実際、連投できる気がしていなかったのだが。

切り替えウーバー

宿に戻り、二度寝かまし天満に戻り、ウーバーイーツに興じる。
「興じる」っていう表現が適してるんだよなぁ、ウーバーは。
恐怖も、大きな疲労も、ない。
労働の質が違う。

13時〜21時まで稼働し、¥6,768。

 

ウーバーイーツは現金受け取りもできるのだが、その際には手持ちにお釣りを用意しておかねばならない。
やりとりも煩雑で、いつもお釣りの計算にテンパってしまうし、何より余分な現金はない。
よって「現金扱い」はやめている。
体感としては、「現金扱い」をすれば配達注文は3割程度増えるように思う。

「現金扱い」をしておらず、すでにお客がウーバーイーツアプリ上でクレジットや電子マネーで決済を済ませていれば、

「置き配」

というパターンが多くなる。
これならば、客の玄関先に商品をおいて来るだけで配達が完了する。

「置き紙」問題

注文が入り、商品を受け取りに飲食店に行くと商品を渡されるわけだが、その際、ビニール袋などに入れられておらず、紙袋のまま渡されることも多い。

「置き配」の際には、客先の玄関先の地面にそのまま商品を置くことになる。
「食べ物を地面に…」
このシステムには当初から抵抗があった。

こういう感じである。

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お客の中にも抵抗を感じる人はおり、配達メモに以下のような注意書きをし、「置き台」を用意する方もいる。

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そこでプロウーバーイーツァーとしての僕は、自主的に「置き紙」を導入している。

他の配達員の方でも、「置き紙」をされている方は多いようだ。
こういう感じである。

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みんなの味方100均「ダイソー」で色紙を買って、商品の下に置くことにしている。
まぁ、ムダなサービスかも知れないが、ウーバーイーツ運営本体はシステムを提供してくれるだけなので、配達員それぞれの K・U・F・U©️ライムスター が求められるわけだ。

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人は大きなシステムに準じて、従って生きていることがほとんどだ。
しかし、そのシステムに瑕瑾や綻びがあれば、それを糾し改善できる部分には個人が手を入れていかねばならない。

西成現金仕事も、大きなシステムの中でそこに従って、仕事を探し、一日働き、現ナマをもらう。このシステムに矛盾を感じれば、より良き更新がなされて欲しいし、そうなるように変えていかねばならないはずだ。 
単純に、3時起きとかはなぁ、勘弁して欲しいわけです。

 

何より、プロウーバーイーツァーとか言う前に、「プロ西成仕事人」になれ!という話。
精進します。

励ましのお便りに陰りが…

今週もブログを読んでくださっている方から、リアルなお葉書を頂戴した。

ありがとうございます!

しかし、明らかに一通目と比べてテンションが低かった。
その低みは、当然僕のブログの内容、面白さと比例しているわけで。
しっかりせねばならん。沈痛。

誰にも見向きされなくなったら、おしまい。
逃げて行く先なんてどこにもない。

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ウーバーイーツの途中、見かけた閻魔堂。

そこにあった言葉が身に沁みる。
「置き紙」を自主的に行う精神を維持して行きたい、と思う。
「情けは人の為ならず」結局自分に返ってくるはずだ。

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使った金額

ハッシュドポテト:97円
ロングデニッシュ:127円
ソーセージマフィン:110円
マヨメンチドーナツ:110円
とろ〜りチーズタマゴコッペ:95円
白身魚フライ:95円
チキムネ:117円
プリングルス・フィッシュ&チップス:117円
キットカットメロン:75円
飲むフルーツポンチゼリー:95円
かむかむマスカット:54円
かむかむ白桃:54円
パピコ・地中海レモン:64円
マイルドいちごオーレ:106円
まほうのラムネ:126円(三個分)
フルーツオ・レ:100円
すばらしい烏龍茶:100円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:570円

所持金

15,453円

 

西成で暮らす。18日目 ②「福岡からの来訪者」

2021年3月18日。②

 

 前回からのつづきです。

nishinari-lives.com

 

本当に良くしてもらった。
腕はもう上がらないけれど。

また、会えたらお願いします!

監督さんと職人さんに別れを告げ、事務所まで送ってくれるという社長さんの車に乗り込む。
この場で現金を貰えないようだ。
また1時間かけて事務所に戻る必要がある。

 

すぐそばのコンビニで車を停めた社長さんが、

「なんか飲む?」

「ああ、麦茶でお願いします」

「麦?ビールじゃなくて?」

麦芽いらないです(笑)。お茶で大丈夫です!」

「気にせんでエエんよ。酒でもいいし」

 

お茶を買ってもらい、飲みながらの車中。

「慣れん仕事で疲れたでしょう?」

「いえ、ご迷惑おかけしました。でも、みなさんに優しく接してもらったので有り難かったです」

「ウチはいつもあんな感じよ。よく隣の現場で怒鳴っとる人もおるけどね。そんな雰囲気はつまらんでしょ?」

「ありがとうございます。なんか歳取って、優しくされると泣いちゃうんですよね…」

「いくつ?」

「46です」

なんか車内がしんみりしてしまいました。
失敗。後悔。

 

「私がこの仕事始めた頃はねぇ。先輩が仕事終わった瞬間に、カップ酒開けて飲んどった(笑)。そんな人ばっかりやったねぇ」

「次、来た時はチューハイ買ってもらいます!」

「次」なんていつ来るか、わからないのだけれど。

渋滞にハマる

帰路、大規模な渋滞にハマりこんでほとんど前に進まない。
結局、19時半までかかってしまった。
しかも、ここから西成までの交通費は自分持ち。
いい事ばかりはありゃしない。

事務所に装備品を返し、近隣の地下鉄駅まで送ってもらう。
降りぎわ、

「遅くなったから、コレ。なんか食べて」

と事務所の人から1000円札をもらう。
今日の報酬自体は¥10,000。プラス¥1,000。朝、カリスマ手配師から得た¥100。昼、お釣りを浅ましくガメた¥300。
となった。

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M君と出会う

そして、ここで意外な展開をお伝えしたい。

このブログと連動させてtwitterも更新している。

内容としては、はてなブログをあげた際にお知らせするだけ。貧弱なアカウント。

twitter.com

 

そんな僕のtwitterアカウントに今月の始めにDMが届くようになった。

彼は福岡に住んでおり、「西成で働く」ことを考えているという。

「西成 日雇い」などのキーワード検索で、下ーーーーの方に僕のこのブログがあり、覗いてくれたよう。確かにリアルタイムで「西成での仕事の仕方」や「西成の仕事の現状」を発信しているものは少ないんだろう。

DMでのやりとりを続けていると、「収入が11万/月」しかなく、「現場仕事の経験」があり、「年齢は21歳!!」。確かもうすぐ22歳なのかな、おめでとうございます!なんもお祝いできないけども。。

「仕事は毎日ありますか?」

と問われ、

「ありますよー。西成来るのならご案内しますよー」

と安直に返答していたのだが、ここ最近は仕事にあぶれることも増えている。
なんと言っても若いし、わざわざ西成くんだりまでやって来て仕事をする必要もないだろうから、そのことを伝えつつも、この異界、このとっても変わった街を訪れてみるのは貴重な体験かも知れない、と思った。僕が若く、そのエネルギーを持て余していれば、行ってみよう!と考えたかも知れない。

そして、ブログのネタになるかも!
という姑息な考えがあったのも紛れもなく事実。
こすい46歳。ごめんなさい。反面教師でしかない。クズ。

 

そんなに早急にコトが運ぶとは思っていなかったのだが、DMでのやりとりを始めて2週間ほど。彼は高速バスでわずかな現金を握りしめ、西成にやってくると言う。
それが、今日であった。

彼はもう西成に到着し、宿も取っているという。
20時過ぎに初対面することにする。

 

彼の投宿先の前で挨拶を交わす。
M君は、髪を金色に染め、180センチ以上の長身痩躯。スタイルも良く、アメリカ村にたむろしている若者と見た目は何も変わらない。切れ長の瞳で、爽やかな好青年という印象。

「もう3000円しか手持ちないんで、明日働かなきゃヤバいです」

一緒に、早朝仕事探しゾーンに行き説明。
その後、三角公園に行き缶チューハイで乾杯。

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「西成で稼いでやる」

その後、2時間ほど話す。

「一本道を渡ってあいりん地区に入ると、空気が変わりますね。どんよりしてます(笑)」

その感覚は全く正しい。
この場所に漂う独特の色味、独特の匂い(実際のスメルというよりは、感覚的なものだが)は他の街にはない。

「一度来てみたかったんですけど、思い切って。バスの中からずっと不安でした」

 
西成に2,3ヶ月逗留し金を貯めたいこと。
どの職場でも、いつも人間関係で悩んでいたこと。

 

M君はあけすけに自分のことを話してくれた。
明日は、3時には一緒に仕事探しを始める約束を交わす。
現場仕事の経験もあり、若いM君ならば、きっと仕事にありつける。
そうでないと、少なくとも僕の情報を頼りに来てくれた彼に申し訳が立たない。
僕はこの時点で、明日も働ける体力ゼロでしたが…。

特に大阪の若い連中が行くような場所には興味がないようだが、大阪の腕の立つ彫り師は訪ねてみたいという。興味の対象が違うなぁ。
僕もやり直したい。
もちろん、やり直すためにココにいるんだ、僕も。
そう、勇気をもらった。

 

途中、

「なんか他に聞きたいことある?」

と口に出してしまい、直後に自己嫌悪。
「西成に来て、まだ数回しか現場に入っていないし、体力が追いつかずに全く稼げない中年だけど、西成のことなんでも聞いてよ!」
みたいなスレに何を聞きに来るというのか?アホ。

先輩風吹かして、実が伴っていない。

同類のプオタであることが判明したので、少しプロレス周りの話もしたが、UWF前田日明も通じなかった。ジジイは去るのみ。

夜風が冷たくなってきたが、あっという間に2時間が過ぎた。
M君を宿まで送り、明日の再会を誓う。

 

 

自分の宿「パークイン」まで帰る途中、夕飯を買いにコンビニへ 。
歩きすがら買い食いしていたら、ホットサンドツナチェダーチーズを半分道に落としてしまう。

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何にもいい事ないぞ。

 

スコップを握りしめて出来たマメが潰れて痛く、皮を剥がしてしまう。
剥がしすぎて、血がにじむ。

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もう寝よう。

M君!ようこそ西成へ。 

 

仕事内容
日付:2021/3/18(木)
場所:大阪市
現場:更地
内容:土壌改良・乾式柱状改良
時間:4:05~16:45
待遇:朝昼飯アリ
給与:¥10,000

西成で得た金額
10,000円+1,000円+300円+100円

使った金額
交通費:300円
ハッシュドポテト:97円
ホットサンドツナチェダーチーズ:321円
つぶグミ濃厚オレンジ:194円
微糖アイスティー:100円
コカコーラゼロ:160円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:800円(二箱)

所持金

17,665円

 

西成で暮らす。18日目 ①「ズブの素人」

2021年3月18日。①

午前3時半に準備をして、宿を出る。
とっておきの情報ですが、起きぬけに「歯を磨く」と目が覚めやすいです。
スーッとして爽快感があり、かつ身体の根幹である歯の健康も保てます。
歯だけは大事にせんさいや!きっとやで。
と言っても、歯をしっかり磨いたところで、現金仕事がなけりゃ、ムダ磨きになる。
いや、ムダ磨きなんてない!人生は常に自分を磨くことで続いていく。

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「どろぼう市」は平日の朝も、いくらか開催されている。
おなじみのコンビニ廃棄弁当をひと山¥100セール特価の露点は毎日出るなぁ。

 

nishinari-lives.com

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手配師の数は少なく、時おりやって来る車のドライバーに声をかけても、フラレまくる。

しかし、拾う神あり
「死して屍拾う者無し」『大江戸捜査網』で聞いてましたけど、これはどういう意味ですか?
もう、頭もバカになってきています。

 

以前、解体の仕事を手配してくれたおっちゃんに声をかけた所、

「あんた、この前解体行ってくれた子やな」

「ああー、覚えてくれてたんですか?そうです。今日もお願いしたいんですが…」

「そこ名前書いて!あの車な」

前回の過酷な仕事内容が蘇る。

「同じ会社ですかね??」

「いや、今日は違う所やな」

ホッとする。
あの会社、あの現場はツラかった。

nishinari-lives.com

nishinari-lives.com

 

待ち時間。自慢する人

前回のようにカリスマ手配師であるおっちゃんが、「何か飲んで」と100円玉を渡してくれる。
この後、朝飯を食えるはずだ。100円玉はしっかり握りしめ、すでに5人がギュウギュウに詰め込まれたバンに乗り込む。遅れて、1人を追加招集し、車は30分ほど離れた寮付きの事務所へ。

荷物を下ろす時に、同乗してきた20代くらいの青年に「最近、仕事あります」と尋ねられる。
「なかなか無いんですよ」と答えると、彼も「僕も去年、3ヶ月ほど来てて、その時は毎日仕事あったんですけど、今は厳しいですね」と話していた。

 

ソファとテーブル、灰皿が置かれた待機場所でタバコに火を点けると、
「食事の用意できました」
と調理担当の方が扉を開け、皆でゾロゾロと食堂へ。
昼飯の弁当を確保し、卵がけご飯とワカメ&麩の味噌汁。おかずのたぐいは無い。貧弱な朝飯。けれど、美味かった。
いつもここで、おかわりをしようかなぁ、と刹那考えるのだが、空きっ腹に大量にぶち込んで数時間後に始まる仕事で動けないことを想像し、やめている。

 

待機場所に戻って壁掛け時計を見ると、まだ5時前。

待ち。
ムダだなぁ…。今、歯磨きたい気分。

テーブルを囲んでいる1人のおっちゃんは、

「もう、ここんところ10日仕事無かったんやわ。もう今日無かったら、おしまいやった」

「そうですよね。僕も久々です」

「この前なんかな、姫路の方の現場に飛ばされて。電車代が1700円よ。昼飯も付かんかったから、1万もろても何も残らんかったわ」

「そんな現場もあるんですね…」

いい話聞かねぇな!景気のいい話聞きてぇな!

 

と、1人の手練れ感溢れるおっちゃんが、

「そーう?俺なんか毎日入っとるで!引く手あまたや!」

ほー。そうですか。

「仕事できる人間には仕事は来る!そういうもんやでこの世界」

ほー。そうなんですね。

「昨日なんかな、コンクリ打ち行ったら、俺以外みんななんも仕事出来よらへん。ズブの素人ばっかり!なんぎしたで、使えん奴は家で寝とれ!ちゅーねん!」

ほー。かくいう僕もズブズブの素人ですがね。


ほー。そんなに仕事が出来るなら、なんで西成で現金仕事されているんですか?
誰でも受け入れてくれる入り口のおおらかさを頼って西成に居る、使えない素人もいるんです。それでも、めいっぱい身体を捧げることで、食い扶持を得ようと早起きしてる。
どこの世界にも、テメエの武勇伝や自慢話を開陳して悦に入る人はいる。
悪いが、関わりたくない。

その後も、西成の仕事事情などペラペラとのたまっていたが、僕はソファに移動し少し眠った。

途中、「あそこの会社の番頭が、ポン中で自殺した」という西成ペーソス漂う話が聞こえてきた。会社の社長に続く存在として、職人や作業員を差配する人物は「番頭」と称されるよう。僕らは「丁稚」か。随分、とうが立ったご奉公。

 

1人で現場へ

西成で拾われた一群は、全員で同じ現場へ行くわけではないようで、僕は1人現場となった。

「竹下さんは、6:20に、この会社の車が来ますから」

「どんな仕事でしょうね?」

「まあ、雑工ですわ」

 

ざっこう」か…。また、新たな肩書が増えた。
名刺作ろう。そこにはこう書こう。


「私は、日雇い作業員であり、土工であり、雑工でもあります。なんの技術もないズブズブズブズブのトーシロでしかありません」

 

番頭さんから、安全帯を渡されたが付け方わかんねーな。
現場で「付けろ!」って言われたら、付けてみよう。ズブの素人だから、わからない。
結果、必要はなかったのだが。

 

待機場所から、事務所に面した道路まで出て呼び出しを待っていると6時半を回って、重機を載せた迎えの車が来た。

フランクな監督さんでホッとする

今日の監督さんの運転で現場まで1時間ほどかけて移動。

車内では、デスクワークの仕事を辞めて、西成で暮らしていること、故郷のことなど話す。
大変話しやすい方で、

「慣れていないので、なんせズブの素人なので、ご迷惑おかけすると思います」

と話すと、今日の現場の作業内容、注意点など丁寧に教えてくれる。
身体のキツさは承知の上だが、監督の人柄が高圧的だと、より仕事は厳しく感じる。
今日は、その点アタリかも知れない。ありがたい。

土壌を改良する。スコップを振るう

現場まで行く道すがら、高速道路から見た店舗「買取マックス」の買取品目が「DVD」と「釣具」であるのを見て驚かされる。買取マックスはエロDVDと釣り用品を扱いだしたんですね。
釣りとエロとの親和性。
そういえば、福岡の知人はとてつもなくエロい人で、かつ釣り好きだ。また、いつか釣りでも行きたい。その時は、買取マックスにも行こう。

 

現場でユンボを載せた車を運転してきた青年と合流。

その一角では、新築の住宅が次々と建築中。
まだ更地である場所が今日の作業ば、雑工の活躍ゾーン。

測量や掘削地点の確認作業を手伝い、周囲の物件に影響が及ばぬよう金属のポールを立て、シートを張り養生する。
名前は初めて知ったのだが、「アースオーガー」と呼ばれる掘削する重機で地面を掘り起こし、セメント剤を混ぜ込み、土壌を改良する作業。

アースオーガー
はこんな重機。

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なんか背後で爆発が見られるなぁ。
ドリルスクリューで地面をブリブリ掘っていく。

映画『パシフィック・リム』の「イェーガー」を思わせないこともないことはない。「ー」=棒引きが入ると、その名称は「強そう」な感が出る。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』とか。この場合は「デ」の力か。

 

僕は、掘られた穴から出た土とセメントを混ぜながら、穴を埋めていく。スコップを振るって。ひたすら、掘る→埋める。繰り返し。
すぐに上着を脱ぎ、昨日買ったエアリズム一枚で作業する。
汗がしとどに出る。

監督さんは、「竹下さん!はい、埋めてー」「竹下さん!そっち回ってー」と朝に車中で感じた印象そのままに優しく指導してくれる。

何より、名前を覚えてくれ、呼称してくれることが嬉しい。
下っ端の下っ端、ズブズブズーブズブブブブブタヤロウである僕だが名前はある。
我輩は雑工である、名前は一応ある。
日雇い労働者である僕に礼節を持って接してくれることが嬉しかった。

休憩はなかったが昼に入ると1000円札を渡してくれ、

「これで2人でなんか買って!」

と言ってくれる。
もう1人ユンボ使いの20代の青年とコンビニに行き、お釣りを返そうとすると、

「何?とっておきーや」

と、また返される。¥300円ゲット!
なんてさもしい私。

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乾式柱状改良とは?

この作業は、「乾式柱状改良」と呼ばれるようだ。

www.jiban-ds.co.jp

なんでも名前ってあります。
キチンと名前で呼んであげよう!
なぜなら、嬉しいから!

「これ以外にも土壌改良の仕方ってあるんですか?」

「『湿式』もあるよ」

なるほど。乾と湿はセット。

 

わずか30坪の土地だが、何箇所も穴を空ける。
掘り起こされる土は、1メートルも離れていないのにまったく質が異なっている。
サラサラだった土が、すぐ隣では一気に粘土質になる。
学生時代、同じ2年生なのに、突然2年4組だけカワイイ子が固まっているケースがありますよね。あの感じです。

 

そして、この粘土質の土が重たい!
剣先スコップが粘土にめり込んで、ひとすくいが一気に重たくなる。
カワイイ子は重たい。遠くから見ているくらいがちょうど良い。

「また来てくださいよ」

3時の休憩時間には、

「竹下さん頑張っとるね!また、来てくださいよ」

と言ってもらえた。
しかし、たまさか又同じ会社に拾われたとしても、どこの現場に回されるのかは直前までわからない。

「ありがとうございます!けど、僕には選べないですもんね」

「そうやわな。また、いつか当たったらになってまうなぁ」

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4時過ぎには、掘削作業は終わり。

片付け作業や掃除に移行。
その際には、「竹下さん!これ覚えといてー」と言われ動いた。けれど、本当に再度このメンバーの現場に来られる確率は極めて低い。残念だが、そして後腐れのなさが西成現金仕事の利点でもあるだろう。

 

以降、西成で暮らす18日目②に続きます。

 

西成で暮らす。17日目 「連日フラれる」

2021年3月17日。

今日こそは働かねばならない!
不味いよ、これは不味い状況ですよー。

3時過ぎに宿を出て、いつものゾーンへ。
いくらか手配師の姿はあるが…、

「あー、ないわー」

と眼前で手を横に振られる。
その連続。

 

「今日も、ダメなのかなぁー」
ボーッと立ちんぼしていると、あいりんセンターの敷地内にいた猫と目が合う。

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すると、手配師の方に話しかけられた!

「この猫いっつもおるんや。人がおるとな、出てきて、コッチの顔色伺っとる」

「なんか貰えると思うんでしょうかね?」

「そうかもな。上手く行きとるで、なぁ(笑)」

「そうですね。…ところで、現金仕事ないですか?」

「ないねん!ゴメンな!」

トークをしただけであった。

 

今日も現金仕事はなかった。

 

5時過ぎに宿に戻り、フテ寝。
なんか昨日のデジャブだな。
ようやく、少しずつだが、肉体労働へ順応しつつあるのにこれでは、また身体が頼りないデブのソレに逆戻りしてしまう。

10時ごろ、外に出て自転車で2時間ほど当てもなく走る。
途中、歩道橋の階段を何度か往復し、汗をかく。
まだ少し寒い3月の陽気に、ふと焼き芋の甘い匂いが漂ってきてクラクラする。
働かざるもの食うべからず。これは守る。

 

ユニクロに寄り、エアリズムの長袖シャツを買う。
もう、仕事中は暑いくらいだろうから、上着を脱いでこのシャツで働こう。
仕事があれば、だが。

 

ダイソーに寄り、針と糸を買う。
こんなに要らないけれど、仕方がない。

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僕のようなデブは、太ももが擦れて、ズボンは股ぐらから傷んでくる。

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擦れて、破れかかった部分を糸で縫い付け補修。
これで、もう少しこの作業用ズボンも、もってくれるだろう。
仕事があれば、だが。

こんな時には、西成の面白スポットを探索すべきだとは、頭では思うのだが、何もかも面倒臭く感じてしまう。
夕方になって、昨日電話した手配師から連絡があるかも!という淡い期待を抱いていたが、そんな吉報はなかった。

 

さして汚れても、傷んでもいない身体を風呂場で洗い流す前に、布団の上で
腹筋運動・腕立て伏せ・スクワットを各30回ずつ行う。
少しでも、肉体労働に耐えうる身体を維持しておかねばならない。

 

外が暗くなってからは、ただただ古いメールを削除していた。
2時間くらいか。
途中、大切なメールも削除してしまったが、もう特に大切なものなんてないような気もする。
きっと死んだ魚のような眼差しだったに違いない。

 

今日も、明日のために早めに床に就く。
けれど、明日、仕事があるとは限らない。

使った金額

エアリズム コットンUVカットクルーTシャツ:1500円
手ぬい針(厚地用8本):110円
綿手ぬい糸 白:110円
タバコ・アメリカンスピリットメンソール9mm:570円

  

所持金

8,237円

 

西成で暮らす。16日目 「仕事がない」

2021年3月16日。

午前4時前に起き、今日の現金仕事を得ようと「パークイン」を発つ。

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しかし、明らかに手配師の数が少ない

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手当たり次第に、声をかけてみるが、

「今日はもう無いわー」

「もう、決まっとるんよ」

「ごめんな。また、よろしく」

とすげなく断られる。
5時近くまで粘ってみたが、仕事はなかった。

 

宿に戻り、ふて寝。
よく眠れた。

3時間ほどして、目が覚める。

日雇い労働で暮らしていこうとする身にとって「仕事が得られない」ことほど、切ないことはない。
タバコに火を点け、どこに向けて良いのかわからない無念さとやり切れなさに包まれる。

「無理なんだろうか…」

己の体力の無さに落胆する毎日を想像していたのだが、働けない日々がやって来るとは思っていなかった。
授業をサボった大学生のような気分で、ブログを書き、読書をして過ごした。
万年床に横になり、鈍い光を放つ蛍光灯を眺めるだけの時間が過ぎていく。

 

夕方になり、以前現金仕事をし、連絡先を貰っていた業者に電話をしてみた。

「明日は、暇なんよ。また、仕事あったらコッチから連絡するわ!」

「無いねぇ。はい、すみません」

どの会社の返事も芳しくなく、明日の仕事の確証も得られなかった。

タバコを買い足しに行くこともなく、絶無の1日が終わった。

使った金額
ナシ

 

 

所持金

10,527円